小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

今年もやっぱり“成長曲線”

2025年03月02日 13時10分38秒 | 学校健診
学校医を拝命する小児科医である私はいわゆる“成長曲線”と仲良しで、
このブログに何度となく記事を書いてきました。

学校健診と成長曲線(2024.2.1)
やっぱり成長曲線!(2024.3.28)

さて先日、成長曲線についてのWEBセミナーを視聴したので、
復習&アップデートがてら、講義メモを備忘録として残しておきます。

以前から感じていることですが、
身長の評価法がSDとパーセンタイルのダブルスタンダードになっている状況は何とかならないものか?
体重の評価も日本独自の「肥満度」が採用されており、世界標準とは異なるジレンマを感じます。

ふだんの診療で、数年に1人程度、思春期早発症を経験します。
女子は胸の膨らみで母親が気づくのですが、
男子は声変わりが出るまで気づきにくく、
「中学生になったのに身長が伸びない」という訴えで受診することが多いのです。
小学生の時に発見しないと治療適応から外れてしまう可能性が大です。
これはレクチャーの中でも触れていましたね。


▢ 成長曲線は身長・体重の年齢経過を記録する曲線
・平均曲線とSD曲線がすでに描かれている
 ✓ 身長はほぼ正規分布
 ✓ 体重は重い方にすそ野が広がる分布
・描くときは「〇歳〇ヶ月」単位でプロットする。

▢ 身長・体重の評価指標は2つ存在
1.SD(標準偏差)
・低身長はSD表示で定義される。
・平均からの隔たりがわかりやすい。
2.パーセンタイル(%tile)
・SD表示より統計的に正確
・イメージしやすく患者さんに説明しやすい
・「平均よりマイナス」というSD表示は教育的に適切ではない。

▢ 「SD」と「%tile」の対応表示
(SD) (%tile)
+2.5   99.7
+2.0   97.7
+1.88    97
+1.28    90
+1.0   84.1
±0    50
−1.0    15.9
−1.28    10
−1.88    3.0
−2.0   2.3
−2.5   0.3

▢ 低身長の定義
①身長が同性同年齢の平均値の−2SD以下
②−1.5SD以下の成長率が2年間続く(どの年齢でも1年間の身長の伸びが<4cmは要注意

▢ 子どもの年齢と成長因子
・乳児期:①栄養
・小児期:①成長ホルモン、②甲状腺ホルモン
・思春期:①性ホルモン

▢ 成長率の経過
・最も大きいのは男女とも乳児期(約25cm/年)
・思春期開始・身長スパートは女子が男子より約2年早い
            (女子)  (男子)
(思春期開始年齢)    9歳     11歳
(成長率ピーク年齢)   11歳    13歳
(成長率ピーク)      8cm/年    10cm/年
(思春期の成長)     18-25cm  25-30cm

▢ 成長曲線を作成する意義
・適正な成長をしていることを確認
・低身長・肥満・やせなどの原因となる病気の早期発見
・いじめや虐待の発見につながることがある → 子どもたちからの声なきSOS

▢ 成長曲線のチェックポイント
1.身長の最新値が 97%tile 以上
2.過去の身長の最小値に比べて最新値が1Zスコア以上大きい
3.身長の最新値が3%tile 以下
4.過去の身長の最大値に比べて最新値が1Zスコア以上小さい
5.身長の最新値が −2.5Zスコア以下
6.肥満度の最新値が 20%以上
7.過去の肥満度の最小値に比べて最新値が 20%以上大きい
8.肥満度の最新値が −20%以下
9.過去の肥満度の最大値に比べて最新値が 20%以上小さい
 → 2、4、5、7、9 に該当する場合は病的可能性が高い

▢ 成長曲線で拾われた異常から考慮すべき疾患例
2.過去の身長の最小値に比べて最新値が1Zスコア以上大きい
 → 思春期早発症など
4.過去の身長の最大値に比べて最新値が1Zスコア以上小さい
 → 脳腫瘍、慢性甲状腺など
5.身長の最新値が −2.5Zスコア以下
 → 成長ホルモン分泌不全性低身長症SGA性低身長症先天症候群など
7.過去の肥満度の最小値に比べて最新値が 20%以上大きい
 → 単純性肥満、(成長率低下を伴うときは)Cushing症候群慢性甲状腺炎など
9.過去の肥満度の最大値に比べて最新値が 20%以上小さい
 → 神経性やせ症など

▢ 成長曲線異常の取り扱い
・2、4、5、9 → 医療機関紹介検討
・1、3 → 2、4、5、7、9 と重複で要紹介
・6、7 → 肥満度 ≧ 50%または4と重複で紹介
・8 → 肥満度 ≦ −30%で精査
 → 隣の曲線をまたいで成長する場合には注意が必要

◆ 例「思春期早発症
・二次性徴が早期に起こって急激な身長のスパートを認める
・周囲より身長が伸びるため背の順がうしろになっていく
最終的には低身長になる
★ ピットフォール;
・女児に多く、ほとんどは器質的疾患のない特発性
・時に脳腫瘍など器質的疾患の鑑別も必要(特に男児・乳幼児期女児)

(経験例)小学生中高学年で身長のスパートが来ると家族は喜ぶことが多く、第二次性徴は気づきにくいため(特に男児)、家族は医療機関受診が頭に浮かばない。しかしこの時点で医療機関につなげないと思春期早発症の性腺抑制療法の適応とならず、最終的に低身長になってしまう。

◆ 例「脳腫瘍、慢性甲状腺炎
・成長曲線に沿って伸びていた身長がある時点から急に伸びなくなる。
・他の症状に先行して成長率低下が早期にみられてくることがある

◆ 例「家族性低身長
・低身長の60-80%が家族亭低身長をはじめとする体質性低身長
・家族性低身長は両親の身長を参考に判断する;
①男子の目標身長(cm)=(父の身長+母の身長+13)÷2
②女子の目標身長(cm)=(父の身長+母の身長ー13)÷2

◆ 例「成長ホルモン分泌不全性低身長症
・もともと低めであった身長が2歳頃から成長曲線から離れていく
・乳幼児の場合は低血糖で見つかることがある

◆ 例「単純性肥満」と「症候性肥満
・単純性肥満:急激な体重増加+成長率維持(あるいは加速)
・症候性肥満:急激な体重増加+成長率低下(例:Cushing症候群、慢性甲状腺炎)

◆ 例「神経性やせ症
・短期間に急激な体重減少を認める
・栄養障害が強いと身長の伸びが悪くなることもある
・極端なダイエットでも同じ曲線になる

▢ (低身長精査例)チェックすべき診察所見
・甲状腺腫大の有無 → 慢性甲状腺炎
・口腔内(色素沈着、扁桃腫大など) → 副腎疾患、睡眠時無呼吸
・思春期(乳房腫大、精巣容量、陰毛発生など) → 思春期遅発症
・arm span(四肢短縮など) → 軟骨異栄養症
・指の長さ(第4中手骨の短縮) → Turner症候群
・他の形態異常:翼状頚、外反膝など → Turner症候群

▢ (低身長精査例)スクリーニング血液検査
・血算、生化学(T-cho、TG、IP、Caなど)、亜鉛、25(OH)ビタミンD
・血液ガス(必要に応じてアンモニア、乳酸・ピルビン酸)
・内分泌
 IGF-1(ソマトメジン-C)、TSH、FT3、FT4
 intact-PTH
 LH、FSH、テストステロンあるいはエストラジオール
 ACTH、コルチゾール
・❌️GH、〇 IGF-1:成長ホルモン(GH)は日内変動があるため随時採血では評価不能、スクリーニングにはIGF-1(ソマトメジン-C)を測定する(年齢ごとに基準値が異なる)
・染色体検査(女児で提案) → Turner症候群疑い例に

▢ (低身長精査例)画像診断
・X-rayで手根骨撮影 → 骨端線が閉じていると成長はすでに終了
・頭部MRI:下垂体炎や下垂体茎断裂、脳腫瘍の評価


<参考>
・成長曲線は小児内分泌学会HPで入手可能
・「児童生徒等の健康診断マニュアル」(平成27年度改訂、日本学校保健会)
・Q&A「成長曲線に基づく児童生徒の健康管理」(日本学校保健会)
・成長曲線から見える子どもの健康管理(2025.2.26:須田峻平Dr.)

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