徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

2012-13シーズンのインフルワクチンの効果が低かった理由

2014年01月01日 10時19分08秒 | 小児科診療
 あけましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願い致します。

 このブログでは街の小児科開業医の視点から見た医療関係ニュースを取りあげてきました。ときに「日々雑感」が混じり、管理人の興味に走ることもありますが・・・今年も同様のペースでコツコツと記していく所存です。


 さて、今年初めのブログ内容は、あまりおめでたくない、インフルエンザワクチンの効果に関しての無視できない情報です。
 最近「昨シーズンのインフルワクチンの効果は低かったのではないか?」という論調の記事が散見され、気になっていました。子どもの流行は小規模で終わったのですが、内科の先生の話を聞くと高齢者では「無効感」が顕著だった様子。
 それを裏付ける情報が流れました;

インフルエンザ:昨季ワクチン効果低く 製造中、株が変質
(毎日新聞:2013年12月30日)



 昨シーズンのインフルエンザワクチンが、A香港型に対しては効果が低かった可能性があることが国立感染症研究所の調査で分かった。ニワトリの卵を使ったワクチンの製造中に起きるウイルス株の変質が大きかったためと考えられ、専門家は製造方法の見直しを求めている。
 季節性インフルエンザにはA香港型、Aソ連型、B型、H1N1型(2009年の新型インフルエンザ)がある。国は、シーズンごとに流行予測などからワクチンを作るウイルスを選定する。メーカーは、そのウイルスをニワトリの有精卵で培養して免疫をつける成分を取り出す「鶏卵培養法」で生産する。
 昨シーズンは、ワクチンを接種してもA香港型に感染する患者が多く、医師から効果を疑問視する声が上がっていた。同研究所の小田切孝人・インフルエンザウイルス研究センター室長らが、昨シーズンに流行したA香港型のウイルスと、ワクチン用に培養した後の成分を比べたところ、培養後は遺伝子配列が変わり、性質が大きく異なっていた。
 ワクチン生産の際、「卵順化(たまごじゅんか)」と呼ばれるウイルスを培養しやすくする工程で、性質が変わりやすいことが知られるが、昨シーズン選定したA香港型のウイルス株は特に変質が大きく、流行ウイルスへの防御効果が下がってしまったとみられるという。
 小田切室長は「鶏卵培養法では、変質は避けられない。動物などの細胞を使ってウイルス株を培養する細胞培養法であれば変質は少ない。生産方法の切り替えを急ぐべきだ」と話す。


 流行株と選定株が一致すれば有効率が高く流行が抑えられる・・・と信じて患者さんに説明しせっせと接種してきた私は裏切られた感じです。
 意外なところに落とし穴があったのですね。

 なお、今シーズンは昨年のようなミスマッチはないと予想されています。今シーズン選定された株は培養過程で変化しにくいと説明されていました。
 さて、現実にはどうなることやら・・・。

 より詳しい記事はこちら;

昨冬のインフルエンザワクチン、効果減弱の理由
(2013/12/3 増谷 彩=日経メディカル)
 今年もインフルエンザの流行期が目前に迫ってきた。昨シーズン(2012/13年シーズン)は、患者の2割を高齢者が占め、ワクチンを接種した高齢者でもインフルエンザを発症するケースが多く報告された。インフルエンザワクチンを接種すれば発症を完全に予防できるわけではないが、昨シーズンは、ワクチン接種後の抗体価上昇が不十分だったり、ワクチン製造株と流行株との抗原性一致率が低かったという事実を指摘する声もある。果たして、ワクチンの効果は減弱していたのだろうか。そして今シーズンの展望は――。
 高齢者施設を中心にインフルエンザの施設内集団感染が相次いで報告された2012/13年シーズン。ワクチンを接種していた入所者が発症した例も多く報じられ、秋田県内の病院で発生した入院患者49人のインフルエンザ集団感染では、ワクチン接種歴のある70歳代の女性が亡くなっている。
 日本臨床内科医会のインフルエンザ研究班が行った調査では、昨シーズンの感染者の内訳は、成人、特に高齢者の割合が19.8%と、過去数年で最も高かったことが分かっている。同調査に携わった九大先端医療イノベーションセンター特任教授の池松秀之氏は、「インフルエンザの感染の主体となる年代は、流行するウイルスによって異なる印象がある」と考察する。


図1 過去4シーズンにおけるA亜型の年齢構成 昨シーズンのA(H3N2)型は、最近の4シーズンのA亜型の中で60歳以上の高齢者の割合が最も高かった。
(出典:河合直樹ほか.インフルエンザ診療マニュアル 2013-2014年シーズン版(第8版)、P5. 日本臨床内科医会、東京、2013年.)

流行株とワクチン株の抗原性は極めて高い割合で一致
 インフルエンザワクチンの効果が最大限に発揮されるには、そのシーズンのワクチンとして選定したウイルス株(ワクチン株)と、実際に流行したウイルス株(流行株)の抗原性が一致する必要がある。国立感染症研究所(感染研)によると、2012/13年シーズンのインフルエンザウイルスは、香港型のA(H3N2)型を主流とし、A(H1N1)pdm09型、B型が入り交じる3種混合流行だった(IASR Vol.34,p.328-334:2013年11月号)。
 分離された流行株について、ワクチン株と抗原性が一致する割合を解析したところ、H1N1型ワクチン株は95%、H3N2型は98%、B型は100%と極めて高かった。つまり、昨シーズンのワクチン株の選定自体は適切だったことが分かる。

抗体価が上がらず感染防御できず?
 ワクチン株と実際の流行株の一致率が高いのに、ワクチンを接種していた高齢者にも集団感染が多発したのはなぜだろうか。この原因について、国立病院機構熊本再春荘病院リウマチ科部長の森俊輔氏は、「インフルエンザワクチンを接種した後の抗体価が十分に上昇していなかった可能性があるのではないか」と語る。
 森氏は、2012/13年シーズンに同院でインフルエンザワクチンを接種した看護師62人について、接種前後の抗体価を調べた。その結果、抗体陽転率は20%程度であることが分かったという。抗体保有率については、H1N1型では70%を越えたものの、H3N2型とB型は50%に留まったという(論文投稿中)。「これは、欧州医薬品庁(EMA)が行う有効性評価の基準値(表1)に達しない数値。欧州であればこのようなワクチンは出荷されない」(森氏)。


表1 欧州におけるインフルエンザワクチン有効性評価基準(EMA評価基準)(編集部にて作成) ワクチン接種前後の抗体価で評価する。欧州では、3項目のうち、最低でも1項目以上の基準を満たさなければ出荷できない。

 実際に、同院でインフルエンザワクチンを接種した後にインフルエンザを発症した看護師は16人に上った。この16人のインフルエンザワクチン接種後の抗体価を確認したところ、全員が40倍以上に達していなかったという。森氏は「昨年度は、私が知る限り初めて病棟閉鎖という事態に陥った。これまで、このような問題が起きたことはなかった」と語る。

ワクチン出荷時にヒトの抗体価測定は行わず
 日本では、季節性インフルエンザワクチンを出荷する際に力価試験や異常毒性否定試験といった国家検定を受け、検定基準を満たすことが求められる。しかし、ヒトが接種した場合の抗体陽転率や抗体価を確認する試験などは課されていない。一方、欧州ではEMA基準に基づいてヒトにおける有効性を満たさなければ出荷できない。このEMA基準は、インフルエンザワクチンの有効性の国際的な評価基準にもなっている。

 森氏は、「インフルエンザワクチンを国として承認する以上、費用対効果を検証するべきだ。せめて、EMA基準のような基準を作り、ヒトが接種した場合の防御効果を担保してから出荷すべきではないか」と指摘する。
 ただし、ワクチン接種後の抗体価に関しては、異なる結果も出ている。日本臨床内科医会インフルエンザ研究班が行った調査では、2012/13年シーズンのワクチン接種後の抗体価が40倍以上となった人は、B型は69.6%、H1N1型が85.1%、H3N2型が95.4%に上り、「例年と同等か、それ以上に上昇していた」(同調査に携わった池松氏)。
 しかし、同会がインターネットで昨シーズンのインフルエンザワクチン接種者と非接種者をあらかじめ登録し、その後のインフルエンザ罹患状況を追跡した前向き研究では、9歳以下のA型において高い有効性を認めたものの、成人で有意な有効性を示した年代はなかった。池松氏は、「成人では非接種群でも罹患歴がある可能性が高く、この検証方法ではワクチンの有効性の把握には限界がある。しかし、昨シーズンはこれまでの調査の中でも成人、特に70歳代以上における有効性が低かった」と語る。
 抗体価の測定結果が調査によってばらつくのは、対象者それぞれの罹患歴やワクチン接種の頻度に加え、測定時の血球選択が不均一であるといった実験系の影響などもある。森氏は、「インフルエンザワクチンを接種しても、抗体価が十分に上がっていない可能性があることは常に念頭に置いておかなければならない」と話す。

ワクチン製造時の抗原性変異で効果減弱?
 最近は、ワクチンの効果が減弱する要因として、別の指摘もなされている。それが、ワクチンを製造する過程における抗原性の変化だ。
 インフルエンザワクチンは、発育鶏卵(卵)を用いて製造している。季節性インフルエンザワクチンを大量に生産するには、卵での増殖能の高いワクチン製造株が必要だ。そのため、ワクチン製造用には、ワクチン株と、卵での増殖能の高いウイルス株との間で遺伝子交雑をして作った、増殖能が高いワクチン製造株を使用している。
 この遺伝子交雑の過程で、ワクチンの主成分となるウイルス粒子表面に突出しているHA(赤血球凝集素)蛋白の抗原性に関わる遺伝子に変異が生じるために、ワクチン株の抗原性が変化してしまう。これを、卵馴化による抗原性変異という。つまり、実際に製造されるワクチンは、抗原性がワクチン株と完全に一致するわけではないのだ。
 感染研インフルエンザウイルス研究センター第一室室長の小田切孝人氏は、「H3N2型ウイルスは、昨シーズンのワクチンも含め、2008/09年シーズンあたりから、卵馴化による抗原性変異を起こしやすい性質になっているようだ」との認識を示す。さらに小田切氏は、「抗原変異したワクチン製造株で誘導されるヒト血清抗体は、流行株との反応性が低下する傾向がみられる」と語る。
 流行株とワクチン株が一致していても、ワクチン製造株の抗原性が変異していれば、ワクチン防御効果の減弱が懸念される。実際に、感染研の調査では、2012/13年シーズンのH3N2型ワクチン製造株と、H3N2型の流行株の抗原性を比較したところ、対象とした流行株すべてに対して抗原性が変異していたことが分かった。しかも、7割以上の流行株に対しては、「大幅な変異」(※1)が認められた。
 「ワクチンの効果が弱かったと言われる原因が製造株の抗原性の変異と直接結びつくかどうかは臨床研究で評価しないと分からないが、H3N2型では、ワクチンの効果が減弱する要因の1つとなった可能性は否定できない」(小田切氏)。

※1 赤血球凝集抑制試験で、ワクチン株に対して作った抗体との反応性を評価し、反応性が8倍以上低下した場合は、抗原性が変異しているとみなす。32倍以上低下した場合は、大幅な抗原性の変異とみなす。

 しかし、今シーズン(2013/14年シーズン)はこの影響がやや小さくなることが期待できそうだ。これは、今シーズンのH3N2型のワクチン株に、卵馴化しても抗原変異の影響が小さい「A/テキサス/50/2012(X-223)」株を採用したためだ(表2)。


表2 2013/14年シーズン用インフルエンザワクチン株
(出典:IASR Vol. 34,p339: 2013年11月号.)

 この株での卵馴化後の抗原性変異の割合を検討したところ、変異は起きているものの、大幅な抗原性の変化の程度はわずか1%にとどまっていた。卵馴化の影響は、昨シーズンのワクチンに比べ大きく改善されている。また、H1N1pdm09型やB型ワクチンでは卵馴化しても抗原変異を起こさない。
 ただし、小田切氏は、鶏卵でワクチンを製造している以上、この問題を完全には避けることはできないとしており、「現在製造承認申請を目指している細胞培養ワクチンなら、製造過程で起こる抗原変異の問題は解決できる可能性がある」と語る。
 インフルエンザを予防するには、ワクチンで免疫をつけるしかない。だが、インフルエンザワクチンの発症予防効果には限界があり、これまで述べたようにシーズンごとに変動する可能性もある。流行期に入った今冬も、医療現場では、ワクチンを接種すれば大丈夫、と過信することなく、咳エチケットなど基本的なウイルス対策に万全を期すことが重要だ。
 小田切氏は、「まずはウイルスに曝露しないことが第一。入院施設や老人養護施設などの場合は、インフルエンザの時期に外部からウイルスを持ちこまない配慮、すなわちマスクの着用や手洗いの励行など基本的な対策を徹底すべきだ」と強調している。


 ワクチン完成品でヒトの抗体上昇を確認していなかったとはいやはやお粗末としか言いようがありません。
 「日本の品質管理は世界一!」だったはず。
 しかし蓋を開けてみると日本のチェック体制ってこんないい加減だったのかあ・・・絶句。

 もはや日本の美徳でもあった「専門家におまかせ」という風習は捨て去った方がよいかもしれません。
 トラブルを未然に防ぐには、第三者の目で厳しく監視する体制を構築しないと。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 34例目の先天性風疹症候群が発生 | トップ | 今年のインフルエンザはタミ... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小児科診療」カテゴリの最新記事