井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

筋肉質はほめ言葉?

2010-05-03 15:02:19 | ヴァイオリン

一般的に筋肉質と言えばほめ言葉なのではないかと思う。体を鍛えるのも良いことと考えるのが常識だ。

あるオーケストラに所属するオーボエ奏者が、その常識に従って筋肉トレーニングをしていた。が、ある日、それを止めてしまった。なぜか?

音が硬くなってしまったからだそうだ。ふくよかな音が出なくなってしまったとのこと。

以前から、ヴァイオリニストは太っている人の方が良い音が出ると思っていたし、仲間内でもそんな話を時々したものだ。オイストラフ、スターン、パールマン・・・。

「そんなことはない!」と、かなりスリムな我が師匠(III)、「ミルスタインだって・・・」

居並ぶ弟子共に、しばし沈黙が訪れる。だって誰一人ミルスタインを見る機会なかったもん。今と違って映像は出回っていないし。そりゃ先生は至近距離でお話したりアドバイスを受けたりしたと、もれ伺っておりますが・・・。

これとは別に、すぐに思い出したことがある。昔、管楽器に定評のあるオーケストラがあって、そこの管楽器奏者は見事に太っていた。一方、弦楽器奏者は申し合わせたように痩せていた。

当時は、「やはり弦楽器は音符が多いからエネルギーをたくさん使うんだよ」と思っていた。

その考え方は今でも否定はしない。しかし、考えもしなかった落とし穴を見つけた気分だ。

ふくよかな、と表現したが、それは「いい音」として認識されている音のこと。では「いい音」とは何か?

物理的な表現をすれば、「低次倍音が、ある程度存在して、高次倍音がカットされた音」のことを「いい音」というようである。俗に言う「豊かな倍音を伴って云々」という表現は、あまり正確ではない。本当に豊かな倍音を伴っているのは金管楽器やシンバルの類で、いわゆる金属的な音を指す。

高次倍音とは、この場合耳に聞こえるか聞こえないかくらいの高い音のことを指している。これは人間の「悲鳴」に結構含まれている。つまり非常時に強調される音であり、心地よく聞こえては困る音である。不快が当然なので、「いい音」とは「快い音」、つまりその悲鳴成分が含まれない音を言うようだ。(ようだ、というのは実験して確かめた訳ではないからである。)

弦楽器の場合は、まず左指に脂肪が多くついていると、高次倍音が吸収される。ビブラートをかける、駒から離して弾く、ハイ・ポジションで弾く、いずれも倍音が減る。

そこまでは学生の時から知っていたが、からだ本体になると人体実験になるから、そうそう知り得る話ではない。期せずして、実験の結果を知った訳だ。

そうかぁ。牛肉でも霜降りがおいしいけれど、人体でも脂肪が高次倍音を吸収してくれて、いい音になるのか・・・。その断定は医者と物理学者が協力しないとできないけれど、仮説としては、かなり納得してしまう部分が大きい。

日本人も、かつてに比べて随分脂肪が身についた人が増えているように思う。おいしい音が歩いている。日本も「豊か」になった、ということかな。