「百日咳は三種混合/四種混合ワクチンに入っているので、それをしっかりやれば罹らない解決済みの疾患」
と以前は思っていました。
しかし、現在の日本で行われている定期接種だけでは制御できない実態がわかってきました。
問題点は主に以下の3点;
1.三種混合/四種混合ワクチンの効果は長続きしないことが近年判明。
2.大人の百日咳が多くなってきた。
3.百日咳で重症化するのは生後3ヶ月未満の乳児であり、三種混合/四種混合は生後3ヶ月から許可されているので間に合わない。
まずは、ワクチンの限界について。
乳幼児期にワクチンを接種していても、中学生以降は百日咳に罹ってしまう可能性があるのです。
■ 百日咳ワクチン効果は7年未満(2014年07月02日:m3.com)
文献:Wang K,et al.Whooping cough in school age children presenting with persistent cough in UK primary care after introduction of the preschool pertussis booster vaccination: prospective cohort study.BMJ. 2014 Jun 24;348:g3668.
英国で、長引く咳によりプライマリケアを受診した学齢児童279人を対象に、百日咳有病率を前向きコホート研究で推算。最近の百日咳感染が確認された患者は56人(20%)で、39人(18%)は百日咳ワクチンの就学前ブースター接種完了者だった。ブースター接種から7年以上経過した患者は7年未満の患者に比べ百日咳リスクが3倍だった。
実際に近年、内科領域では大人の百日咳が問題になっています。
1ヶ月以上咳が続く慢性咳嗽の30%が百日咳であるという報告も耳にしました。
その人達が、例えば孫が生まれてお祝いに行き赤ちゃんにうつして重症化する、という構図が見え隠れしてきます。
■ 百日咳が大人にも流行中。症状、予防法、治療法は?
(2008年05月13日、日経トレンディ)
■ 風邪と誤解し菌をまき散らす!! 百日咳の危険性とワクチン
(2013年09月11日:日経トレンディ)
では、どうすればよいのか?
ワクチンの追加接種が必要です。
米国では大人用の三種混合ワクチン(Tdap)を開発して接種しています。
■ アメリカが直面している新たなる問題点 ―増加する百日咳―(神谷 元、齋藤 昭彦、Mark H . Sawyer、小児感染免疫 Vol.18 No.2)
アメリカでは昨年より新たに成人用三種混合ワクチン(Tdap)が定期予防接種に組み込まれた。これは現行の三種混合ワクチン(DTaP)が高い接種率を維持しているにもかかわらず百日咳患者数が特に青年成人期で著増しており、さらにこのグループを介した乳幼児への2次感染が問題化しているからである。アメリカの百日咳の現状・対策を検討し、わが国の百日咳対策特にTdapワクチンの早期導入の必要性を強く訴えたい。
とくに赤ちゃんを守る目的で出産前の妊婦さんに推奨しているのが画期的です。
有効性も安全性もデータで保証されています。
■ 妊娠中の女性へ百日咳ワクチンの接種を推奨【米国CDC】(2012年10月26日)
☆ 百日咳から新生児を守るため
米国の疾病管理予防センター(CDC)の諮問委員会は、新生児の百日咳予防の為、妊娠中の女性は百日咳ワクチン(Tdap)の予防接種をするよう公に推奨した。
百日咳は米国では2012年10月18日の時点で症例が32,000人以上報告されており、16人の死亡例が報告されている。また、死者の大半は生後3ヶ月未満の乳児の間で発生し続けているという。
日本でも生後6カ月以下の乳児が百日咳ワクチンを含むDPTワクチンを接種していない場合、罹患した際は未だに死に至る危険性があるとされている。
CDCはこの百日咳から新生児を守るため、医療従事者は妊娠中の患者へTdapを投与する必要があると推奨した。また、妊娠中に投与されなかった女性には産後直ちに投与すべきであるとした。
妊娠中にTdapを接種することで母体の百日咳抗体は新生児へ転送し、新生児がDTaP(小児用の百日咳ワクチンを含む混合ワクチン)を接種開始する前に予防できるというのだ。同時に、Tdapは母親も保護するため彼女の幼児に移す可能性も低くするとした。
■ 妊婦の百日咳接種、有効率9割超(2014年07月23日:m3.com)
文献:Amirthalingam G,et al.Effectiveness of maternal pertussis vaccination in England: an observational study.Lancet. 2014 Jul 15. pii: S0140-6736(14)60686-3. doi: 10.1016/S0140-6736(14)60686-3.
英国で2012年10月に導入された妊婦への百日咳ワクチン投与プログラムの有効性を観察研究で検証。感染確定乳児数は2012年10月をピークに低下した。2012年と2013年の比較で感染者/入院者数低下率が最も高かったのは3歳児未満群だった。プログラム導入後に出生し、3カ月未満で感染した乳児数に基づく有効率は91%だった。
それに比べると日本では、小学校高学年の二種混合(DT)で終了して以降のfollowはありません。
ここにもワクチン行政の遅れを実感する次第です。
近い将来にTdap導入が期待できないなら現行のDPT(アメリカではDTaPと表記)を利用して同レベルの効果を期待できないか、と検討され、今後「成人への追加免疫にはDPTを0.2ml接種」へ移行するという話が出てきています。
■ KNOW★ VPD!「百日咳」
■ 成人におけるジフテリア・百日咳・破傷風(DPT) 3 種混合ワクチン 0.2mL 接種の百日咳抗体への効果
(柳澤 如樹ほか、感染症学雑誌 第83巻 第 1 号)
よい方法だとは思いますが、日本独自の方法であり世界的には認知されていないことが気がかりです。
例えば、留学や帯同・海外赴任の際に接種証明書の提出を求められます。現実問題として「Tdapの代わりとしてDTaPを認めてもらえない、接種したことにならない」というトラブルが発生する可能性があると云うことです。
さて、米国ではTdapを行っているにもかかわらず、百日咳の罹患数が期待通りには減っていないことも報告されています。
■ 百日咳のTdap追加、予防効果は中度(2013年07月22日:m3.com)
文献:Roger B et al.Effectiveness of pertussis vaccines for adolescents and adults: case-control study.BMJ 2013;347:f4249.
11歳以上の3万2365人(PCR陽性668人、陰性1万98人、対照2万1599人)を対象に、百日咳予防のための三種混合ワクチン(Tdap)追加接種の有効性を症例対照研究で検討。有効性の調整後推定値は、陰性群との比較で53.0%、対照群との比較で64.0%だった。Tdap追加接種の有効性は中等度と結論された。
学会レベルではワクチンの性質の関与も指摘されているようです。
日本が昔使用し副反応の強さで破棄した“全細胞ワクチン”の方が効果が高く、その後日本が開発して普及した“無細胞ワクチン”の効果が劣るのではないか?、と。
■ 百日咳を“世界共通の問題”として考える(週刊医学界新聞 第3084号:2014年07月14日)
齋藤 昭彦(新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野・教授)
「効果の高いワクチンは副反応も強い、副反応の弱いワクチンは効果も低い」というジレンマ。
その昔、日本で副反応が問題となり破棄されたワクチンも“全細胞ワクチン”(あるいは全菌体ワクチン)であり、それを解決するために開発されたのが“無細胞ワクチン”(あるいは無菌体ワクチン)なのでした。
■ IDWR感染症の話「百日咳」より抜粋
・・・1970年代から、DPT ワクチン、ことに百日咳ワクチン(全菌体ワクチン)によるとされる脳症などの重篤な副反応発生が問題となり、1975年2月に百日咳ワクチンを含む予防接種は一時中止となった。
その後、わが国において百日咳ワクチンの改良研究が急いで進められ、それまでの全菌体ワクチン(whole cell vaccine)から無細胞ワクチン(acellular vaccine)が開発された。1981年秋からこの無細胞(精製、とも表現する)百日咳ワクチン(aP)を含むDPT 三種混合ワクチン(DTaP)が導入された。
日本人の心情として、今さら副反応の強いワクチンに戻れません。
効果を優先するか、安全性を優先するか、悩ましい。
この点、ポリオ生ワクチンと不活化ワクチンの関係にも似ていますね。
百日咳対策には、まだゴールが見えてきません。
と以前は思っていました。
しかし、現在の日本で行われている定期接種だけでは制御できない実態がわかってきました。
問題点は主に以下の3点;
1.三種混合/四種混合ワクチンの効果は長続きしないことが近年判明。
2.大人の百日咳が多くなってきた。
3.百日咳で重症化するのは生後3ヶ月未満の乳児であり、三種混合/四種混合は生後3ヶ月から許可されているので間に合わない。
まずは、ワクチンの限界について。
乳幼児期にワクチンを接種していても、中学生以降は百日咳に罹ってしまう可能性があるのです。
■ 百日咳ワクチン効果は7年未満(2014年07月02日:m3.com)
文献:Wang K,et al.Whooping cough in school age children presenting with persistent cough in UK primary care after introduction of the preschool pertussis booster vaccination: prospective cohort study.BMJ. 2014 Jun 24;348:g3668.
英国で、長引く咳によりプライマリケアを受診した学齢児童279人を対象に、百日咳有病率を前向きコホート研究で推算。最近の百日咳感染が確認された患者は56人(20%)で、39人(18%)は百日咳ワクチンの就学前ブースター接種完了者だった。ブースター接種から7年以上経過した患者は7年未満の患者に比べ百日咳リスクが3倍だった。
実際に近年、内科領域では大人の百日咳が問題になっています。
1ヶ月以上咳が続く慢性咳嗽の30%が百日咳であるという報告も耳にしました。
その人達が、例えば孫が生まれてお祝いに行き赤ちゃんにうつして重症化する、という構図が見え隠れしてきます。
■ 百日咳が大人にも流行中。症状、予防法、治療法は?
(2008年05月13日、日経トレンディ)
■ 風邪と誤解し菌をまき散らす!! 百日咳の危険性とワクチン
(2013年09月11日:日経トレンディ)
では、どうすればよいのか?
ワクチンの追加接種が必要です。
米国では大人用の三種混合ワクチン(Tdap)を開発して接種しています。
■ アメリカが直面している新たなる問題点 ―増加する百日咳―(神谷 元、齋藤 昭彦、Mark H . Sawyer、小児感染免疫 Vol.18 No.2)
アメリカでは昨年より新たに成人用三種混合ワクチン(Tdap)が定期予防接種に組み込まれた。これは現行の三種混合ワクチン(DTaP)が高い接種率を維持しているにもかかわらず百日咳患者数が特に青年成人期で著増しており、さらにこのグループを介した乳幼児への2次感染が問題化しているからである。アメリカの百日咳の現状・対策を検討し、わが国の百日咳対策特にTdapワクチンの早期導入の必要性を強く訴えたい。
とくに赤ちゃんを守る目的で出産前の妊婦さんに推奨しているのが画期的です。
有効性も安全性もデータで保証されています。
■ 妊娠中の女性へ百日咳ワクチンの接種を推奨【米国CDC】(2012年10月26日)
☆ 百日咳から新生児を守るため
米国の疾病管理予防センター(CDC)の諮問委員会は、新生児の百日咳予防の為、妊娠中の女性は百日咳ワクチン(Tdap)の予防接種をするよう公に推奨した。
百日咳は米国では2012年10月18日の時点で症例が32,000人以上報告されており、16人の死亡例が報告されている。また、死者の大半は生後3ヶ月未満の乳児の間で発生し続けているという。
日本でも生後6カ月以下の乳児が百日咳ワクチンを含むDPTワクチンを接種していない場合、罹患した際は未だに死に至る危険性があるとされている。
CDCはこの百日咳から新生児を守るため、医療従事者は妊娠中の患者へTdapを投与する必要があると推奨した。また、妊娠中に投与されなかった女性には産後直ちに投与すべきであるとした。
妊娠中にTdapを接種することで母体の百日咳抗体は新生児へ転送し、新生児がDTaP(小児用の百日咳ワクチンを含む混合ワクチン)を接種開始する前に予防できるというのだ。同時に、Tdapは母親も保護するため彼女の幼児に移す可能性も低くするとした。
■ 妊婦の百日咳接種、有効率9割超(2014年07月23日:m3.com)
文献:Amirthalingam G,et al.Effectiveness of maternal pertussis vaccination in England: an observational study.Lancet. 2014 Jul 15. pii: S0140-6736(14)60686-3. doi: 10.1016/S0140-6736(14)60686-3.
英国で2012年10月に導入された妊婦への百日咳ワクチン投与プログラムの有効性を観察研究で検証。感染確定乳児数は2012年10月をピークに低下した。2012年と2013年の比較で感染者/入院者数低下率が最も高かったのは3歳児未満群だった。プログラム導入後に出生し、3カ月未満で感染した乳児数に基づく有効率は91%だった。
それに比べると日本では、小学校高学年の二種混合(DT)で終了して以降のfollowはありません。
ここにもワクチン行政の遅れを実感する次第です。
近い将来にTdap導入が期待できないなら現行のDPT(アメリカではDTaPと表記)を利用して同レベルの効果を期待できないか、と検討され、今後「成人への追加免疫にはDPTを0.2ml接種」へ移行するという話が出てきています。
■ KNOW★ VPD!「百日咳」
■ 成人におけるジフテリア・百日咳・破傷風(DPT) 3 種混合ワクチン 0.2mL 接種の百日咳抗体への効果
(柳澤 如樹ほか、感染症学雑誌 第83巻 第 1 号)
よい方法だとは思いますが、日本独自の方法であり世界的には認知されていないことが気がかりです。
例えば、留学や帯同・海外赴任の際に接種証明書の提出を求められます。現実問題として「Tdapの代わりとしてDTaPを認めてもらえない、接種したことにならない」というトラブルが発生する可能性があると云うことです。
さて、米国ではTdapを行っているにもかかわらず、百日咳の罹患数が期待通りには減っていないことも報告されています。
■ 百日咳のTdap追加、予防効果は中度(2013年07月22日:m3.com)
文献:Roger B et al.Effectiveness of pertussis vaccines for adolescents and adults: case-control study.BMJ 2013;347:f4249.
11歳以上の3万2365人(PCR陽性668人、陰性1万98人、対照2万1599人)を対象に、百日咳予防のための三種混合ワクチン(Tdap)追加接種の有効性を症例対照研究で検討。有効性の調整後推定値は、陰性群との比較で53.0%、対照群との比較で64.0%だった。Tdap追加接種の有効性は中等度と結論された。
学会レベルではワクチンの性質の関与も指摘されているようです。
日本が昔使用し副反応の強さで破棄した“全細胞ワクチン”の方が効果が高く、その後日本が開発して普及した“無細胞ワクチン”の効果が劣るのではないか?、と。
■ 百日咳を“世界共通の問題”として考える(週刊医学界新聞 第3084号:2014年07月14日)
齋藤 昭彦(新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野・教授)
「効果の高いワクチンは副反応も強い、副反応の弱いワクチンは効果も低い」というジレンマ。
その昔、日本で副反応が問題となり破棄されたワクチンも“全細胞ワクチン”(あるいは全菌体ワクチン)であり、それを解決するために開発されたのが“無細胞ワクチン”(あるいは無菌体ワクチン)なのでした。
■ IDWR感染症の話「百日咳」より抜粋
・・・1970年代から、DPT ワクチン、ことに百日咳ワクチン(全菌体ワクチン)によるとされる脳症などの重篤な副反応発生が問題となり、1975年2月に百日咳ワクチンを含む予防接種は一時中止となった。
その後、わが国において百日咳ワクチンの改良研究が急いで進められ、それまでの全菌体ワクチン(whole cell vaccine)から無細胞ワクチン(acellular vaccine)が開発された。1981年秋からこの無細胞(精製、とも表現する)百日咳ワクチン(aP)を含むDPT 三種混合ワクチン(DTaP)が導入された。
日本人の心情として、今さら副反応の強いワクチンに戻れません。
効果を優先するか、安全性を優先するか、悩ましい。
この点、ポリオ生ワクチンと不活化ワクチンの関係にも似ていますね。
百日咳対策には、まだゴールが見えてきません。