井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

ヴァイオリン的にはOK、ピアノ的にはNG

2012-03-10 00:19:54 | ヴァイオリン

ヴァイオリンを弾く人はピアノを弾く人に比べてリズムに弱い人が多い。

それは楽器の特性に由来すると長年思ってきた。

ピアノでリズムをとるのは上から下に指を動かす動作である。下から上ではないし、腕を左右に動かす訳でもない。

木管楽器は息を吹き込むことと、指を押さえること、この二つの組み合わせでリズムをとる。金管楽器はトロンボーン以外は似たようなところ、トロンボーンは指ではなく腕を動かす。

さて、弦楽器は左の指を押さえる動作と弓を動かす動作の組み合わせである。と言うと木管楽器に近いような表現になっているが、弓は下げても(ダウン)上げても(アップ)音が出るため、リズムをとるのは指の下方向、弓の上方向と下方向、計三つの動作の組み合わせになる訳だ。

木管楽器がハーモニカのように吸っても音が出るのならば、ちょうど弦楽器と同じと言えるのだが、もちろんそうではない。三つの方向を統御してリズムをとるのだから、なかなか難しい。だから弦楽器奏者にはリズムに弱い人が多い、と思った訳だ。

この考え方が間違っているとは思わないのだが、ある日、子供さんのヴァイオリンレッスンを傍で見ていて、それだけではない別のことに気付いたのである。

ある曲をあるお子さんが弾いていて、イントネーションもそれなりに良く、音色的にも悪くなかった。「よくできました」とヴァイオリンの先生共々思ったのだが・・・

実は、各フレーズの最後の音符、長さは正確ではなかったのである。ある時は長く、ある時は短く・・・

これがヴァイオリン弾きからすると、ほとんど気にならない、というのが新発見だった。初心者を見る時、ヴァイオリン弾きが常に気にしているのは、「きれいな音が出ているか」(そのために弓が正しく使えているか)、そして「音の高さは正しいか」、これがほとんどで、音の長さは二の次なのである。

私もいつもだったら見逃していたかもしれない。見逃さなかったのは、そばに「ピアノの先生」がいらしたからである。その上、そのピアノの先生からは「どうもこのお子さんは音価を正確に数えることができないのではないか」という目で見られていたのを知っていた。

その視点に立つと、そのお子さんはまだまだ弾けていないことになるのだ。

ピアノは伴奏声部も自分で弾くから、フレーズの末尾が長かったり短かったりしていては音楽にならない。初心者の段階で、そのあたりは結構修正されるだろう。

一方、ヴァイオリンの場合は、そのあたりはおおらかに、いつかできるさ、と問題は先送りされがちである。

それでも近々に音価の修正があれば良いが、何年も先送りされてしまうと、数える習慣が身につかないで、リズムに弱いヴァイオリン弾きの誕生につながっていったりして、などという想像をしてしまった。

楽器の特性上、リズムに弱くなる傾向が生じるのは止むを得ないとして、だからこそ、正確にリズムをとる訓練を早い段階から意識しておくことが肝要だなぁ、と、そのお子さんを見ながら考えることしきりであった。

そのようなこともあるから、理想を言えばヴァイオリンだけでなくピアノも多少は習っておくと良いのだろうな、とも思った。