これは小児科医にとっては常識です。
しかし、一般の子育て世代では?
おじいちゃん、おばあちゃん世代では?
悲劇が起きてしまいました。
■ 乳児ボツリヌス症で男児死亡、1カ月間離乳食にハチミツ
(2017/4/10:日経メディカル)
東京都は4月7日、都内に住む生後5カ月の男児が乳児ボツリヌス症で死亡したことを明らかにした。国立感染症研究所で同症に関する記録が残っている1986年以降、初めての死亡例という。男児は発症する1カ月ほど前から、離乳食としてハチミツを混ぜた市販のジュースを習慣的に飲んでおり、そのハチミツが乳児ボツリヌス症の原因と推定されている。
東京都によると、男児は1月中旬ごろから、離乳食開始とともにハチミツ入りのジュースを飲み始めた。家族からの聞き取りでは、1日に2回、計10gほどを摂取していたという。男児と同居していた家族の中には「1歳未満の乳児にハチミツを与えてはいけない」ことを知らなかった人がいたのもわかっている。
2月16日には咳や鼻水などが表れ、さらに20日にはけいれん、呼吸不全などのため医療機関に救急搬送された。22日に医療機関から最寄りの保健所に報告があり、30日に男児は死亡。男児の糞便と自宅に保管してあった開封済みのハチミツからボツリヌス菌が検出された。当該保健所は、発症から死亡に至る経過から、死亡原因はボツリヌス菌によるものと断定した。
東京都福祉保健局健康安全部食品監視課によると、厚生労働省が自治体に対して「保護者、児童福祉施設等に対し、1歳未満の乳児にハチミツを与えないように指導すること」と通知を出したのは1987年。「現在では自治体主催の母親学級や乳幼児健診などで周知されているが、通知が出る前の時代に子育てをしていた人は乳児ボツリヌス症について知らない可能性も考えられる」と担当者は話している。
次は医師による解説的コメントです。
乳児の初発症状は「乳児では、泣き声が小さくなり、乳を吸う力も弱まります。全身の筋力が低下して、頭や手足を支えることができなくなります。」だそうです。
■ 赤ちゃんとハチミツとボツリヌス
(2017年4月14日:読売新聞)
◇ 乳児で国内初の死亡例
生後6か月の赤ちゃんにハチミツを混ぜたジュースを飲ませたことで、乳児ボツリヌス症を発症してしまった事例が報告されました。ボツリヌス菌は、瓶詰や缶詰などの身近な食品で増殖して、食中毒の原因となります。ハチミツは、ボツリヌス菌を含んでいることがあるため、1歳未満の赤ちゃんに与えてはいけません。今回は、このボツリヌスについてのお話です。
◇ 酸素に弱い細菌
ボツリヌス菌の重要な特徴として、酸素が嫌いだということが挙げられます。このため、ボツリヌス菌は、瓶詰めや缶詰、あるいは真空パックなど、空気に触れにくい食品で増殖しやすいのです。さらに、酸素のある環境では 芽胞という、ヒマワリの種のような殻に覆われているのですが、低酸素状態になると発芽し、強力な毒素をつくるのです。
ボツリヌス菌の毒素は神経に作用し、ごく少量でも呼吸に必要な筋肉を 麻痺させます。わずか500グラムで人類を滅ぼすこともできるといわれ、生物テロに使われることも心配されています。
感染すると、数時間~数日で症状が出てきます。成人の場合は、最初は眼に関する症状が多く、視力低下、複視(ものが二重に見える)、 眼瞼下垂がんけんかすい (まぶたが下がる)などが表れます。続いて、飲み込みや歩行が難しくなり、病気が進行すると呼吸困難になります。乳児では、泣き声が小さくなり、乳を吸う力も弱まります。全身の筋力が低下して、頭や手足を支えることができなくなります。
◇ 繰り返す集団食中毒
ボツリヌスという名前は、ラテン語でソーセージ(腸詰)を意味する「botulus」が基になっています。これは、19世紀末にボツリヌス菌がヨーロッパで認識されたころには、自家製ソーセージによる食中毒が多かったことに由来するといわれています。
過去の集団食中毒の例をみながら、その事実を確認してみましょう。
日本ではじめて報告されたボツリヌス食中毒は、1951年に北海道で起こった自家製の「いずし」が原因でした。魚類を発酵させる食品は、酸素の嫌いな菌にとっては絶好の棲処だったのです。
84年には、熊本で製造された真空パックの辛子レンコンによる食中毒が起こりました。この時には、14都道府県で36人の患者が出て、そのうち11人が亡くなりました。
2006年、タイで過去最大の集団発生が起こりました。自家製のタケノコ缶詰で、209人が発症し、134人が入院、呼吸筋の麻痺で42人が人工呼吸器をつけました。
◇ なぜ1歳未満はダメ?
通常は、ボツリヌス菌がハチミツに入ったとしても、菌の量はごくわずかです。大人の消化管内では発芽せず、毒素を作りません。しかし、詳しい仕組みは、まだ解明されていないのですが、1歳未満の乳児の未熟な消化管では、ボツリヌス菌が発芽して強力な神経毒をつくり出す場合があるのです。
かつて日本でも、乳児ボツリヌス症の発生が続いたことがあります。このため、1987年に当時の厚生省が、「1歳未満の乳児にハチミツを与えないように」と指導するよう、都道府県などに通知を出しました。
◇ 妊婦でなくても要注意
今は、妊婦に対しては、母子手帳や妊娠中の啓発用冊子などで情報提供されています。そのため、ハチミツに注意が必要なことは常識と思っているお母さんも多いでしょう。
大半の場合、ハチミツ瓶のラベルにも、1歳未満の乳児には与えないよう記載されています。しかし、小さな文字で書かれた注意書きに気付く人は多くありません。甘くて喉ごしの良いハチミツは、子どもに食べさせやすい食品でもあるので、その情報を知らなければ、乳児に与えてしまう危険性があります。
◇ 身近に潜む危険
近年は、瓶詰のキャビアやオリーブなど、輸入食品によるボツリヌス食中毒も報告されています。自家製の瓶詰め野菜や、井戸水、湧水による感染も起きることがあります。ボツリヌスがつくり出す毒素は、100度で10分間加熱することで不活化するとされていますが、オリーブなどの加熱しない食品も多く、なかなか発生を完全には防ぐことはできません。
最近は、保存用のガラス瓶「メイソンジャー」でつくるサラダが人気です。持ち運びや保存に便利で、見た目もオシャレなのですが、蓋を閉めると真空に近い環境になり、ボツリヌスが活躍するには好条件となってしまうのです。米疾病対策センター(CDC)は、家庭における野菜などの瓶詰に対して注意喚起しています。
『 Home Canning and Botulism 』CDC
ボツリヌスは、土壌中など自然の環境に存在している菌です。決して発生の頻度は高くありませんが、「あなたの身近にもボツリヌスの危険は存在している」ということを知っておいてください。
最近、一部の小児科医の間で「咳止め」としてハチミツを処方することが流行りつつあります。
お兄ちゃん、お姉ちゃんに処方されたハチミツを、飲ませやすいからという理由だけで赤ちゃんに流行すると、大変なことになるかもしれませんのでご注意を。
もう一つ、医師による感想的コメントを紹介します;
■ 乳児にハチミツは危険…知らなかった人は「非常識」なのか
(2017年4月13日:読売新聞)
とても悲しいニュースがありました。
東京都で、離乳食としてはちみつを与えられた生後6か月の男の子が「乳児ボツリヌス症」で死亡しました。都の発表によると、男の子は今年1月から、ジュースに市販のはちみつを混ぜたものを1日平均2回ほど与えられており、2月半ばにせきなどの症状が出て、3月末に死亡しました。便や自宅のはちみつからボツリヌス菌が検出されたそうです。
このニュースを受けて、SNSでは「乳児がはちみつを食べてはいけないというのは常識だ」という意見が多く見られました。乳児は腸内細菌のバランスが未熟なため、ボツリヌス菌が口から入った場合に繁殖を防ぐことができません。はちみつがいけないことは、確かに母子手帳にも記載されていますし、今ではこれは「常識」とされていると言って良いかと思います。
しかし、母子手帳をすみからすみまで読まない人もいるでしょうし(本当は読んでほしいのですが)、医療機関や乳幼児健診で必ず教えてくれるわけでもないので、知らない人がいてもおかしくありません。実際に、レシピ投稿サイトではちみつを使った離乳食が載せられていたり、古くはグルメ漫画に紹介されたりしたこともあります。「赤信号は『止まれ』のサイン」というほどには、全国民に周知されているとは言えないのが現実です。
◇ 実は「黒糖も危険」…私も知りませんでした
赤ちゃんや子供の「食の安全」については、大人が気をつけるしかない問題ですが、自分でも100%わかっているかというと、自信がありません。私も、今回のニュースをきっかけに、はちみつと同様の理由で乳児には黒糖をやらない方が良いということを、初めて知りました。土壌にいるボツリヌス菌は熱に耐性があり、通常の調理での加熱では死滅しないことも多いため、サトウキビから黒糖を作る際に残っていることがあるのだそうです。
黒糖をわざわざ離乳食に使う人は多くないとは思いますが、「白い砂糖には漂白剤が使われている」や「白い食べ物は体を冷やす」など、事実ではない情報を信じて、いつも砂糖の代わりに黒糖を使っている人は、赤ちゃんの食事にもそうしているかもしれません。十分洗っていない野菜や果物だって、注意が必要です。食の安全というと、残留農薬や食品添加物を気にしがちですが、基準範囲内の農薬や添加物よりもこわいのは寄生虫や腐敗です。大人が適切に判断して食べさせる必要があります。
◇ 食の安全、考え直す機会に
妊婦、授乳婦、赤ちゃんが口にするものには様々な注意事項があり、「取りすぎに気をつけなければいけない」ものと、「絶対に避けた方が良い」ものがあります。一方で、リスクをゼロにしようとすると栄養が偏ったり、食べられるものがまったくなくなってしまったり、食事を全然楽しめなくなったりしかねません。私自身、その兼ね合いはなかなか難しいと、日々感じます。
今回の件では、知らなかった人を非常識だと責めるのではなく、食の安全を守る上で必要な情報をどう周知するか、その方法を考え直す機会にしたいと思います。
<参考>
★ 「ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから」(厚生労働省)
★ 「乳児ボツリヌス症」の本邦第一例(IASR)
★ 「ボツリヌス症 2008年1月現在」(IASR)
★ 「乳児と大人の腸内細菌のちがい」(光岡知足先生)
★ 「子どもへの“かぜ薬”をめぐる議論あれこれ」(当院ブログ)
しかし、一般の子育て世代では?
おじいちゃん、おばあちゃん世代では?
悲劇が起きてしまいました。
■ 乳児ボツリヌス症で男児死亡、1カ月間離乳食にハチミツ
(2017/4/10:日経メディカル)
東京都は4月7日、都内に住む生後5カ月の男児が乳児ボツリヌス症で死亡したことを明らかにした。国立感染症研究所で同症に関する記録が残っている1986年以降、初めての死亡例という。男児は発症する1カ月ほど前から、離乳食としてハチミツを混ぜた市販のジュースを習慣的に飲んでおり、そのハチミツが乳児ボツリヌス症の原因と推定されている。
東京都によると、男児は1月中旬ごろから、離乳食開始とともにハチミツ入りのジュースを飲み始めた。家族からの聞き取りでは、1日に2回、計10gほどを摂取していたという。男児と同居していた家族の中には「1歳未満の乳児にハチミツを与えてはいけない」ことを知らなかった人がいたのもわかっている。
2月16日には咳や鼻水などが表れ、さらに20日にはけいれん、呼吸不全などのため医療機関に救急搬送された。22日に医療機関から最寄りの保健所に報告があり、30日に男児は死亡。男児の糞便と自宅に保管してあった開封済みのハチミツからボツリヌス菌が検出された。当該保健所は、発症から死亡に至る経過から、死亡原因はボツリヌス菌によるものと断定した。
東京都福祉保健局健康安全部食品監視課によると、厚生労働省が自治体に対して「保護者、児童福祉施設等に対し、1歳未満の乳児にハチミツを与えないように指導すること」と通知を出したのは1987年。「現在では自治体主催の母親学級や乳幼児健診などで周知されているが、通知が出る前の時代に子育てをしていた人は乳児ボツリヌス症について知らない可能性も考えられる」と担当者は話している。
次は医師による解説的コメントです。
乳児の初発症状は「乳児では、泣き声が小さくなり、乳を吸う力も弱まります。全身の筋力が低下して、頭や手足を支えることができなくなります。」だそうです。
■ 赤ちゃんとハチミツとボツリヌス
(2017年4月14日:読売新聞)
◇ 乳児で国内初の死亡例
生後6か月の赤ちゃんにハチミツを混ぜたジュースを飲ませたことで、乳児ボツリヌス症を発症してしまった事例が報告されました。ボツリヌス菌は、瓶詰や缶詰などの身近な食品で増殖して、食中毒の原因となります。ハチミツは、ボツリヌス菌を含んでいることがあるため、1歳未満の赤ちゃんに与えてはいけません。今回は、このボツリヌスについてのお話です。
◇ 酸素に弱い細菌
ボツリヌス菌の重要な特徴として、酸素が嫌いだということが挙げられます。このため、ボツリヌス菌は、瓶詰めや缶詰、あるいは真空パックなど、空気に触れにくい食品で増殖しやすいのです。さらに、酸素のある環境では 芽胞という、ヒマワリの種のような殻に覆われているのですが、低酸素状態になると発芽し、強力な毒素をつくるのです。
ボツリヌス菌の毒素は神経に作用し、ごく少量でも呼吸に必要な筋肉を 麻痺させます。わずか500グラムで人類を滅ぼすこともできるといわれ、生物テロに使われることも心配されています。
感染すると、数時間~数日で症状が出てきます。成人の場合は、最初は眼に関する症状が多く、視力低下、複視(ものが二重に見える)、 眼瞼下垂がんけんかすい (まぶたが下がる)などが表れます。続いて、飲み込みや歩行が難しくなり、病気が進行すると呼吸困難になります。乳児では、泣き声が小さくなり、乳を吸う力も弱まります。全身の筋力が低下して、頭や手足を支えることができなくなります。
◇ 繰り返す集団食中毒
ボツリヌスという名前は、ラテン語でソーセージ(腸詰)を意味する「botulus」が基になっています。これは、19世紀末にボツリヌス菌がヨーロッパで認識されたころには、自家製ソーセージによる食中毒が多かったことに由来するといわれています。
過去の集団食中毒の例をみながら、その事実を確認してみましょう。
日本ではじめて報告されたボツリヌス食中毒は、1951年に北海道で起こった自家製の「いずし」が原因でした。魚類を発酵させる食品は、酸素の嫌いな菌にとっては絶好の棲処だったのです。
84年には、熊本で製造された真空パックの辛子レンコンによる食中毒が起こりました。この時には、14都道府県で36人の患者が出て、そのうち11人が亡くなりました。
2006年、タイで過去最大の集団発生が起こりました。自家製のタケノコ缶詰で、209人が発症し、134人が入院、呼吸筋の麻痺で42人が人工呼吸器をつけました。
◇ なぜ1歳未満はダメ?
通常は、ボツリヌス菌がハチミツに入ったとしても、菌の量はごくわずかです。大人の消化管内では発芽せず、毒素を作りません。しかし、詳しい仕組みは、まだ解明されていないのですが、1歳未満の乳児の未熟な消化管では、ボツリヌス菌が発芽して強力な神経毒をつくり出す場合があるのです。
かつて日本でも、乳児ボツリヌス症の発生が続いたことがあります。このため、1987年に当時の厚生省が、「1歳未満の乳児にハチミツを与えないように」と指導するよう、都道府県などに通知を出しました。
◇ 妊婦でなくても要注意
今は、妊婦に対しては、母子手帳や妊娠中の啓発用冊子などで情報提供されています。そのため、ハチミツに注意が必要なことは常識と思っているお母さんも多いでしょう。
大半の場合、ハチミツ瓶のラベルにも、1歳未満の乳児には与えないよう記載されています。しかし、小さな文字で書かれた注意書きに気付く人は多くありません。甘くて喉ごしの良いハチミツは、子どもに食べさせやすい食品でもあるので、その情報を知らなければ、乳児に与えてしまう危険性があります。
◇ 身近に潜む危険
近年は、瓶詰のキャビアやオリーブなど、輸入食品によるボツリヌス食中毒も報告されています。自家製の瓶詰め野菜や、井戸水、湧水による感染も起きることがあります。ボツリヌスがつくり出す毒素は、100度で10分間加熱することで不活化するとされていますが、オリーブなどの加熱しない食品も多く、なかなか発生を完全には防ぐことはできません。
最近は、保存用のガラス瓶「メイソンジャー」でつくるサラダが人気です。持ち運びや保存に便利で、見た目もオシャレなのですが、蓋を閉めると真空に近い環境になり、ボツリヌスが活躍するには好条件となってしまうのです。米疾病対策センター(CDC)は、家庭における野菜などの瓶詰に対して注意喚起しています。
『 Home Canning and Botulism 』CDC
ボツリヌスは、土壌中など自然の環境に存在している菌です。決して発生の頻度は高くありませんが、「あなたの身近にもボツリヌスの危険は存在している」ということを知っておいてください。
最近、一部の小児科医の間で「咳止め」としてハチミツを処方することが流行りつつあります。
お兄ちゃん、お姉ちゃんに処方されたハチミツを、飲ませやすいからという理由だけで赤ちゃんに流行すると、大変なことになるかもしれませんのでご注意を。
もう一つ、医師による感想的コメントを紹介します;
■ 乳児にハチミツは危険…知らなかった人は「非常識」なのか
(2017年4月13日:読売新聞)
とても悲しいニュースがありました。
東京都で、離乳食としてはちみつを与えられた生後6か月の男の子が「乳児ボツリヌス症」で死亡しました。都の発表によると、男の子は今年1月から、ジュースに市販のはちみつを混ぜたものを1日平均2回ほど与えられており、2月半ばにせきなどの症状が出て、3月末に死亡しました。便や自宅のはちみつからボツリヌス菌が検出されたそうです。
このニュースを受けて、SNSでは「乳児がはちみつを食べてはいけないというのは常識だ」という意見が多く見られました。乳児は腸内細菌のバランスが未熟なため、ボツリヌス菌が口から入った場合に繁殖を防ぐことができません。はちみつがいけないことは、確かに母子手帳にも記載されていますし、今ではこれは「常識」とされていると言って良いかと思います。
しかし、母子手帳をすみからすみまで読まない人もいるでしょうし(本当は読んでほしいのですが)、医療機関や乳幼児健診で必ず教えてくれるわけでもないので、知らない人がいてもおかしくありません。実際に、レシピ投稿サイトではちみつを使った離乳食が載せられていたり、古くはグルメ漫画に紹介されたりしたこともあります。「赤信号は『止まれ』のサイン」というほどには、全国民に周知されているとは言えないのが現実です。
◇ 実は「黒糖も危険」…私も知りませんでした
赤ちゃんや子供の「食の安全」については、大人が気をつけるしかない問題ですが、自分でも100%わかっているかというと、自信がありません。私も、今回のニュースをきっかけに、はちみつと同様の理由で乳児には黒糖をやらない方が良いということを、初めて知りました。土壌にいるボツリヌス菌は熱に耐性があり、通常の調理での加熱では死滅しないことも多いため、サトウキビから黒糖を作る際に残っていることがあるのだそうです。
黒糖をわざわざ離乳食に使う人は多くないとは思いますが、「白い砂糖には漂白剤が使われている」や「白い食べ物は体を冷やす」など、事実ではない情報を信じて、いつも砂糖の代わりに黒糖を使っている人は、赤ちゃんの食事にもそうしているかもしれません。十分洗っていない野菜や果物だって、注意が必要です。食の安全というと、残留農薬や食品添加物を気にしがちですが、基準範囲内の農薬や添加物よりもこわいのは寄生虫や腐敗です。大人が適切に判断して食べさせる必要があります。
◇ 食の安全、考え直す機会に
妊婦、授乳婦、赤ちゃんが口にするものには様々な注意事項があり、「取りすぎに気をつけなければいけない」ものと、「絶対に避けた方が良い」ものがあります。一方で、リスクをゼロにしようとすると栄養が偏ったり、食べられるものがまったくなくなってしまったり、食事を全然楽しめなくなったりしかねません。私自身、その兼ね合いはなかなか難しいと、日々感じます。
今回の件では、知らなかった人を非常識だと責めるのではなく、食の安全を守る上で必要な情報をどう周知するか、その方法を考え直す機会にしたいと思います。
<参考>
★ 「ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから」(厚生労働省)
★ 「乳児ボツリヌス症」の本邦第一例(IASR)
★ 「ボツリヌス症 2008年1月現在」(IASR)
★ 「乳児と大人の腸内細菌のちがい」(光岡知足先生)
★ 「子どもへの“かぜ薬”をめぐる議論あれこれ」(当院ブログ)