「ノンビブラートという言葉にはアレルギーがありまして…」
最近、指揮者として接することの多い鈴木優人さんの言葉である。さらに続いた言葉は、
「ビブラートは(裸)ガット弦の代替技術だと思うのですよ。ガット弦をブーンとそのまま鳴らしていれば良い音だったのが、金属巻きの弦になってそれがつまらない音になってしまった。それでずっとビブラートをかけなければならなくなったのではないかと。」
何の裏付けもないけど、と彼は断って話したのだが、これは工学的に立派に説明できる。
ガットは均質ではないので、様々な倍音も常に出たり引っ込んだりしている。単純に弾くだけで音色の変化があった訳だ。
一方、金属巻き弦になると、弦の太さがかなり一定になる。高次倍音も一定の割合で出続ける。人はこれを「金属的な音」という。金属を叩くと高次倍音が多く発生する。それに似ているという訳だ。
この高次倍音はビブラートで引っ込めることができる。指の脂肪が高次倍音を吸収してしまうからだ。
なるほどねぇ。
バロックだからノンビブラート、ではなく、ガット弦だからノンビブラート、と考えた方が良さそうだ。
新しい指標ができた面持ちで嬉しくなってしまった。
このように、鈴木優人さんとの会話は、常になかなか愉快である。
良い先生についてらっしゃるようですね。文章の中になかなか重要な点が含まれていると思います。
少し気になるのは、ラ・フォリアの版(エディション)の問題です。
これに関しては、いつか本編で考えたいと思います。