高級ピアノ「スタインウェイ」身売り 米投資ファンドに
朝日新聞2013年7月2日(火)12:42
【ニューヨーク=畑中徹】コンサートホールで使われる高級ピアノなどで知られる楽器メーカー「スタインウェイ・ミュージカル・インスツルメンツ」(SMI)は1日、米投資ファンドのコールバーグへの身売りで合意した、と発表した。総額は4億3800万ドル(約440億円)。
買収の手続きは9月末までに完了する。買収後は、非上場会社となり、コールバーグのもとで事業再建をめざす。非上場化により、株主の意向に左右されずに経営改革をめざしていく。
SMIの傘下には、高級ピアノで有名な1853年創業の「スタインウェイ・アンド・サンズ」がある。SMIはこのほか、トランペットやサックスといった楽器の製造や販売も手がけている。とくにピアノは、巨匠ホロビッツをはじめ、ビリー・ジョエル、ハリー・コニック・ジュニアなど、愛用するアーティストが多いことで知られる。
☆ 経済のことはよくわからないけれど、音楽家の私は「スタインウエイ」ときくと、すばやく反応する。
すっとあこがれ続けた世界最高級のピアノ、とても購入などできる値段ではないが・・・。
演奏会場にスタインウエイがあると必ずそれを迷わずに選んだ。
そして私にとって忘れられないのは、世界的ピアニストのホロヴィッツが亡くなった後のことだった。
スタインウエイの会社から「ホロヴィッツの愛用したピアノを試弾にどうぞ」というお誘いがあった。
もちろん、私だけでなく多くの音楽家に声をかけたのだろう。
喜び勇んで行くと、会場はガランとしていた。
もしかしたらしつこく「スタインウエイ」の購入を迫られると思ったのかも。
小さなピアノでも1000万円以上するのだから、私は絶対に買えない、何とセールスされても小さなスタインウエイであっても買えない。
ホロヴィッツの愛用のピアノ、彼は自分のピアノを持参で世界中を演奏旅行したのだった。
ポッリーニもそうだけれど「会場備え付けのピアノ」ではダメだったのだろう。
ホロヴィッツのピアノは鍵盤が少し手前に反っているように思えた。
彼が弾きやすいように細工されているとは知っていた。
指を置くだけで豊かな音が響く。
「ああ、これをホロヴィッツは弾いていたんだ」と思うと、畏れ多くて途中で弾くのをやめた。
本来の弾き手でないのが弾くというのはピアノも泣いているだろう、と思った。
そして係員が「もういいのですか?」と言う。
「なんだか畏れ多くて・・・」と答え、係は新品のピアノを紹介した。
演奏会場に備え付けのピアノもスタインウエイだった・・・でも違うのだ。
スタインウエイは熟練職人の手作りといわれる。
大量生産はできないし、職人の腕によってもお値段は違うのでしょう。
私は今でもグランドピアノを持っていない。
父が昔、かなり無理をして買ってくれたヤマハのアップライト(縦型)ピアノ、それだけである。
ピアノを磨いていたら、裏に「お届け先」として住所と父の名を書いた紙が貼ってあった。
私にとってこのピアノほど大切なものはない。
成人してから自分で買ったのはスズキのヴァイオリンだった。
今はケースに入れて立てかけてある。震災からは弾いていない。