今日はこれまでで一番の暑さだったんじゃないか、と感じた次第ですが、何とか熱中症とやらにもかかることなく、一日、物書きに興じておりました。あ、実際には撮り溜めして放置していた「仮面ライダーキバ」を3話ほど観て、ついでに「プリキュア5Go!Go!」を1話だけ観て、「たかじんのそこまで言って委員会」を観て、「コードギアスR2」を観て、その合間にボツボツと書いておりましたら、思ったより長くなってしまったので、思い切って2つに分割しました。
まあやっとここまで話をもってこれましたけど、さて、次からが大変なんですよ、きっと(苦笑)。
------------------------以下本編-----------------------------
幸畑墓苑は、総面積約3.5ヘクタールの敷地に、市の史跡にも指定されている陸軍墓地や、最近新築なった八甲田山雪中行軍遭難資料館の他、多目的広場、駐車場などが整備されている。車から降りた一行は、駐車場入り口の案内看板を頼りに、資料館の前を通り抜け、目的の墓地の方へと足を向けた。
参道に沿って進むと、松林に囲まれた開けた芝生の広場の一番奥、少しテラス状に高くなったところに、整然と並ぶ石造りの墓標の一群が姿を現した。中央の石がもっとも大きく、その左右に一列となって、やや小ぶりのおよそ人の背丈ほどの石が、全部で10ほど並んでいる。その手前に、大きく左右に分かれ、綺麗に隊列を組んだ更に小振りな石の墓標が7列ずつ、全部で左が95、右に94基並べてあった。案内看板によれば、奥の大きな石が雪中行軍隊の指揮官などの上級士官達の墓、手前の小さな石が、下士官、兵達のものだそうである。小さな石も階級によって厳然と大きさが異なるところが、軍隊という組織のあり方を表しているようで、麗夢には興味深かった。
「で、君が粗相をした、と言うのは、どの辺りかね」
「ええと、あの時はほとんど雪で埋まっていたから・・・。あ、確か、あの一番奥だったような・・・」
今朝からほとんどしゃべらないでいる朝倉が、ぼそりと呟くように奥まった一角を指さした。
「では、早いとこ片づけようか」
榊が、途中で入手した日本酒の一升瓶を手に、これも途中で購った花束を手にした朝倉を促した。おぼつかなげに歩き出した朝倉に続き、アルファ、ベータがとことことついていく。その後を麗夢が歩き、半歩遅れて、麗夢を挟むように鬼童と円光が並んで続いた。本州最北端の地とはいえ、真夏の日中の日差しは強く、蝉時雨をBGMに歩くのはなかなかに暑い。鬼童は額の汗をぬぐいつつ、前を行く少女の豊かな髪がミニスカートと共に揺れる様に思わず目を細めていたが、隣から囁かれた不審気な声に、思わず我に返って振り返った。
「鬼童殿、今日はあの気を計るからくりは持参されていないか?」
「え? あ、携帯型を持っていますが、それが何か?」
「ここの気は何と出ている?」
「ここ? この墓地の精神波強度ですか?」
鬼童は思わず腕時計に擬した装置をちらりと見たが、測定限界以下の安定した精神力場しか感知できなかった。
「別に、何も検知できないですが、円光さん、何か感じましたか?」
「いや、実は拙僧も何も感じない」
「なら良いじゃないですか。僕はまた、円光さんの超感覚に何かひっかかったのか、と思いましたよ」
しかし円光は、相変わらずまっすぐ前を見つめたまま、厳しい表情で鬼童に言った。
「いや、実は、何も感じなさすぎるのだ、鬼童殿」
「感じなさすぎる?」
「拙僧の杞憂であれば良いのだが、この静けさ、どうも引っかかる・・・」
「・・・何かの罠、だとでも?」
鬼童の目がきらりと光った。円光の勘は正直馬鹿にならないものがあることを、これまでの経験から鬼童は知っている。この旅は麗夢が行くからというだけの理由で付いてきたようなものだが、もし円光が言うように「何か」があるのなら、それはそれで貴重なデータを採取する機会が得られるかも知れない。
「拙僧も麗夢殿も、ことの最初から何か引っかかりを覚えていた。何もなければそれでよいのだが、念のための警戒は、怠らない方が良いと存ずる」
「なるほど。では、僕も僕なりに注意しておきましょう」
一番後ろの二人の密談には露とも気づかず、朝倉と榊は、朝倉が引っかけたという墓石の前に花と清酒を供え、後に続いた麗夢と共に、並んで手を合わせていた。鬼童と円光も追いついてその参列に参加する。鬼童はややおざなりに、円光は口の中でぶつぶつと経を口づさみながら、それぞれに謝罪と哀悼の念を祈りに込めた。
そんな参拝を一通り終えると、今まで陰鬱な表情でほとんどしゃべらなかった朝倉が、急に明るく一堂に呼びかけた。
「せっかくだから、資料館の方も見ていきませんか? スキーの時は時間が合わなくて、結局見られなかったんですよ」
「ん? あ、ああ。ここまで来たら付き合うよ。皆はどうする?」
朝倉の急変に戸惑いつつも、榊は後ろの3人に声をかけた。
「私も行きます」
「あ、じゃ僕も」
「拙僧もお供いたす」
「じ、じゃあ行こうか」
即答で同意した3人に榊は更に戸惑ったが、結局一堂連れ立って参道を引き返し、駐車場近くの八甲田山雪中行軍遭難資料館まで戻った。榊が入場券を購入しに窓口に向かう間、麗夢と並んで待っていた朝倉は、突然人なつっこい笑みを浮かべると、麗夢に言った。
「ところで綾小路さんは誰か付き合っている人はいますか?」
「え? い、いいえ。特にいませんけど・・・」
その背後で、見るからに意気消沈した溜息が二つ聞こえたような気がしたが、入場券を手にした榊は、強いて聞かなかったことにして朝倉に言った。
「どうしたんだね? 藪から棒に」
すると朝倉は、魅力的な笑顔を閃かせつつ、榊に答えた。
「いえ、これで禊ぎも終わったし、取りあえず悪夢も終わった、と言うことでしょう? なら、そろそろ謹慎も解いてもいいかなって。ね、麗夢さん、フリーなら僕と付き合ってもらえませんか?」
まあやっとここまで話をもってこれましたけど、さて、次からが大変なんですよ、きっと(苦笑)。
------------------------以下本編-----------------------------
幸畑墓苑は、総面積約3.5ヘクタールの敷地に、市の史跡にも指定されている陸軍墓地や、最近新築なった八甲田山雪中行軍遭難資料館の他、多目的広場、駐車場などが整備されている。車から降りた一行は、駐車場入り口の案内看板を頼りに、資料館の前を通り抜け、目的の墓地の方へと足を向けた。
参道に沿って進むと、松林に囲まれた開けた芝生の広場の一番奥、少しテラス状に高くなったところに、整然と並ぶ石造りの墓標の一群が姿を現した。中央の石がもっとも大きく、その左右に一列となって、やや小ぶりのおよそ人の背丈ほどの石が、全部で10ほど並んでいる。その手前に、大きく左右に分かれ、綺麗に隊列を組んだ更に小振りな石の墓標が7列ずつ、全部で左が95、右に94基並べてあった。案内看板によれば、奥の大きな石が雪中行軍隊の指揮官などの上級士官達の墓、手前の小さな石が、下士官、兵達のものだそうである。小さな石も階級によって厳然と大きさが異なるところが、軍隊という組織のあり方を表しているようで、麗夢には興味深かった。
「で、君が粗相をした、と言うのは、どの辺りかね」
「ええと、あの時はほとんど雪で埋まっていたから・・・。あ、確か、あの一番奥だったような・・・」
今朝からほとんどしゃべらないでいる朝倉が、ぼそりと呟くように奥まった一角を指さした。
「では、早いとこ片づけようか」
榊が、途中で入手した日本酒の一升瓶を手に、これも途中で購った花束を手にした朝倉を促した。おぼつかなげに歩き出した朝倉に続き、アルファ、ベータがとことことついていく。その後を麗夢が歩き、半歩遅れて、麗夢を挟むように鬼童と円光が並んで続いた。本州最北端の地とはいえ、真夏の日中の日差しは強く、蝉時雨をBGMに歩くのはなかなかに暑い。鬼童は額の汗をぬぐいつつ、前を行く少女の豊かな髪がミニスカートと共に揺れる様に思わず目を細めていたが、隣から囁かれた不審気な声に、思わず我に返って振り返った。
「鬼童殿、今日はあの気を計るからくりは持参されていないか?」
「え? あ、携帯型を持っていますが、それが何か?」
「ここの気は何と出ている?」
「ここ? この墓地の精神波強度ですか?」
鬼童は思わず腕時計に擬した装置をちらりと見たが、測定限界以下の安定した精神力場しか感知できなかった。
「別に、何も検知できないですが、円光さん、何か感じましたか?」
「いや、実は拙僧も何も感じない」
「なら良いじゃないですか。僕はまた、円光さんの超感覚に何かひっかかったのか、と思いましたよ」
しかし円光は、相変わらずまっすぐ前を見つめたまま、厳しい表情で鬼童に言った。
「いや、実は、何も感じなさすぎるのだ、鬼童殿」
「感じなさすぎる?」
「拙僧の杞憂であれば良いのだが、この静けさ、どうも引っかかる・・・」
「・・・何かの罠、だとでも?」
鬼童の目がきらりと光った。円光の勘は正直馬鹿にならないものがあることを、これまでの経験から鬼童は知っている。この旅は麗夢が行くからというだけの理由で付いてきたようなものだが、もし円光が言うように「何か」があるのなら、それはそれで貴重なデータを採取する機会が得られるかも知れない。
「拙僧も麗夢殿も、ことの最初から何か引っかかりを覚えていた。何もなければそれでよいのだが、念のための警戒は、怠らない方が良いと存ずる」
「なるほど。では、僕も僕なりに注意しておきましょう」
一番後ろの二人の密談には露とも気づかず、朝倉と榊は、朝倉が引っかけたという墓石の前に花と清酒を供え、後に続いた麗夢と共に、並んで手を合わせていた。鬼童と円光も追いついてその参列に参加する。鬼童はややおざなりに、円光は口の中でぶつぶつと経を口づさみながら、それぞれに謝罪と哀悼の念を祈りに込めた。
そんな参拝を一通り終えると、今まで陰鬱な表情でほとんどしゃべらなかった朝倉が、急に明るく一堂に呼びかけた。
「せっかくだから、資料館の方も見ていきませんか? スキーの時は時間が合わなくて、結局見られなかったんですよ」
「ん? あ、ああ。ここまで来たら付き合うよ。皆はどうする?」
朝倉の急変に戸惑いつつも、榊は後ろの3人に声をかけた。
「私も行きます」
「あ、じゃ僕も」
「拙僧もお供いたす」
「じ、じゃあ行こうか」
即答で同意した3人に榊は更に戸惑ったが、結局一堂連れ立って参道を引き返し、駐車場近くの八甲田山雪中行軍遭難資料館まで戻った。榊が入場券を購入しに窓口に向かう間、麗夢と並んで待っていた朝倉は、突然人なつっこい笑みを浮かべると、麗夢に言った。
「ところで綾小路さんは誰か付き合っている人はいますか?」
「え? い、いいえ。特にいませんけど・・・」
その背後で、見るからに意気消沈した溜息が二つ聞こえたような気がしたが、入場券を手にした榊は、強いて聞かなかったことにして朝倉に言った。
「どうしたんだね? 藪から棒に」
すると朝倉は、魅力的な笑顔を閃かせつつ、榊に答えた。
「いえ、これで禊ぎも終わったし、取りあえず悪夢も終わった、と言うことでしょう? なら、そろそろ謹慎も解いてもいいかなって。ね、麗夢さん、フリーなら僕と付き合ってもらえませんか?」
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