山本周五郎
『柳橋物語・むかしも今も』★★★★★+
--------(抜粋)
幼い一途さで答えてしまった「待っているわ」という一言によって、一生を左右され記憶喪失にまで追いやられてしまう“おせん"の悲しい生涯を描いた「柳橋物語」
愚直な男の、愚直を貫き通したがゆえにつかんだ幸福を描いた「むかしも今も」
いずれも、苛酷な運命と愛の悲劇に耐えて、人間の真実を貫き愛をまっとうした江戸庶民の恋と人情を描き、永遠の人間像をとらえた感動の二編
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こちらは中編二編からなる一冊
短編集が多い中貴重な中編です。
巻末に原田マハの一文有
思えば原田マハに手を出していないわたし。
お友達の薦めで『楽園のカンヴァス』の冒頭を読んだのみ。
周五郎熱は冷めません🔥
膨大なる書籍群から選んだ一冊はクリンさんのブログからメモした本です。
・柳橋物語
上記掲載させていただきました<(_ _)>
これは涙なしでは読めません・・一体何度泣かされてる?
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「それは今にはじまったことじゃあないのさ」と源六は穏やかに笑う、「‥‥‥どんなに結構な御治世だって、良い仕事をする人間はそうたくさんいるもんじゃあない、たいていはいま幸さんの云ったようにな者ばかりなんだ、それで済んでゆくんだからな、けれどもどこかにほんとうに良い仕事をする人間はいるんだ、いつの世にも、どこかにそういう人間がいて、見えないところで、世の中の楔になっている、それでいいんだよ、」
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自分がふしあわせな生れつきで、これからもだんだんと不幸になり、いつも泣いたり苦しんだりしながら、寂しいはかない一生をおくるんだ、そういう風に思えてならなかった。
人はたいていな環境に順応するものなのだから、
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桃の湯=あせもに効く
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「人間は調子のいいときは、自分のことしか考えないものだ」源六は涙をながれるままにしてそう続けた、「‥‥‥自分に不運がまわってきて、人にも世間にも捨てられ、その日その日の苦労をするようになると、はじめて他人のことを考え、見るもの聞くものが身にしみるようになる、だがもうどうしようもない、花は散ってしまったし、水は流れていってしまったんだ、なに一つとりかえしはつきあしない、ばかなもんだ、ほんとうに人間なんてばかなものだ」
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人の想いは儚いね。
時は元禄(1688-1704)
第五代将軍綱吉の時代
華やかでありながらも市井の人々にとってはとても苦しい時代でした。
そこに天災が次から次へと襲い掛かる・・
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「よくわかるわ、幸太さん、あなたは本当におせんを想って呉れたのね、——庄さんがお嫁さんと歩いているのを見たとき、あたし軀をずたずたにされるような気持だったの、苦しくって苦しくって息もつけなかった、‥‥‥胸が潰れてしまいような苦しい辛い気持ちだったわ、幸太さん、あなたの云って呉れたことが、そのときはじめてわかったのよ、——あなたの苦しいといった気持が、辛かったと云った気持がどんなものだったか、そのときはじめてあたしにわかったのよ」
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信じて将来を約束した人に最後に裏切られ、そこで改めて気づく想い。
また通勤時に読んでしまったがため、目がうるうる潤いまくってぽとり。。
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・むかしも今も
不器用で上手く世間と馴染めない主人公直吉を巡る物語
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職人たちのどなり声をあびながら、彼は外に出た。そして傘に当る雨の音を聞くのといっしょに、あとからあとから涙が出て来て止まらなかった。
―—そうだ、清次の侮辱は決して不当ではない、自分はそういう塵溜から育ってきたのだ、腹いっぱい喰べ、温たかく寝られるだけでも有難いと思わなければならない、がまんしよう。
直吉は涙を拭きながらそう呟いた、これがおれの持って生まれた運なんだ。
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そしておかみさんとの別れ
突然の親方の吐血、卒中、最後に頼まれた「後見」
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——わかったよ、まあちゃん、おまえに嫉妬をやくなんて間違いだった、おれはあの頃から、まあちゃんの一生をまもろうと思っていた、悲しみや苦しみを防いで、おまえが一生しあわせであるように、まもってゆこうと思ってたんだ、‥‥‥それをつい忘れて、おまえを恨んだりするなんて、——勘弁して呉れ、おらあやっぱりとんまで鈍なやつだったよ」
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どこまでも一本気な直吉
ため息ものです。
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——あのひとも可哀そうなのよ。
まきの言葉のしみじみした調子が、いかにもそっくり清次の正体を示しているようんだ。直吉はまた深い溜息をついた。
「——人間はそれぞれ弱いところや痛いところをもっている、お互いに庇いあい助けあってゆくのが本当だ、そうだ、あいつも悲しい男なんだ」
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賭博から足を洗えない夫清次に対してどこまでも真摯になるまき
その言葉を真摯に受け止めどこまでも信じようとする直吉
どんなに改心しようと努力?しているかよめない清次
結局は首が回らなくなる。
上方に去る清次
不在の間に襲う地震 家が崩壊しそこでまきに起こる不幸
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「みえない、なんにも、——直さん、あたしなにも見えないのよ」
「見えないって、おまきさん、眼、眼がみえねえのか」
「なんにも見えないの、なんにも、まっ暗だわ」
直吉は茫然と、まきの顔をみまもった。
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おいおい・・周五郎さんどこまで落とす~!!
はい。こちらにも泣かされました。。周五郎さんマジ沁みますわ。
沁みる沁みると繰り返しているけど、本当に心を衝かれます。
現実に戻されて(通勤時に読むことが多いため)ぼんやり上手く馴染めない時も。
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「あたしのことを本当に心配し、あたしのために本気で泣いて呉れたのは、この世の中で直さんたったひとりよ、——眼が見えなくなってから、初めてそれがわかったの、なんにも見えないまっ暗ななかで、じっと坐って考えているうちに、だんだんそれがはっきりしてきたわ、‥‥‥眼の見えるうちには気もつかないようなことが、見えなくなってからはよくわかるの、——あのひとを良人に選んだのは眼が見えたからよ、見えない今は声だけでわかるの、‥‥‥なにもかもよ、直さん」
「———」
「むかしも今も、あたしにとっては直さんひとりだった、これからもあたしには直さんだけだわ、‥‥‥ねえ、そう云ってもいいわね、直さん」
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