第124話 三位一体の妙(文楽)

2006年06月18日 02時06分13秒 | 観る(映画・ドラマ・アニメ・舞台)鑑賞

ひとつ好きが見つかると、その1つがきっかけとなって、ひろがっていく。
演劇が好きになり、温故知新と人形浄瑠璃「文楽」に出会う。

うちには正直、義太夫節の語り、よ~わかりまへん。
話の筋もようわからんままに、それでもずっ~と見とりましたらな、
なんや、人形が人形でなくなる、そんな瞬間がありますねん。
そん時はもう人形のうしろにおる人なんて気になりまへん。
私の目にうつるんは人形だけや。その人形の美しいことゆ~たら…。

この人形の顔、実際近く見たら、そらもう羨ましいほどの小顔ですわ。
色が白いゆ~たかて、あの人形みたいに白いおなごはこの世にはおりまへんやろな~
白人?そんなん足元にもおよびまへんわ。
このおなご、普段はなかなかツンとすまして無表情ですねんけど、
小さく上向いたり下向いたりするだけで、くもったり、はれたりしよりますねん。
始終、微かに揺れてるその小さな白いお顔が儚げでまた色っぽい。
うちが真似たら、どないしたんや、ひきつけか!になるのがおちやろな…
そんなあほなことばっかり考えて見ててもあかん、
よ~わからんから少しはわかるようななりたい、そう思て、
なにわ文楽塾PARTⅡゆ~のに参加。そこで出会ったんが、人間国宝、吉田玉男師匠!

平成12年やから、今から6年前のことやけど、
前田センセ(この一個前の第123話参照)にお会いしたんとちょうど同じ場所、
大阪府立文化情報センターやったから、モーツァルトききながら、
なんや懐かしなぁて思い出してしもて…。
玉男さんは、1919年生まれやから、私が会たんは81歳の玉男さんやけど、
色気のある方やった~。

何か1つのことに取り組んで、長く生きてきた人のパワーはすごい。
玉男さんのことを好きになって、あの後、わからなくても文楽から気持ちが離れなかった。
そして見にいったのが、曾根崎心中。クライマックスは天神森の段。
平野屋徳兵衛・吉田玉男、遊女お初・吉田蓑助、遣い手によって人形に命が吹き込まれる。
心中のシーン、実に美しかった…文楽、虚実皮膜の面白さ。

文楽の女形は普段足元を見せることがない。
足遣いの両手の仕草で、その着物の奥にさも足があるように見せるだけなのだが、
初めて足を見たのは同じ曽根崎心中、天満屋の段。
お初は縁側に腰掛け、縁の下へ隠れた徳兵衛にそっと足を差し出す。
その足で、死ぬ覚悟があるのかどうかを問う。徳兵衛はお初の足を握りしめ答える。
足で!!
言葉なき心中の意思確認。これまた美しいシーン。


ひとつ好きが見つかると、その1つがきっかけとなって、ひろがっていく。
徳兵衛の恋がさめぬよう、私は定期的にフットケアに通っている。


※文楽…大阪の代表的な伝統文化で大夫、三味線、人形から成る舞台芸術。
大夫は、全ての登場人物の台詞、及び物語の情景描写までを行う。
三味線もまた、大夫と気持ちを同じくし、心を弾く。
文楽人形の最大の特徴は、一体の人形を三人で操るところにある。
主遣いが左手で人形全体を支え、右手で右手を操作。
左遣いが右手で左手を遣い、足遣いが両手で人形の両足を操る。
大夫と三味線による義太夫節の語りにあわせて人形が動く和製ミュージカル。
三人遣いによる人形劇は世界で類をみない。つまり、唯一。


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