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講演「トヨタのグローバル経営と人づくり」を聴いて

先日 インテックス大阪で開催された“微細精密加工技術展2007”で トヨタの元副会長池淵浩介氏の講演があり 聴講しましたので ご紹介します。ISO/TS16949に多少関わった者にとって、トヨタ経営陣の 肉声が聞けるのは 大いに意義あることと思いました。
私の理解力の限界や 聞き違いや誤解も あるかとは思いますが その内容を ご紹介します。

[講師・池淵浩介氏 経歴]
1960年3月大阪大学工学部溶接工学科卒業/84年5月ニューユナイテッドモーターマニュファクチャリング(株) NUMMI 取締役副社長就任/01年6月トヨタ自動車(株) 取締役副会長就任/05年6月トヨタ自動車(株) 相談役・技監就任
大学を卒業して就職後47年間工場勤務のみだったとおっしゃっていました。根っからの現場技術者の印象です。


講演が始まってしばらくして、トヨタ生産システムTPSの社内教育用ビデオで ガイダンスがありました。ビデオの説明の中心は“ニンベンの自働化” と “ジャスト・イン・タイム”でした。
“ニンベンの自働化”は 豊田佐吉の思想で、不良品は作らない。すなわち、“異常があれば生産ストップ”させ、生産設備を 徹底的に改善して行く。
“ジャスト・イン・タイム”は 豊田喜一郎の思想で、“必要なモノを 必要な時に 必要なだけ 作る”ことが主眼で、ムダを排除すること。
この2つの思想を元に、豊田英二と大野耐一が トヨタ生産システムの思想を完成させた。米国のスーパー・マーケットで、売れたものを 売れただけ補充していたのを見て、下工程が 上工程に 必要なものを取りに行く方式を思いつき、カンバンを 生産状況の “見える化”に使った。
こういう 折角のトヨタ生産システムであるが、他社に導入指導しても何年か経つと大抵ダメになってしまうことが多い。カンバンだけ取り入れても 定着することは 少ない。それは 5つの経営要素[①会社の文化(土壌) ②生産技術(基礎) ③自働化とJIT(2本の柱) ④標準作業[効率と均一](梁) ⑤経営理念と全員参加(屋根)]の 全体最適化、バランスが取れていないためだと家の 構造にたとえて説明されていました。
人、モノ、金、技術の四位一体のバランスが大切、トップの関与も重要とのこと。これが “トヨタ・ウェイ” となったということです。

その後、池淵氏の 米国でのGMとの合弁会社NUMMIでの経験談に及びました。
米国では従来 エンジニアが手順書を作って 現場に厳格な遵守を求めていたが、現場のことは現場の監督者の決定に任せるようにしたそうです。現場労働者の組合の強い土地柄であったので、余計な仕事をさせるとの強い反発を 非常に心配していた、とのことでした。
ところが、実際には 逆に “任された”と言って 現場の監督者達には非常に喜ばれたそうです。つまり、実際はそれまで、現場の実態を知らない 若い技術者が非効率な作業マニュアルを作っており、作業にムリが出て現場には不満があった、というのが現実だったそうです。彼らに日本の工場を見せて作り方を 教えて、カローラのGMバージョンを生産していたが、当初は10%程度生産性は悪かった。しかし、やがて NUMMIの品質はGMグループ内のトップとなった、ということです。

トヨタでは、標準時間内作業ができない場合 ライン全体を止めることにしているが、この権限を現場監督者のみの権限に限定しようとしたが、監督者のみでは“全員参加”にならないので 日本同様 全員にやらせて、トヨタ生産システムの徹底ができたとのこと。現場が自立するように権限を与え、悪い標準は直ぐに変え、“自分で決めて、自分で守る”という、現場の自己完結、自律を促進して成功したのだと思うとのことでした。
このように 現場力を信じて 任せることの重要性を 力説された印象です。

この現場力を単に信じるだけではなく、それを育成し高揚させるべく グローバル・プロダクション・センターを5年前に設立し、世界から監督者を集めて基本的なことを1,2ヶ月かけて教育しているそうです。内容は“標準作業”についてが中心のようです。今では タイ、イギリス、米国、中国の4ヶ所だそうです。これはGEの 研修制度を 思い起こさせるものですが、この両者の間には 目的や考え方に違いがあるような気がします。トヨタの場合は あくまでも“現場力”のためのものであり、GEの場合は“経営力”のためのものではないかと、私は 推測します。

この現場力が10年前から落ちてきたと感じていたとのことで、その原因が 組織のフラット化であるとして、今年から全く元に戻したとのことです。つまり、旧来のピラミッド組織では 現場を きめ細かく把握する人材育成が 上手く機能していたのが、フラット化によって 現場からいきなり 幹部クラスの監督者では 有効なコミュニケーションができず、その結果 人材育成ができなくなったのではないかと いうことです。
生産組織に関しては そのフラット化の有効性を トヨタは全く認めていない様子でした。
かつて、NHKの特集番組で フォードが 逆ピラミッドの組織を検討しているとの報道があったのを思い出しました。これは、その後 どうなったのか よく分からないのですが、最近の米軍組織は 刻々迅速に変化する戦場において、兵士一人一人にIT技術を駆使して最新の情報を与え、兵士の独立性を重んじて 即断即決の戦闘行動を是認する方向へ向かっているとのことでしたが、フォードは これを参考に 組織を検討しているということでした。
このNHKの報道では フォードの逆ピラミッド組織の検討について、具体的な詳細説明は最後まで無かったのですが、恐らくは、工場作業者の 個別判断を尊重しようというものだったのでしょうか。
このフォードの動きは かなりコンセプチュアルな印象で、私も成功するとは思えなかったのですが・・・・。

最後に講師の池淵氏は “下から積み上げる日本の良さ” を指摘したい、とのことで 次のように話されました。
米国はコンセプトから入るので、経営の上層部の考え方はハッキリしていて分かり易いが、組織の下部に行くと これがぼやける傾向にある。したがって、事務系の人が偉くなる傾向にあり、技術者軽視となり、モノ作りが上手くできないことになっているのではないか。
これに対し、日本は下から積み上げる。現場を大事にし、下から積み上げるので、良いモノができる。これは、世界中、日本だけの文化である。中国にも韓国にもこのような考えはないので、この日本の良さを残こしたいと思っている、とのことです。
そして この考え方は かつてホンダに居られ、その後セガに行かれた入交昭一郎氏も 同感だと言っておられた由でした。

トヨタにおいて、すべては 生産現場を中心に据えられており、その生産現場は 顧客の声に耳を傾けているのだから成功し続けているのだと思いました。
ここで言及されたことは、現在のどんな経営学者も指摘し得ないような内容を含んでいたように思いました。
特に、組織のフラット化への疑問を堂々と述べられ、実務に裏打ちされた “生産現場の下からの積み上げ(ピラミッド型)の重要性” と 日本的特質の優位性に言及されているのは 注目に値することだと思います。特に、トヨタが グローバルな会社であるだけに その内容には普遍性を認めざるを得ないのではないでしょうか。
トヨタの経営に関する本は いくつか 読んだような気がしますが 私のこれまでの印象では、どうも隔靴掻痒の感じがありました。実際にTPSを運営していたトヨタ経営者の肉声には 期待通り、非常に説得力を感じ、納得性の高いものでした。



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コメント
 
 
 
こんにちは ( )
2007-05-31 02:58:47
なるほど 勉強になります^^

 
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