かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

新作短編 その17

2008-09-28 21:59:50 | 麗夢小説 短編集
 PCの挙動不審なピープ音、どうしても止まらないので、今朝になってあけてみたところ、CPUクーラーに大量の埃がたまっておりました。ひょっとしたら、この埃のせいで熱交換がうまくいかなくなり、熱暴走しているのかもしれない、と思いましたので、出来るだけ綺麗になるよう掃除してみました。一応開けた当初からしたら見違えるようになりましたが、その後ふたをして起動してみても、まだピープ音が鳴って起動できません。何度かリセットスイッチ押したり電源落としたりしているうちに起動できるようになり、と思ったら昼ごろにはフリーズしたり、と、まだ安定して動くところまで到達しておりません。夕方以降、とりあえずピープ音とともに起動失敗、はなくなり、一見安定しているように見えますが、さて、このまま安定期に入ってくれますかどうか。そんな不安いっぱいなシステムをかかえつつ、今日も恒例の短編小説を更新します。ようやく敵の正体が明かされると言うか、本格的にはもうちょっと待って、というか、とにもかくにもここまできました。まだまだ引っ張る方法もあるにはありますし、それも面白いかも、と思わないでもないのですが、とっとと終わって次のことをしたい、というのもありますし、ここは思案のしどころですね。来週には答えを出して続きを書こうと思います。
それでは、お話、スタート!

---------------------本編-------------------------

「その声は鬼童さんね?! どこ? どこにいるの?!」
「私達は今、駒込川にかかる大滝という滝の側にいます。麗夢さんと朝倉さんがいるその場所です!」
 麗夢は咄嗟に辺りを見回したが、鬼童はもちろん、円光、榊の姿もない。近くには、不審げな面もちの朝倉幸司がただ一人いるだけである。
「どう言うこと?・・・!」
 と呟いた麗夢は、朝倉が全く鬼童の声に反応していないことに気が付いた。あれ程明瞭に聞こえたのだ。すぐ近くにいた朝倉が聞き逃したとは思えない。その事を問いかけようとした麗夢の頭に、もう一度鬼童の声が響いた。
『麗夢さん! 僕は今、円光さんとアルファ、ベータの力を使って、二人が囚われている強力な結界の中に、声だけを届かせているんです』
「結界?」
『そうです! 言うなれば次元の狭間。現実世界からズレた異質な空間が、この駒込川の流域に出現しているんですよ。もうもの凄いエネルギーです! 円光さん達の力を振り絞っても、僅かに麗夢さんへ声を届かせることしかできません。このラインだっていつまで保つか判らない! だからよく聞いて下さい! 敵は、僕たちの敵は・・・』
「あ、あれはなんだ!」
 朝倉の上げた悲鳴にも似た声に振り向いた麗夢は、遂に形をなしたその巨大な姿に一瞬だけ虚を突かれた。
「あれって、遮光式土偶・・・?」
 分厚い瞼が覆い被さり、ほんの一筋うっすらと開いているばかりに見える巨大な両目。恰幅ある胸板とその両脇に垂れ下がる太い腕。雄大な腰回りに相応しい太股が急激に細くなり、膝らしいものもないまま絞り込まれた短い足。それは、八甲田山からおよそ50キロほど西に行った津軽半島の西の付け根にある縄文時代の遺跡、亀ケ岡遺跡から多数出土し、その異様な姿から、宇宙人を象ったとも称される、遮光式土偶その物の姿であった。全身白色に光り輝く身の丈十数メートルの遮光式土偶は、巨大な一歩を谷のせまい河原へと降ろし、太いが短い両腕を振り上げた。
「危ない!」
 麗夢が突き飛ばすように朝倉に飛びつくと、鞭のように唸りを上げて、急激に伸びた腕が、間一髪麗夢達の立っていたところを殴りつけた。何トンにもなろうかという雪の塊が叩き付けられ、ちょっとした小山のような雪が積もった。
『ぐぅおおおおぉおう!』
 ほとんど口らしいものも見えない雪製の土偶が吠えた。びりびりと空気が震え、その一声だけであちこちで雪崩が起こり、谷を埋める勢いで雪が落ちてくる。土偶はその雪も吸収し、更に一回り大きくなりつつあるようだ。
『麗夢さん! 聞こえますか?! 麗夢さん!』
「だ、大丈夫。聞こえてるわ。鬼童さん」
 間一髪難を逃れた麗夢は、更に凶悪な姿に成長しつつある「敵」の姿に戦慄を覚えつつ、頭の中の鬼童の声に返事をした。すると鬼童は、明らかにほっと安堵の声を漏らして、麗夢に言った。
『麗夢さん、まずは朝倉さんから離れて下さい。絶対に近づいては駄目です。ましてや、身体に触れたり、その、そ、それ以上に接近したりするのは厳禁です!』
「どう言うことなの? 私今、朝倉さんをかばってちょうど抱きついた格好になっているんだけど?」
『な、抱きつくなんて絶対駄目ですよ! 麗夢さんすぐ離れ・・・』
 ほんの僅かであったが、まるでラジオの周波数がずれたように、耳障りな雑音と共に鬼童の声がかすれて消えた。その刹那の間に、『一体麗夢殿はどうなっているのだ!』という苛立たしげな声が聞こえたような気がする。麗夢は軽く溜息をついて、語りかけた。
「鬼童さん、落ち着いて! アルファ、ベータ聞こえてる? 聞こえてたら、円光さんに落ち着くように言って! これじゃおちおち話もできないわ」
 すると、何となく「面目次第もない」と言うような気配が感じられた途端、また、明瞭に鬼童の声が聞こえてきた。
『す、すみません麗夢さん。円光さんが取り乱してしまって(拙僧だけではない! 鬼童殿!)。いいからちょっと黙って念を凝らしていてくれって! ああ何度もすみません麗夢さん、とにかく朝倉さんとできるだけ離れて下さい。奴は、朝倉さんに危害を加えるようなことはありません。むしろ、貴女と一緒にいる方が、巻き添えを食う危険が大きくなる』
「巻き添えって、敵の狙いは最初から私なの?」
『いいえ、本来はそうではありませんでした。でも、あの「雪中行軍資料館」で貴女に明確な敵意を抱くようになったんです』
「え? 私何かしたの?」
『事を起こしたのは朝倉さんです。でも、その相手となったせいで、貴女が狙われているんですよ。とにかくこれ以上相手を刺激してはなりません。まず朝倉さんから離れて! 対応はそれからです』
 麗夢には何がどういうことなのかさっぱり判らなかった。だが、鬼童がこうもせっぱ詰まって何度も力説する話に、何の根拠もないはずがない。となれば、まずは朝倉に下がるように言って、自分はここであの雪玉の遮光式土偶の化け物を食い止めることに専念するまでだ。その前に麗夢は、これだけはどうしても知りたい疑問を、鬼童にぶつけてみた。
「その相手って言うのは何者なの? 鬼童さん知ってたら教えて!」
『「山」ですよ!』
 間髪をいれずに返ってきた鬼童の言葉に、麗夢はきょとん、と鸚鵡返しした。
「やま?」
『八甲田山その物が、今回の敵なんです!』
「八甲田山そのものですって?!」
 ようやく理解が追いついた麗夢の目の前で、そのまま海を渡って雪祭りに参加すれば相当な好評を博しただろうほど、精密で巨大な遮光式土偶の雪像が、完成の時を迎えていた。

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