'07/04/02の朝刊記事から
MRSA 「市中型」感染で死亡
国内初、関東の1歳児
院内感染でなく、地域や学校での広がりが懸念される「市中型」のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のうち、強毒性の菌に感染した関東地方の1歳男児が昨年、重い肺炎を起こして死亡していたことが1日、分かった。
市中型MRSAは欧米などで問題化しているが、日本で市中型による死亡例が確認されたのは初めて。
専門家は「市中型の中でも強毒菌はまれで、過剰に心配する必要はないが、感染の拡大に備え監視を強めていく必要がある」としている。
男児の治療に当った北里大病院(神奈川県相模原市)によると、男児は発熱やせきなどの症状で別の総合病院を最初に受診、肺炎と診断された。
その後北里大病院に入院し、抗生物質の投与などの治療を受けたが容体が悪化。
入院から約10日後に死亡、血液などからMRSAが検出された。
男児にはそれまで入院の経験はなく、菌の遺伝子構造も病院外で感染を広げる市中型と一致。
さらに、白血球を壊す毒素を作る強毒菌だったことも判明した。
具体的な感染経路は不明という。
北里大病院小児科の坂東由紀講師は「MRSAに市中型があること自体は知られているが、今回のような強毒菌に遭遇したのは初めて。医療現場でもほとんど認識されておらず、注意喚起していきたい」と話している。
MRSAはこれまで、入院患者に広がる院内感染の代表的な原因菌として知られてきたが、近年は病院外での感染も懸念されている。
スポーツや集団生活を通じた皮膚接触により感染する可能性があるとされる。
国内で検出される市中型MRSAは、通常は感染しても皮膚に炎症ができる程度だが、強毒菌による重症例もこれまでに数例報告されている。
拡大には警戒必要
MRSAに詳しい山本達男・新潟大大学院教授(細菌学)の話
MRSAには院内感染型と市中・強毒型、市中・弱毒型の3種類があり、遺伝子のタイプがそれぞれ異なる。
世界的に大きな問題になっているのは市中・強毒型だが、日本で見つかるのは市中・弱毒型がほとんど。
今回のような市中・強毒型はまれで、過剰に心配する必要はない。
ただ、強毒か弱毒かは別にして市中型の広がりは十分警戒する必要があり、薬剤耐性の状況など実態把握を進めるべきだ。
MRSA
メチシリンやセフェムなどの抗生物質に耐性をもつようになった黄色ブドウ球菌。
1961年に発見された。
従来、手術後など抵抗力が弱い患者が感染すると死亡することもあり、院内感染の代表菌とされてきた。
近年は院内感染型のほかに遺伝子タイプが異なる市中型の広がりが懸念されている。
市中型の中でも、白血球を壊す毒素をつくる強毒菌に感染し肺炎などを引き起こすと、治療が困難となる場合もある。