山本周五郎
『青べか物語』★★★
読書会課題本その2
周五郎の自伝的小説の傑作
うらぶれた漁師町に住み着いた私はボロ舟「青ベか」を買わされた――
--------(抜粋)
騙し、騙されるのに、なぜか幸せだったりする。
若き日の周五郎が見た「人間の生」
うらぶれた漁師町で暮す人々を切々と描く現代小説
根戸川の下流にある浦粕という漁師町を訪れた私は、沖の百万坪と呼ばれる風景が気に入り、このうらぶれた町に住み着く。言葉巧みにボロ舟「青べか」を買わされ、やがて“蒸気河岸の先生”と呼ばれ、親しまれる。貧しく素朴だが、常識外れの狡猾さと愉快さを併せ持つ人々。その豊かな日々を、巧妙な筆致で描く自伝的小説の傑作
沢木耕太郎「山本周五郎と私 青春の救済 山本周五郎」
服部康喜「解説 若き周五郎、人生の海に漕ぎ出す」を収録
注釈付文字拡大新装版
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目次
はじめに
「青べか」を買った話
蜜柑の木
水汲みばか
青べか馴らし
砂と柘榴
人はなんによって生くるか
繁あね
土堤の春
土堤の夏
土堤の秋
土堤の冬
白い人たち
ごったくや
対話(砂について)
もくしょう
経済原理
朝日屋騒動
貝盗人
狐火
芦の中の一夜
浦粕の宗五郎
おらあ抵抗しなかった
長と猛獣映画
SASE BAKA
家鴨(あひる)
あいびき
毒をのむと苦しい
残酷な挿話
けけち
留さんと女
おわりに
三十年後
・芦のなかの一夜 ★★★★
描写がよく抜粋
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「芦が風を呼んでるだな」幸山船長はふと頭を傾けて云った、「——ちょっと外へ出て風に吹かれようかね」
私たちは甲板へ出た。
火鉢のある狭い船室から出ると、晩秋の冷たい夜気がこころよく肌にしみとった。だらけたような肌の細胞の一つ一つが、新しい酸素を吸っていきいきとよみがえるのを感じた。
「そうさ、芦は風を呼ぶだよ」私の問いに答えて船長は云った、「見せえま、東のほうで呼んでるだ、東のほうから風が吹きだすだよ」
慥かに、船長の指さしたほうから、静かに微風が吹きわたって来るようであった。私はタバコとマッチを出して吸いつけ、船長にもすすめたが、船長は欲しくないと云って手を出さなかった。——月はかなり西に移ってい、空には雲の動きも見えた。岸の草むらでは虫の鳴く音がしきりに聞こえ、微風が芦をそよがせると、葉末から露がこぼれ、空気がさわやかな匂いに満たされた。雲が月のおもてにかかると、そのときだけはあたりがほの暗くなるが、雲が去ると、これらの風景ぜんたいが、明るくて青い、水底の中にあるように眺められた。
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この本のおもしろいところは(と言うか趣向なのか)
主人公の会話が省かれていて、相手の返答で予測する箇所が多々あること。
こちら新装版
おかげで沢木耕太郎の『山本周五郎と私』を読むことが出来た。ラッキー
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新潮文庫 (ver.2、ver.3(新装版)がある)
「や ver.2 NO.4」 『柳橋物語・むかしも今も』
「や ver.2 NO.5」 『五辨の椿』
「や ver.2 NO.7」 『大炊介始末』
「や ver.2 NO.8」 『小説 日本婦道記』
「や ver.2 NO.9」 『日日平安』
「や ver.2 NO.15」 『おごそかな渇き』
「や ver.2 NO.17、NO.18」 『ながい坂㊤』『ながい坂㊦』
「や ver.2 NO.20」 『ひとごろし』
「や ver.2 NO.21」 『栄花物語』
「や ver.2 NO.24」 『深川安楽亭』
「や ver.2 NO.25」 『ちいさこべ』
「や ver.2 NO.27」 『あとのない仮名』
「や ver.2 NO.29」 『町奉行日記』
「や ver.2 NO.31」 『人情裏長屋』
「や ver.2 NO.35」 『あんちゃん』
以上 現状20冊
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