徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

インフルエンザワクチンの効果を整理してみました。

2018年11月03日 13時29分46秒 | 小児科診療
 何かと話題のインフルエンザワクチン。
 小児科医は毎年なんだかんだで振り回されます。
 もう慣れっこになっていて、今年(2018年)も「ワクチンが足りない、いや足りるはず」と騒いでいますが、ただただあきれるだけです。
 先日のブログ「インフルエンザ情報アップデート2018」では菅谷憲夫先生の文章から引用したインフルエンザワクチンの効果が以下のようになっていました;

<小児>
① 小児では全体的に50%程度の発病防止効果がある。A(H1N1)pdm09では高く、B型はやや低めであるが、変異したA香港型においても30〜40%の効果が期待できる。
② ワクチン接種により、50%以上の高い入院防止効果がみられる。
③ 1歳未満の乳児には効果がない。

<成人>
① A(H1N1)pdm09とB型には50%前後の発病防止効果があるが、A香港型には低い(特に高齢者)。
② 健康成人であっても、発病防止効果は30〜40%と高くはない。


 いずれにしても、麻疹ワクチン、風疹ワクチンなどと比べると有効率がとっても低いですね。

 さてこれとは別に、やはりワクチン界のご意見番である中野貴司Dr.(川崎医大小児科教授)の文章もありましたので、メモ&引用してみます。

■ 「インフルエンザワクチンの効果」中野貴司、月刊薬事 2018.10(Vol.60 No.13)-53(2405)

 ワクチンのデータってたくさんあるので、どれを重視して選択するかで印象が変わってくるのです。
 なので何となく記憶しているだけでは混乱して訳がわからなくなります。
 インフルエンザのサブタイプ、対象年齢、研究方法などにより、数字が微妙に異なってきますので、そこを抑えておく必要があります。

・日本のコホート研究によるワクチンの有効率は、
<65歳以上の高齢者>
①「発症予防」34〜55%。
③「死亡回避」80%以上。
<6才未満小児>
①「発症予防」22〜25%。

・日本の診断陰性例コントロール試験(test-negative case-control design)による研究では、
<6歳未満小児>
①「発症予防」41〜60%

※ 海外での成績・報告
・米国における不活化スプリットワクチンによる高齢者での有効率は、
①「発症予防」30〜40%
②「入院回避」50〜60%
③「死亡回避」80%


 菅谷先生はA型、B型に区別していますが、中野先生はインフルエンザ全体で語っているところが異なります。
 また、聞き慣れない「コホート研究」「診断陰性例コントロール試験(test-negative case-control design)」などという研究方法の名前も出てきました。
 詳細は省きますが、簡単に説明すると、

【コホート研究】
 接種者と非接種者を追跡して発病率を比較する方法。

【診断陰性例コントロール試験(test-negative case-control design)】
 インフルエンザ様疾患で医療機関を受診した者を対象に、インフルエンザの検査診断陽性者(症例)と陰性者(対象、test-negative control)に分類し、過去にさかのぼってワクチン接種状況を比較する。

 ということらしいです。
 某講演会では、「診断陰性例コントロール試験」がメジャーになりつつあると講師の先生がコメントされていました。

<参考>
・「 小児におけるインフルエンザワクチンの有効性について」福島若葉(大阪市立大学公衆衛生学教室)2014.10.15
・「Test-negative case control design による成人の インフルエンザワクチン効果」(感染症誌 90:486〜492, 2016)
・「これからのワクチン効果判定法 ─test-negative case-control design(診断陰性例コントロール試験)─」菅谷憲夫、インフルエンザ 17(1), 35-38, 2016-01、メディカルレビュー社
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