村上春樹
『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』★★★
夏休み読書としてryoさんから借りた。
どっしりハードカバー
相変わらず一辺倒ってところを感じたけど安心して読める。
古株だね。
「あらないよ」がよい味出してる。
今週末は後半戦を読んで静かに過ごそう。
そう詐欺確定・・ってことで落ち込んでる凹
知らない人に騙されるのと、
知っている人に騙されるのはどうなんだろう?
見知らぬ他人と見知った知人
顔が見える人と顔が見えない人
何かあるのかな・・
意味を見出そうとしたけど、それは意味がないと分かっている。
どうにか折り合いをつけて教訓として刻むしかない。
上手く消化出来ますよう・・
どうしようかな?
同じ商品を買うか買うまいか・・あ~ぁ
駅前交番の室内
小さな蚊がぶんぶん飛び回ってた「よくゴルフやるんですか?」
座って間もなく定期入れを落としたと学生さんが紛失届
お次は道案内
その次も道案内かと思いきや「この近くの耳鼻科教えて下さい」と老夫婦
ネット検索でそのまま予約!と言ってもこれが現実
最終的に「警察署に行って下さい」だって・・交番じゃ判断つかず・・
遅い帰りでもいつもやってるご近所の歯医者さん
夜9時予約はさすがに初★
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「もしこのまま別れても、友だちのままでいてくれる?」
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おれはどうかしている、と私は鏡の中の自分自身を見つめながら思った。小さく声にも出してみた。頭がいくらかおかしくなってしまっているみたいだ。このまま誰にも近づかない方がいい。少なくともしばらくのあいだは。
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私の視野にはきっと何か生まれつきの盲点のようなものがあるに違いない。私はいつだって何かを見逃しているみたいだ。そしてその何かは常にもっとも大事なことなのだ。
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私はそのままプジョーを運転して東北地方を横断し、東京まで戻るつもりだったが、国道六号線のいわき市の手前でついに車の寿命が尽きた。
「悪いことは言わない。このまま安楽死させた方がいい」
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部屋の中はとてもしんとしていた。沈黙が空気の中に、微かな重みを与えていた。まるで一人きりで海の底に座っているみたいだ。
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「あなたはものごとを納得するのに、普通の人より時間がかかるタイプのようです。でも長い目で見れば、たぶん時間はあなたの側についてくれます」
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四十歳という年齢は人にとってひとつの分水嶺なのだ。そこを越えたら、人はもう前と同じではいられない。
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あとになって振り返ってみると、我々の人生はずいぶん不可思議なものに思える。それは信じがたいほど突飛な偶然と、予測不能な屈折した展開に満ちている。しかしそれらが実際に持ち上がっている時点では、多くの場合いくら注意深くあたりを見回しても、そこには不思議な要素なんて何ひとつ見当たらないかもしれない。
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読書家が本の中の気に入った文章を、ノート一字一句違わず丁寧に書き写すように。
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コレわたし! (笑)
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目の前にそういう流れがあるのなら、いったん流されてみればいい。
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顔はある意味では手相に似ている。もって生まれたものというよりむしろ、歳月の流れの中で、またそれぞれの環境の中で徐々に形作られてきたものであり、同一のものはひとつとしてない。
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「あなたもご存知のように、ものの価格というのはあくまで相対的なものです。需要と供給のバランスによって価格が自然に決定されます。それが市場原理です。もし私が何かを買いたいと言って、あなたがそれを売りたくないと言えば、価格は上がります。その逆であれば、当然ながら下がります」
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「人は時として大きく化けるものです」
「私は思うのですが、大胆な転換が必要とされる時期が、おそらく誰の人生にもあります。そういうポイントがやってきたら、素速くその尻尾を掴まなくてはなりません。しっかりと堅く握って、二度と離してはならない。」
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「ちなみに私は左利きです」
「何かの役に立つかどうかわかりませんが、それも私という人間に関する情報のひとつになるかもしれない。右か左かどちらかに行けと言われたら、いつも左をとるようにしています。それが習慣になっています」
テラスに出ると風はなく、そこにある空気はゼリーのように濃密で冷ややかに感じられた。雨の予感がした。
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僕らは高く繁った緑の草をかき分けて、言葉もなく彼女に会いに行くべきなのだ。私は脈絡もなくそう思った。もし本当にそうできたら、どんなに素敵だろう。
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「比較的良い一日だった」、私は自分に向かってそう言った。
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「目に見えることだけが現実だとは限らない。そうじゃありませんか?」
朝の早い時間に、まだ何も描かれていない真っ白なキャンバスをただじっと眺めるのが昔らか好きだった。私はそれを個人的に「キャンバス禅」と名付けていた。まだ何も描かれていないけれど、そこにあるのは決して空白ではない。その真っ白な画面には、来たるべきものがひっそり姿を隠している。目を凝らすといくつもの可能性がそこにあり、それらがやがてひとつの有効な手がかりへと集約されていく。そのような瞬間が好きだった。存在と非存在が混じり合っていく瞬間だ。
「あたしは夢なんかじゃあらないよ、もちろん」と騎士団長はやはり私の心を読み取ったように言った。「というか、あたしはむしろ覚醒に近い存在だ」
ポニーテイルの青年が、私たちのグラスに赤ワインを注いでくれた。一時間ほど前にボトルを開け、デキャンターに移しておいたのだと免色は言った。
「空気がうまく入って、ちょうど飲み頃になっているはずです」
空気のことはよくわからないが、ずいぶん味わいの深いワインだった。最初に舌に触れたときと、口の中にしっかり含んだときと、それを飲み下したときの味がすべてそれぞれに違う。まるで角度や光線によって美しさの傾向が違って見えるミステリアスな女性のように。そして後味が心地よく残る。
「ボルドーです」と免色は言った。「能書きは省きます。ただのボルドーです」
「しかしいったん能書きを並べ始めると、ずいぶん長くなりそうなワインですね」
免色は笑みを浮かべた。目の脇に心地よく皺が寄った。「おっしゃるとおりです。能書きを並べ始めると、ずいぶん長くなりそうだ。でもワインの能書きを並べるのが、私はあまり好きじゃありません。何によらず効能書きみたいなものが苦手です。ただのおいしいワイン――それでいいじゃないですか」
もちろん私に異存はなかった。
「そうです。私は揺らぎのない真実よりはむしろ、揺らぎの余地のある可能性を選択します。その揺らぎに我が身を委ねることを選びます。あなたはそれを不自然なことだと思いますか?」
「そう、そういうことだ。ファーストオファーはまず断るというのがビジネスの基本的鉄則だ。覚えておいて損はあらない」と言って騎士団長はまたくすくす笑った。
「わたしもわたしのことを理解できればと思う」とまりえは言った。
「ぼくもそう思う」と私は同意した。「ぼくもぼくのことが理解できればと思う。でもそれは簡単なことじゃない。」
「私はね、昔からハンサムな人にとても弱いの。顔立ちもきれいな男の人を前にすると、理性みたいなものがうまく働かなくなってしまう。問題があるとわかっていても抵抗がきかない。どうしても治らないの。それが私のいちばんの弱点かもしれない」
「宿痾」と私は言った。
彼女は肯いた。「そうね、そういうことかもしれない。治しようもないろくでもない疾患。宿痾」
宿痾、と私は思った。治療の見込みのないろくでもない病。理屈の通用しない体質的傾向。
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