吉本ばなな
『TUGUMI』★★★★
図書館本
大体決まった作家さんの書籍棚を回っていると蛍の光♪
そうここ最近は平日の夜に駆け込む。
残り時間15分とかそんな感じ。
なぜに『TUGUMI』?(笑)
一体何度読み返したんだろう。
何となく熊本旅行に持参しようと思った。
きゅーんとせつないこれぞ青春(だから先日から死語と言っているんだけど)
潮の香りがしてきて、夏の夜の空気を纏うよう。
確かにあなたは存在した。
やはりこれを超える本はないと思う。
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ある朝の散歩の時だった。
その日は雲ひとつなく晴れていて、海の色も空の色も何だか甘いような青だった。
すべてが光の中でハレーションをおこして金色にまばゆく見えた。
本当は心の底に眠るはずのどろどろした感情を見せないように無意識に努力している。人生は演技だ、と私は思った。意味は全く同じでも、幻想という言葉より私にとっては近い感じがした。その夕方、雑踏の中でそれはめくるめく実感の瞬間だった。ひとりの人間はあらゆる段階の心を、あらゆる良きものや汚いものの混沌を抱えて、自分ひとりでその重みを支えて生きてゆくのだ。まわりにいる好きな人達になるべく親切にしたいと願いながら、ひとりで。
「お父さん、あんまり無理してオーバーヒートしないでね」
私は言った。父は顔をあげてきょとんとした。
「無理って何だい」
「だからほら、早く帰ったり、おみやげを買ってくるとか、私に服を買ってくれるとかね、しすぎると疲れちゃうでしょう」
「最後のは何だ、やったことないぞ」
父は笑った。
夏が来る。さあ、夏がはじまる。
必ず1回こっきりに通りすぎて、もう2度とないシーズン。そんなことよくわかった上できっといつも通りに行ってしまうだろう時間は、いつもより少しはりつめていて切ない。その時、夕方の部屋にすわって、私達はみんなそのことをよく知っていた。悲しいくらい知った上で、なおとても幸福な気持ちでいた。
風が心地よかった。はるかに流れるグレーのうすい雲のすき間に夕方の光の名残がちらちら見えかくれしてはぐんぐん押し流されてゆく。
夜はときおりこういう小技を使うことがある。空気がゆっくりと闇を伝い、遠いところで結びついた気分が星のように手元にすとんと降りてきて、人をおこす。
同じ夢を見る。それはすべて、ひと夜のうちにおこり、ひと夜限りの気分なのだ。
翌朝には、あったことさえあいまいになり、光にまぎれてしまう。そしてそんな夜は長い。果てしなく長く、宝石のように光っているものだ。
「じゃ、散歩にでも行く?」
私も立ちあがり、後を追って海に入った。はじめ飛びあがるほど冷たく感じる水が、さらりと肌になじむ瞬間を私は愛している。見上げると青空を背景に海を囲む山々が光る緑をつやめかせていた。
海辺の緑はやけに濃く、くっきりと見えた。
「熱がある時って、世の中が変に見えるだろう、楽しいよな」
私も、来週には東京へ帰る。
こうしてまぶしさに満ちて、その残光を西の水平線にちらりと輝かせて惜しげもなくどんどん暮れてゆく海を、今年も何度見ただろう。
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そしてつぐみの独白・・
これは省略としよう。
読後の温度差があり過ぎる。
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美しい朝だった。
本当に秋が訪れたのだ。空はどこまでも青磁の澄んだ響きをたたえ、木々が遠い秋風にゆっくりと大きくそよいでいた。すべてがしんと秋の香りに満ちて、音のない透明な世界を造り出していた。私はこんなにまぶしい朝を久しぶりに感じた
ような気がして、しばらく空ろな頭でその光景を眺めていた。心が痛むほどきれいに映った。
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上記の抜粋を過去もしたような気がする・・
若かりしばなな時代の描写が好き。