The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
日経新聞の記事の品質を問う
先週、“ISO認証 審査厳格に” との見出の記事が 日本経済新聞に載った。
ISO9001の大幅改訂は近々ないとの話は 規格協会のセミナー等で 聞いていたにもかかわらず、驚くような見出と記事であった。一応、ISO審査員の資格を持つ者として、他所から問合せがあった場合に備えて 若干 その内容を調べてみた。記事の主旨は以下のようであった。
“「ISO」の審査を統括する国際認定機関フォーラムIAFは、認証の信頼性を高めるため審査方法を見直す。”というもので次のように続いていた。以下 記事の枢要部分の抜書きである。
“(IAFは、)昨年10月に開いた豪シドニーでの総会で専門の常設委員会を設置することを承認した。
改革案ではその(組織がISOで作った)仕組が、取引先や消費者の満足度の向上に効果を発揮しているかどうかまで確認する「付加価値審査」の導入を検討する。ISO9001の人材育成の項目では、研修や評価制度の有無だけでなく、社員の能力向上に成果が出ているかどうかまで審査する。
審査を受けた企業からどの項目の審査が企業の経営改善に役立ったかといった意見を集め、審査手法を改善する制度の導入も目指す。
国内でもISOなどの認証を所管する経産省が独自に改革案を検討している。”
私自身も 正直言って、ISOの組織や枠組全体を把握できていないので、この際 ネット上で調べてみることにした。
まず、IAF(International Accreditation Forum, Inc)であるが、これは (財)日本適合性認定協会JABのホーム・ページによると“マネジメントシステム審査登録機関や製品認証機関等を認定する機関の国際組織として、認定機関間の技術的レベルの整合や相互承認協定の締結を目指して活動”している組織とのこと。記事にあるように IAF が“「ISO」の審査を統括”するのではないことが分かった。つまり、ISO認証登録のための審査のあり方そのものについて協議し、“ISO認証審査 厳格に” するなどということを検討する組織では ないようだ。
ここで認定機関とは 審査会社を認定する1国に1機関しかない組織のことであり、日本ではJABがそれである。IAFは もっぱら 審査会社のパフォーマンスについて国際的にレベルを合わせ、ひいてはISOの品位を貶めることがないような方策を協議するためのもののようだ。したがって、日本の代表としてJABが このIAFに参加しているのだろう。
そして、JABのホーム・ページの “資料集” には 問題のIAF総会についての報告会の資料が 掲載されていることも分かった。ここには やはり、“認定の有効性” つまり 審査会社を “認定Accreditation”するためのあり方、審査水準の一定化について協議している結果が 伝わって来る。しかし、記事の伝えたような “ISO認証審査 厳格にする”ということを協議した痕跡は 感じられなかった。
また、この記事にあるように “ISO審査を厳格に”するためには、実際にはISO9001やISO14001の規格要求事項を改訂する必要があるが、AIFの組織目的からして そのようなことは協議されていないことも確認できる。まして、“ISOで構築した仕組や、人材育成について 実際に効果を発揮しているかどうかを見る” などを協議したとは この報告書には全く書かれていない。(審査員の力量については重要なトピックスとしている。)
“ISOで構築した仕組や、人材育成の効果を見る”というようなことは、現在のISO規格要求事項でも既に規定されていることだが、効果確認をどのように行なうかが、困難なので 現実には第三者審査では機能していない本質問題ではある。
それは、こうした経営の本質に関わる部分の妥当性確認や効果確認の方法などは 一時的な第三者審査程度では判定することは不可能であり、効果があるとする基準をどうするかも問題であるからだ。
この経営学上の最大課題を数時間や数日の審査で評価可能なことなのか、それとも審査の枠組を変えて長期的視野で見るのか、その時の審査費用はどうするのか、のんびり結果を待つようなことで審査と言えるのか、等々 様々な問題が出てくるハズだ。
このような正解の出ない根本問題について、今更 記事が指摘したようには協議されるはずが ないと思うのである。
それから、この記事に 明らかに間違っている箇所がある。“ISOなどの認証を所管する経産省” の部分である。ISOのスキームは あくまで非政府機関によるものであることが 前提となっている。経産省と関係の深い機関 日本適合性認定協会JABや 日本規格協会JSA,日本品質保証機構JQAが この業界の主要な役割を占めているとは言え、政府機関が 直接所管しているとなれば、ジュネーブのISO本部からそれを 不適切であるとして国際的に非難され、日本でのISOの枠組は崩壊するに違いない。それほどの話なのだ。
ここには 非政府機関の活動に どうしても政府を関与させたいという日本人の潜在意識とその後進性が 漂う。自由主義を標榜すると目される日経新聞の記者にして このような前近代的意識では 困りモノである。
以上が私の推論であるが、これが正しければ、この日経新聞の“審査厳格化”記事は一体 何のための記事だったのだろうか。なかばスクープ記事のつもりだったのかもしれないが、こうもいい加減な内容では、一般の読者には 大いに誤解を与えないだろうか。この記事を書いた記者のISOマネジメントへの理解が かなり不足している、というか、著しく常識も 欠いているように思う。
どこかの“信頼すべき筋?”が フト“漏らした” その場限りのパフォーマンスを真に受けて ウラを取らずに そのまま記事にした印象である。
さて、そもそも日経新聞のISO関連記事については かねてから雑であることが多いと思っていたので、今回も そうだろうと思っていたが、案の定であった。日経の編集責任者は 記者をどの様に教育しているのであろうか。彼等こそ “人材育成については、研修や評価制度の有無だけでなく、社員の能力向上に成果が出ているかどうかまで” キチンと把握しているのだろうか。他人事ではないハズだ。社会の木鐸であるべき報道関係者こそ 絶えず お勉強しているべきであり、その見識を記事を通して読者にいつも評価されているものであることを 心すべきである。
このような 信頼できない記事、いわば粗悪な品質の記事からは 他の記事も どのようなガセネタで書いているのかと思わざるを得ない。他の新聞でも書いているような記事でなければ 真実性・信頼性が疑わしいのならば その新聞社のスクープ・ネタの価値、いや新聞社の存在価値すらないことになってしまう。
これでは 日本の世論形成も 危うくなり、非常に恐ろしいことになるのではなかろうか。
ISO9001の大幅改訂は近々ないとの話は 規格協会のセミナー等で 聞いていたにもかかわらず、驚くような見出と記事であった。一応、ISO審査員の資格を持つ者として、他所から問合せがあった場合に備えて 若干 その内容を調べてみた。記事の主旨は以下のようであった。
“「ISO」の審査を統括する国際認定機関フォーラムIAFは、認証の信頼性を高めるため審査方法を見直す。”というもので次のように続いていた。以下 記事の枢要部分の抜書きである。
“(IAFは、)昨年10月に開いた豪シドニーでの総会で専門の常設委員会を設置することを承認した。
改革案ではその(組織がISOで作った)仕組が、取引先や消費者の満足度の向上に効果を発揮しているかどうかまで確認する「付加価値審査」の導入を検討する。ISO9001の人材育成の項目では、研修や評価制度の有無だけでなく、社員の能力向上に成果が出ているかどうかまで審査する。
審査を受けた企業からどの項目の審査が企業の経営改善に役立ったかといった意見を集め、審査手法を改善する制度の導入も目指す。
国内でもISOなどの認証を所管する経産省が独自に改革案を検討している。”
私自身も 正直言って、ISOの組織や枠組全体を把握できていないので、この際 ネット上で調べてみることにした。
まず、IAF(International Accreditation Forum, Inc)であるが、これは (財)日本適合性認定協会JABのホーム・ページによると“マネジメントシステム審査登録機関や製品認証機関等を認定する機関の国際組織として、認定機関間の技術的レベルの整合や相互承認協定の締結を目指して活動”している組織とのこと。記事にあるように IAF が“「ISO」の審査を統括”するのではないことが分かった。つまり、ISO認証登録のための審査のあり方そのものについて協議し、“ISO認証審査 厳格に” するなどということを検討する組織では ないようだ。
ここで認定機関とは 審査会社を認定する1国に1機関しかない組織のことであり、日本ではJABがそれである。IAFは もっぱら 審査会社のパフォーマンスについて国際的にレベルを合わせ、ひいてはISOの品位を貶めることがないような方策を協議するためのもののようだ。したがって、日本の代表としてJABが このIAFに参加しているのだろう。
そして、JABのホーム・ページの “資料集” には 問題のIAF総会についての報告会の資料が 掲載されていることも分かった。ここには やはり、“認定の有効性” つまり 審査会社を “認定Accreditation”するためのあり方、審査水準の一定化について協議している結果が 伝わって来る。しかし、記事の伝えたような “ISO認証審査 厳格にする”ということを協議した痕跡は 感じられなかった。
また、この記事にあるように “ISO審査を厳格に”するためには、実際にはISO9001やISO14001の規格要求事項を改訂する必要があるが、AIFの組織目的からして そのようなことは協議されていないことも確認できる。まして、“ISOで構築した仕組や、人材育成について 実際に効果を発揮しているかどうかを見る” などを協議したとは この報告書には全く書かれていない。(審査員の力量については重要なトピックスとしている。)
“ISOで構築した仕組や、人材育成の効果を見る”というようなことは、現在のISO規格要求事項でも既に規定されていることだが、効果確認をどのように行なうかが、困難なので 現実には第三者審査では機能していない本質問題ではある。
それは、こうした経営の本質に関わる部分の妥当性確認や効果確認の方法などは 一時的な第三者審査程度では判定することは不可能であり、効果があるとする基準をどうするかも問題であるからだ。
この経営学上の最大課題を数時間や数日の審査で評価可能なことなのか、それとも審査の枠組を変えて長期的視野で見るのか、その時の審査費用はどうするのか、のんびり結果を待つようなことで審査と言えるのか、等々 様々な問題が出てくるハズだ。
このような正解の出ない根本問題について、今更 記事が指摘したようには協議されるはずが ないと思うのである。
それから、この記事に 明らかに間違っている箇所がある。“ISOなどの認証を所管する経産省” の部分である。ISOのスキームは あくまで非政府機関によるものであることが 前提となっている。経産省と関係の深い機関 日本適合性認定協会JABや 日本規格協会JSA,日本品質保証機構JQAが この業界の主要な役割を占めているとは言え、政府機関が 直接所管しているとなれば、ジュネーブのISO本部からそれを 不適切であるとして国際的に非難され、日本でのISOの枠組は崩壊するに違いない。それほどの話なのだ。
ここには 非政府機関の活動に どうしても政府を関与させたいという日本人の潜在意識とその後進性が 漂う。自由主義を標榜すると目される日経新聞の記者にして このような前近代的意識では 困りモノである。
以上が私の推論であるが、これが正しければ、この日経新聞の“審査厳格化”記事は一体 何のための記事だったのだろうか。なかばスクープ記事のつもりだったのかもしれないが、こうもいい加減な内容では、一般の読者には 大いに誤解を与えないだろうか。この記事を書いた記者のISOマネジメントへの理解が かなり不足している、というか、著しく常識も 欠いているように思う。
どこかの“信頼すべき筋?”が フト“漏らした” その場限りのパフォーマンスを真に受けて ウラを取らずに そのまま記事にした印象である。
さて、そもそも日経新聞のISO関連記事については かねてから雑であることが多いと思っていたので、今回も そうだろうと思っていたが、案の定であった。日経の編集責任者は 記者をどの様に教育しているのであろうか。彼等こそ “人材育成については、研修や評価制度の有無だけでなく、社員の能力向上に成果が出ているかどうかまで” キチンと把握しているのだろうか。他人事ではないハズだ。社会の木鐸であるべき報道関係者こそ 絶えず お勉強しているべきであり、その見識を記事を通して読者にいつも評価されているものであることを 心すべきである。
このような 信頼できない記事、いわば粗悪な品質の記事からは 他の記事も どのようなガセネタで書いているのかと思わざるを得ない。他の新聞でも書いているような記事でなければ 真実性・信頼性が疑わしいのならば その新聞社のスクープ・ネタの価値、いや新聞社の存在価値すらないことになってしまう。
これでは 日本の世論形成も 危うくなり、非常に恐ろしいことになるのではなかろうか。
コメント ( 0 ) | Trackback ( )
« “ISOを活かす―... | “ISOを活かす―... » |
コメント |
コメントはありません。 |
コメントを投稿する |