The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
“ドラッカーとの対話―未来を読みきる力”を読んで
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最近、またドラッカーが 書店の平積本になっている。“もしドラ”という本が売れて、それにつれてドラッカー自身の著作も売れているという事情のようだ。そして、その“もしドラ”とは、“もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら”という本の略ということだ。そして、その表紙を見ると少女マンガのように見えるが どうやら“小説”らしいのだ。作者は岩崎夏海という。私は読んだことはないが、文章は拙劣らしい。だから、素人の女の子かと思っていたが、作詞家の秋元康氏に師事した42才の男盛りのようだ。“拙劣”という文章もパフォーマンスかも知れない。とにかく、今やドラッカーの“マネジメント”の 有用な解説本になっているらしい。お蔭でダイヤモンド社は 全面的に有卦に入っている。ドラッカー本の ほとんど全てはダイヤモンド社刊だからだ。今年の春、週刊ダイヤモンドは そのための特集号すら組んでいた。
だが私は 恥ずかしながら、実は ドラッカーを読んだことがない。今までも、読もうと思ったことはあったが、一部に“難解”という評があったので、二の足を踏みつつも、目についた本を買い込んで、ツン読状態のままにしてあった。
しかし、ここへ来てのブーム再来である。私は、こういう場合、先ず解説本を読んでから、その著作にとりかかる方なので、良い解説を探していた。普通、ドラッカーと言えば どうやら上田惇生氏が第1人者のようだ。だが、雑誌“現代思想”(2010年8月号)の同氏の“今なぜドラッカーが読まれるのか”を読んだのだが、私の非才のせいかサッパリ理解できなかった、というか、結局何が言いたいのか分からなかったのだ。以前、同氏の別の解説本でもそのような印象を持ったような気がする。かつてそういうこともあって、これまでドラッカーには疎遠になっていたのかも知れない。
そこで、上田氏以外の人の解説本を読もうと思っていたのだが、今回目の前に現れたのは小林薫氏の“ドラッカーとの対話”であった。ようやく見つかったという思いで飛びつき、思わず少し読んで見たが、見込に違わず分かりやすいという第一印象である。例えば、ある概念を紹介する時に、必ず箇条書き風に、よく整理され、何を言っているのか、分かり易いのである。
小林氏は、ドラッカー自身とは 相当に親しい関係であったようで、この本の冒頭に ドラッカー自身の言葉“出版によせて”が掲載されている。こういう人の解説本は信頼できる、と確信とある種の安心を持って読み進んだのだ。
私はこれまで、ドラッカーを読みもせずに、このブログでも相当に“マネジメント”という言葉を使っている。だが、ドラッカーはこの“マネジメントを発見し、発明した人”と言うことを本中で知って、ますます私の浅学に忸怩たる思いが募ったのである。だが、恐らく読んだことがなくても、その考え方は様々な経路を経て、既に 私の中に入っているのだろうという予感はあった。そのせいか、この本を読み終わって、いずれも腑に落ちる内容ばかりであった。
この本は ドラッカーが何を言ったか、からではなくて、著者のドラッカーとの親密な交際や経験を踏まえて 先ずその人となりから書き出している。出色は、めったに表に出ないドラッカーの言葉、と言うより 亡くなった現在であれば聞くことのできないような 組織人というか端的に言うとサラリーマンの処世術の“上役操縦法”を紹介していることだ。その逆の“よい上役になる技術”もある。考えてみれば、この両者はコインの両面であり、ドラッカーはその片面の“経営者主体経営学”の開祖であってみれば当然のことなのかも知れない。
本来 ドラッカーは“1950年代には今日のサイバー社会の到来を、60年代には日本の興隆を、そして民営化、知識労働者、目標による管理などについても50年以上にわたって他に先んじて指摘した”という人物だ。
正に 世界史的文明論から処世術にいたるまで、様々な見方が出来、それによって様々な人々に感銘やアドヴァイスを与えることのできる巨人、“indefinable、つまり、あの人はこういう人だと「断定しきれない」”大物なのであろう。
これを小林氏は“マクロとミクロの統合”という言葉で紹介している。そしてこれを石油会社のシェルでは“トップの人材に大事なのは「ヘリコプター能力」だ”としているという。“ミクロの場を離れてヘリコプターは舞い上がり、高いところ、つまりマクロから世の中を見る。(山、川の位置を確認し)再びミクロの場へ降りてきて、(前後左右不明のジャングルの中で)実際に集団を動かして行く。”こういう能力がリーダーには必要だというのだ。
そういえば、ISO9001にあるintegrity(完整性)という言葉もここに再三現れる。“『現代の経営』の中で経営者は高潔なintegrity(廉直さ)を持っていなければダメだということを言っている。”リスク・マネジメントでも asset integrity(資産が劣化しない特性)という言葉を使うらしい。ドラッカーは経営者の倫理性と言う点で言及しており、重要なキーワードのようだ。この言葉、私自身は“ブレない”が適切な訳だと信じているが・・・・。
そして、この本で、いの1番に登場する ドラッカーの言葉は、“強味の上におのれを築け!Build on your own strength!”である。弱味を矯正・強化するよりも、個々の強味を伸ばし、個々の弱味は組織力でカバーし、強味の最も効果的な連携を作り上げ、短時間で相乗効果を引き出すのが経営者の最大の役割であると言っている。著者によれば、これがドラッカー理解の第1のキィ・ワードらしい。
その後、ドラッカー自身との著者によるインタビューがあり、“ドラッカーのキーワード20”が紹介されている。
その最初に出ている言葉が 経営者は“表の風に吹かれろ!”である。外界の変化や要求に敏感でなければならない、ということのようだ。そうでなければ衰退と滅亡に至るというのだ。
“ドラッカー式英語の面白さ”というところで、ドラッカー的英語の言い回しの紹介がある。例えば 次のような感じである。
“profitを原因(cause)ではなく、result(結果)として、つまりresult of the performance of business in marketing, innovation and productivity(マーケティングと革新と生産性における企業の遂行活動の成果)とした点をよく味わうことが、ドラッカー経営思想の掌握にとって不可欠な関門なのである。”
この“ドラッカー式英語の面白さ”は、これまでの記述の 総まとめのようなところがあって、本の内容の総復習的な意味合いも含まれている。
その復習のダメ押しが“付録 ドラッカーをめぐるミニクイズ”の4択問題である。例えば
○ドラッカーの経営学の特徴は?
A.経営主体経営学、B.人事主体経営学、C.技術主体経営学、D.経営者主体経営学
○ドラッカーの名言として著名なものは?
A.1日は100のポケットを持つ、B.脱皮できない蛇は死ぬ、C.強味の上におのれを築け、D.不可能という言葉は自分の辞書にはない
○ドラッカーの経営学の根本理念でないものは?
A.革新の展開、B.市場の創造、C.科学的管理、D.環境への適応
○ドラッカーに大きな影響を与えたアメリカ人は?
A.ガルブレイス、B.フォード、C.マッカーサー、D.スローン
○ドラッカーに大きな影響を与えた日本人は?
A.福沢諭吉、B.渋沢栄一、C.大隈重信、D.坂本竜馬
と言った次第である。この問題は この本のどこかに書かれてあったものばかりである。だが、著者は 親切にも簡単に正解をこの直後に示してくれている。ちなみにここで正解を明かすとA,C,C,D,Bである。
このように、同じ内容を何度も繰り返してもらえると、私のような者には大いに学習になる。
最後に、ドラッカーの経営理論の全てを表す1語を著者がドラッカー自身に問うているが、その答えを紹介する。それは、“「命令とコントロールの組織から、責任を中心とする組織に移行していく」ということ”、とのこと。さて、私は ドラッカーのスーパー・ビッグ・ワールドというか、巨大な山脈にどこから登って行くべきであろうか。
読者には申し訳ないが、ここで紹介した本は徳間書店刊であるが、残念ながら、もはや絶版になっている。だが、この本に紹介された内容そのものは最近出版された 同じ小林薫氏の“ドラッカーのリーダー思考”(青春新書)にも ほとんどそのまま出ている。一読をお勧めする。
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