goo

“中国の地下経済”を読んで

ここで昨年末に読んだ本“中国の地下経済”を紹介したい。読んで間が空きすぎて、少々タイミングを失しつつあるようだが、あっさりとは省略できない事柄である。
この本は近くの書店で新刊書棚に置かれていた本の中にあった刺激的標題に魅かれて買ったものだ。それに、年頭の“ご挨拶”で指摘したように、中国のバブルは間もなく崩壊すると見ている私としては、中国経済の実態というか、構造を見定めてみたいと思っていることから当然の興味である。
だが、どうやら世間では中国のバブルは当面崩壊しないと見ているようだ。バブル崩壊前は いつもそんなものだ。現実に崩壊してから、やっぱり そうだったのか、ということになることが多い。

実に不思議なことだが日本では中国ウォッチャーは数少ないのではないかと思っている。だから、隣国とその人々の性癖や実相を日本人は意外に知らないのではないか。恐らく“郡盲 象をなでる”状態ではないか。だから、あの尖閣問題で対応を誤るし、日本人自身も、その結果に驚くのではないだろうか。著者・富坂聰氏はまさしく中国ウォッチャーの一人である。その人のこれまでの中国経済の改革解放のウォッチングの結果をまとめた貴重な労作であろうと思った。
旧社会主義経済であった国では地下経済が発達する必然的余地があるのだろうか。中国と並んでロシアはマフィア国家と言われるようだが、そこにも地下経済が大きな力を持っているのだろ。そういった疑問にも本書は答えてくれるのではないか、という期待もあった。

中国では中央や地方政府の機関や公共施設、システムが未だ発達しておらず、人民へのサービスはきめ細かにできていないようだ。それを埋めるのが地下経済であるという。建国60年も経っていて、“行政システムが未発達”というのも非常に奇異な印象である。一部の権力者への権限・権益の集中の影響が ある種の偏りを生じ、そのような結果になったのではないかと想像できる。
とにかく中国では あの“ミナミの帝王”が随所に活躍している、と言うことだ。ただし、やりかたはソフトだと言う。つまり、債権回収に当たって、破産者にはその適性を見て、適所に就職させて債権回収を図るということだ。場合によっては住居の提供もあるという。もちろん、その場合大半は劣悪な居住環境となるようだ。“帝王”たちは、社会のあらゆる部分に人脈を持っていて、様々な職や資源を提供できるということだ。だから、人々は 彼らを否定するどころか、支持する姿勢にあるということだ。
しかも、そのネット・ワークは世界にも広がっていて、中国国内からの送金、逆に外国からの中国への送金もいわばヤミ・ルートを通じて可能だと言う。中国国外では なかなか地下経済に潜ることは困難ではないかと思われるが、そこはどうなっているのだろうか。日本でも どの程度 潜っているのだろうか。
それに、昨秋、ある金融マンと話していて、“中国国内経済は一応外部とは切れているので、それが混乱しても、リーマン・ショックやサブ・プライム・ローン・ショックのように関係先が不明で疑心暗鬼になるようなことは無い”、と断言していたが、彼がこの地下経済の影響をどの程度評価して判断していたのかは 今となっては分からない。

そして、その規模は表の経済にも迫るものがあると見られるようだが、依然として実態は不明のままだという。従って、中国経済は地下も合わせると とうの昔に日本のGDPを凌駕していたと見るべきなのだ。これは恐るべきことだが、残念ながら日本では誰もこれについてコメントするエコノミストは居ない。

その地下経済が 中国内でもポッカリ表に出て来ている部分があるという。例えば 著者は次のように指摘している。中国で地下経済と言ったとき“現在、最も大きなパフォーマンスが見られる地域は、中国北西部の内蒙古自治区なのである。・・・改革開放後の中国の経済発展に大きく貢献したのは、不動産とエネルギー(鉱山)の二大産業だとされるが、その点でも国内で一、二の炭鉱量を誇る内蒙古の貢献度は大きい。”つまり、地下経済からの融資によって内蒙古経済への投融資の多くは実施され、表の国有企業への影響もあると言う。そして、その地下経済の帝王は“私財を投じて(内蒙古で)鉄道まで敷いてしまった”という。“国が鉄道を敷いてくれるまで待っていたらビジネスチャンスは逃げて行く。”との帝王自身の言葉を紹介している。

だが、見えない地下経済が マフィアとどのようにつながっているのか不明だし、経済ばかりでなく政治の面でどのように表に影響しているのか不明なのだ。中国共産党は最近まで、これを恥部と見て触れずに来ていたというが、無視ばかりは して居られる状態ではなく、地下経済の表化する政策に転換しつつあるという。

ここまで説明されれば、中国に幾つか存在するというバブルの象徴たる幽霊都市への地下経済の影響度も押して知るべしではないだろうか。この点、この本では指摘していなかったが、幽霊都市は地方政府の影響が大きいと言われており、地下経済と地方政府の相互関係は抜き差しならぬものになっているだろうと容易に想像できる。となれば、中央政府への地下側からの浸透も 十分あり得ると見るべきなのだろう。
日本的見方によれば いわば“ミナミの帝王”が中央政府・共産党中央をコントロールしているかも知れないのが中国なのだ。それが事実とすれば 恐るべきことだ。選挙によらない政権の正当性には疑問符が残るのだ。

とうとう、最後まで著者は 私が最も期待した バブル崩壊に際して予想される地下経済のリアクションについては何も直接的には語ってくれていなかったし、それへの手懸りとなるような情報も提供してはくれていなかったのは非常に残念である。中国バブルの崩壊そのものが、妄想の類ということなのだろうか。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« サンデル教授... 阪大サステナ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。