私は小児科医ですが、
「日本思春期学会認定性教育講師」という資格もあり、
その周辺の情報も常にアンテナを張って集めています。
先日、下記の記事が目に留まりましたので紹介します。
内容は「世界的に女子の思春期発来時期が早まってきている」という報告です。
その理由・原因はいろいろ推測されているものの、明確にはわからず、
「社会の変化」というアバウトな表現になっていました。
思春期が早く来れば、当然本人も家族も戸惑い、
対応が必要になります。
外見が大人に見えても、中身は年齢相当の子どもですから、
周囲の環境作り・配慮が必要です。
<ポイント>
・早い時期からの生殖機能の発達は、女性の体と心の健康に深刻な影響を及ぼす可能性がある。世界的に女の子の間で、思春期が始まる平均年齢が、1977~2013年の間に10年ごとに3カ月ずつ早まっている。
・米国では、乳房の成長と月経のいずれも始まる時期が早まっている。初潮を迎える年齢が早まり、生理周期が規則正しくなるまでにより長い時間がかかるようになっている。早い時期(11歳未満)に初潮を迎える人の割合はほぼ倍増し、16%に達した。
・このような現象が起きている理由については、現時点ではわかっていることよりも疑問の方が多い。多くの異なる要因が重なった結果であり、全体に関わる要素としては、過去200年における世界の変化が挙げられる。
・肥満の女子は、通常体重の女子よりもエストラジオール(エストロゲンの一種)の濃度が高い。特に果物や野菜が少なく、動物性タンパク質や高度に加工された食品が多い食事は「エストロゲンなどの性ホルモンの濃度が高くなる。スナック菓子、デザート、揚げ物、ソフトドリンクを多く含む「不健康な食事」の摂取は、女子の思春期早発症と関連がある。
・社会的または経済的な困難に関わる幼少期のつらい経験や、虐待などのストレスも、思春期早発症の要因となり得る。思春期が始まるタイミングは、ストレスの影響を受けやすい。思春期の開始に影響を与える「視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)」がストレス反応の制御にも関わっているためである。
・日常的に使われる製品に含まれるフタル酸エステル類やビスフェノールといった内分泌かく乱物質が、こうした変化に関わっている可能性を示唆する研究も増えている。環境中に広く存在する多くの内分泌かく乱物質は、エストロゲンと似た作用を持っている。
・早く思春期を迎える女子は、速いスピードで成長し、その後、早めに成長が止まる。そうした子どもは、思春期が通常の時期に訪れた場合と比べて、最終的な身長が低くなる。
・思春期が早めに訪れることにより、乳がんのリスクのほか、成人後の肥満のリスクも高まる。高血圧、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、コレステロール異常、心血管疾患になる可能性も高まる。
・思春期早発症の女の子はうつ病、ストレス、不安のレベルが高く、適切なボディイメージを持つことが出来ず、感情の調整に多くの課題を抱える。
・思春期の始まりが非常に早い、あるいは進むスピードが速い場合には、それが単なるタイミングの問題であって、脳腫瘍などの病的な原因がないことを確認する必要がある。単なるタイミングの問題であれば「薬によって一時停止ボタンを押す」ことも可能である。そうしたケースでは「GnRHアゴニスト」という種類の薬を使用して思春期のスピードを緩め、身長の伸び悩みなどの有害な影響を防ぐ場合もある。
■ 早まり続ける女の子の思春期、なぜ? 早すぎる子の困難と対処法は
世界的に10年ごとに3カ月ずつ若年化、「思春期早発症」には治療薬も
(2024.06.26:National Geographic)より抜粋(下線は私が引きました);
★ 思春期早発症とは第二次性徴が平均より2~3年早く現れることを指す。日本では女の子の場合、乳房の発達が7歳未満あるいは7歳6カ月未満で始まるなどの定義がある。
思春期が始まる平均的な年齢は、20世紀以降、下がり続けており、中には6〜7歳から胸の発達が始まる女の子もいる。こうした早い時期からの生殖機能の発達は、女性の体と心の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があると専門家は言う。
世界的に女の子の間で、思春期が始まる平均年齢が、1977~2013年の間に10年ごとに3カ月ずつ早まっていることが、2020年に医学誌「JAMA Pediatrics」に掲載されたレビュー論文で示されている。つまり、この傾向が今も続いていれば、思春期が合計で1年以上も早まっていることになる。女の子の場合、思春期の最初の兆候は乳房の成長であり、月経の始まり(初潮)はそのあとに起こる。
2024年5月29日付けで医学誌「JAMA Network Open」に掲載された新たな研究によると、米国では、乳房の成長と月経のいずれも始まる時期が早まっているという。1950~2005年の間に米国で生まれた女性7万1341人のデータからは、初潮を迎える年齢が早まり、生理周期が規則正しくなるまでにより長い時間がかかるようになっていることがわかった。同研究で対象となった55年間で、早い時期(11歳未満)に初潮を迎える人の割合はほぼ倍増し、16%に達した。
「これは十分な証拠に裏付けられた世界的な現象です」と、米ブラウン大学ウォーレン・アルパート・メディカルスクールの小児科准教授リサ・スウォーツ・トポー氏は言う。このような現象が起きている理由については、現時点では「わかっていることよりも疑問の方が多い」状態だと、氏は述べている。「多くの異なる要因が重なった結果であり、全体に関わる要素としては、過去200年における世界の変化が挙げられるでしょう」
年齢にかかわらず、思春期が始まるきっかけとなるのは、脳の視床下部による「性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)」の分泌だ。GnRHは脳下垂体を刺激して黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンを分泌させ、思春期の開始を促す。女の子の場合、これら2種類のホルモンが卵巣にシグナルを送ることで、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの分泌が始まり、それが乳房の発達、陰毛の発生、月経の開始、体型の変化につながる。
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▶ 思春期が早まる原因
これはさまざまな要因が関係する問題だと、専門家は言う。まずひとつには、1970年代以降、肥満の児童の割合が増えていることが挙げられる。一部の研究では、女子の「思春期早発症」(通常の範囲より早く始まる思春期)と肥満との関わりが指摘されている。
「肥満はインスリン、インスリン様成長因子1(IGF-1)、レプチンといったさまざまなホルモンの血流への放出と関連しています」・・・これらのホルモンは食欲や満腹感、体脂肪の蓄積などに影響を与えるほか、 思春期のタイミングを変化させる可能性がある。
また、肥満の女子は、通常体重の女子よりもエストラジオール(エストロゲンの一種)の濃度が高いことが研究でわかっており、これが乳房の発育や思春期の早期化に関わっていると推測される。
子どもたちの食事の質もまた、何らかの影響を及ぼしていると考えられる。特に果物や野菜が少なく、動物性タンパク質や高度に加工された食品が多い食事は、「エストロゲンなどの性ホルモンの濃度が高くなることと関連があります」と、米シンシナティ小児病院医療センターの小児科教授フランク・ビロ氏は指摘している。(参考記事:「「超加工食品」でたばこ並みの依存性が判明、渇望や禁断症状も」)
事実、中国の研究者らが3種類の食事(伝統的な食事、不健康な食事、高タンパクの食事)を比較した研究では、スナック菓子、デザート、揚げ物、ソフトドリンクを多く含む「不健康な食事」の摂取は、女子の思春期早発症と関連があることが示された。
このほか、社会的または経済的な困難に関わる幼少期のつらい経験や、虐待などのストレスも、思春期早発症の要因となり得る。2023年に医学誌「Psychoneuroendocrinology」に発表された研究によると、幼少期のストレスレベルが高いと、思春期早発症のリスクが高くなるという。
「思春期が始まるタイミングは、ストレスの影響を受けやすいのです」と語るのは、米コーネル大学心理学部准教授ジェーン・メンドル氏だ。「思春期前の時期にストレスや逆境を経験した子どもは、思春期が早く始まる可能性が高くなります」
その原因を説明する仮説のひとつは、思春期の開始に影響を与える「視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)」がストレス反応の制御にも関わっているため、というものだ。
また、コロナ禍において、画面を見ている時間の増加、社会的孤立、運動不足、健康的な食品を食べる機会の減少といったストレス要因が、米ニューヨーク市の女子で近年、思春期早発症が増えていることと関連している可能性を示唆する研究もある。
▶ 内分泌かく乱物質などの影響
一方、日常的に使われる製品に含まれるフタル酸エステル類やビスフェノールといった内分泌かく乱物質が、こうした変化に関わっている可能性を示唆する研究も増えている。
「環境中に広く存在する多くの内分泌かく乱物質は、エストロゲンと似た作用を持っています」とソファー氏は言う。その結果、そうした化学物質に多くさらされることで、生殖機能の発達に変化が現れる。
たとえば、2023年に医学誌「BMC Medicine」に発表された論文では、女子の思春期早発症の原因のひとつとして、防汚剤や塗料、ワックス、つや出し剤、電子機器、食品包装材など多くの日用品に含まれる有機フッ素化合物(PFCsやPFASと総称される)にさらされることが挙げられている。(参考記事:「台所や食事に潜む「永遠の化学物質」PFAS、自分で避けるには?」)
2023年に医学誌「Environmental Health Perspectives」に掲載された研究では、胎児から小児の時期に、居住環境で大気汚染の粒子状物質(PM)にさらされた量が多かった女子は、少なかった女子よりも生理が早く始まる傾向にあると結論づけている。
これらの要因が組み合わされることで、一部の女の子に思春期早発症が現れているのではないかとビロ氏は述べている。
▶ 心や体への影響
こうした生殖機能の発達の変化は、将来的に体や感情へ影響を及ぼす可能性がある。短期的には、「早く思春期を迎える女子は、速いスピードで成長し、その後、早めに成長が止まります」とビロ氏は言う。そうした子どもは、思春期が通常の時期に訪れた場合と比べて、最終的な身長が低くなることがある。
長期的に見ると、思春期が早めに訪れることにより、乳がんのリスクのほか、成人後の肥満のリスクも高まると、ビロ氏は指摘する。そのほか、高血圧、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、コレステロール異常、心血管疾患になる可能性も高まるという。
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研究からは、思春期早発症の女の子はうつ病、ストレス、不安のレベルが高く、適切なボディイメージを持つことが出来ず、感情の調整に多くの課題を抱えることがわかっている。
・・・思春期早発症の女の子は、同級生からのいじめにあう可能性が高く、また心の準備ができていないうちから性的関心を向けられることもある。
「人は外見をもとに彼女たちの年齢を高く見積もります」とビロ氏は言う。「12歳の子が15歳のように見えることもありますが、彼女たちの感情と行動は12歳のそれなのです」
こうした外見の変化によって、教師や両親を含む大人たちが、彼女たちに実年齢よりも成熟した行動を期待してしまう場合もある。自分よりも年上の仲間と付き合い始めると、思春期を早めに迎えた女の子は、飲酒や性交渉などの危険な行動に及ぶ可能性があるとメンドル氏は言う。
▶ 変化に対応する
成熟が早すぎると思われる女の子には、医師の診察を受けさせるべきだとビロ氏は言う。大半のケースでは、単に発達の状態を確認し、予想される体や感情の変化についての助言を受けるだけに終わるだろう。
「思春期の始まりが非常に早い、あるいは進むスピードが速い場合には、それが単なるタイミングの問題であって、脳腫瘍などの病的な原因がないことを確認する必要があります」とトポー氏は言う。脳内の異常により、思春期が早く訪れることもあるからだ。トポー氏によると、単なるタイミングの問題であれば、「薬によって一時停止ボタンを押す」ことも可能だという。
そうしたケースでは、医師が「GnRHアゴニスト」という種類の薬を処方して思春期のスピードを緩め、身長の伸び悩みなどの有害な影響を防ぐ場合もある。研究では、そうした薬は、思春期早発症を経験した女子の最終的な身長(18歳時)を伸ばす効果が示されている。
思春期がいつ始まるかにかかわらず、親は子どもにできる限り標準的な経験をさせることが重要だ。外見の年齢が12〜13歳でも実際には8歳なのであれば、食事や睡眠習慣に関して8歳の子と同じようにする必要がある。
「たとえ外見が年上に見えたとしても、子どもを年相応に扱うことは非常に重要です」とトポー氏は言う。そうすれば、女の子は自分の体に快適さを覚え、自尊心を保ち、肉体的にも感情的にも自分を大切にできるようになる。
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「思春期、特に月経については、社会的に恥ずかしいこととして捉えられている面が多々あります」とメンドル氏は指摘する。「思春期への移行に対する偏見を減らすことが重要です」(参考記事:「古代エジプトではパピルスを利用、月経にまつわる沈黙と羞恥の歴史」)
そのためには、親が思春期についてオープンに話をし、自分の経験を分かち合うことが助けになる。
メンドル氏は言う。「そうした経験から子どもが何かを学べれば、思春期によりうまく対処できるようになるでしょう。それが、過去、現在、未来の自分は連続しているという感覚を持つことにつながるのです」
そうそう、みなかみ市の学校健診で学校医が下半身を診たのは、
「思春期早発症」
のチェックという理由でした。
それに関連して、というワケではありません。