かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

新作短編 その23

2008-11-16 22:20:14 | 麗夢小説 短編集
 今日は通常勤務と同じ、休日出勤の日でした。懸念された雨は午前中かなり強く降ったものの午後には上がり、夕方には薄く日も差す所まで回復しました。十全とは行かないまでも、まずまず我慢できる一日だったように感じます。
 そんなわけで、思うような時間がとれず、今日で片付けようと思っていたこの連載短編、あと一週だけ続けようと思います。とはいえ、もう今回で謎解きは大方終わりですので、来週は物語の締めをするための一幕、ということになります。当初構想よりも大幅に延びたお話でしたが、あと一回だけ、お付き合い願えれば幸いです。

それでは、今週の分をはじめます。

--------------------本文はじめ--------------------------

「そんな約束を・・・でも貴方は 明治38年1月28日、黒溝台の会戦で戦死された」
 鬼童の言葉に、朝倉=倉田はうなずいた。
「ええ。彼女との約束で、私が帰るまで神の怒りに触れた隊員達の魂を山に閉じ込めることにもなっていました。だから、たとえ戦死したとしても、私は靖国には行かず、御魂となってこの八甲田山に帰るつもりでいたんです。彼女もそのつもりで私の招魂をしました。ですが、どこかで何かが狂った。さしもの山の神の神通力も、遠く異国の地までは及ばなかったのかもしれません。私は結局山に帰ることができず、永劫とも思える無明の刻を過ごした末、朝倉幸司として転生してしまったのです。そして、前世の記憶などすっかり失ったまま、田中、植田、斉藤といった仲間達とスキーをしにこの八甲田山にやってくることになったんです」
「それで、彼女が貴方に気付いたのね?」
 麗夢もようやく合点が行き始めた。時の流れなどあって無きがごとき神の世界で、100年の時を経て再び現れた倉田の魂は、その器がどうあれ彼女にとって倉田そのものでしかなかったのだろう。
「そうです。ですが、記憶のかけらも無い私を、さしもの彼女も見分けることまではできなかった。私の魂の匂いとでも言うべきものは感じながら、4人のうちの誰が私なのかわからない。彼女はあせり、悲しみ、そして、怒り狂ったことでしょう。そのせいもあったか、夜の肝試しに出た私達4人は、その日すさまじい吹雪に見舞われ、あえなく遭難しました」
「え? 幸畑墓地で粗相して帰ったのではなかったのかね?」
 榊が、初耳の真相を聞いて目を丸くする。朝倉=倉田は苦笑を閃かすと、榊に軽く頭を下げた。
「申し訳ない警部。あれは、貴方達に私をここまで導いてもらうための創作です」
「創作?」
「そう。私は、そして田中、植田、斉藤の4人は、あの肝試しの夜、遭難して凍死したのです。そして、彼女の神通力の命ずるまま、記憶を取り戻すための猶予が与えられたのです」
「既に死んでいただと?!」
 さすがに榊もその言葉はショックだった。真夏の凍死という怪現象を追いかけていたつもりが、実は真冬の雪山で順当な死に方をしていた、と言うのである。麗夢、アルファ、ベータもこれには驚かざるを得ない。本当に死んでいたなら、どうしていままで、死霊の気を感じなかったのだろう。ことにベータの鼻は敏感で、その独特の『におい』をかぎ分ける事にかけては、麗夢も遠く及ばぬくらいなのだ。その鋭敏な超感覚を持ってしても「嗅ぎ分け」られなかったとは、それが山の神の力だというのなら、一体目の前の小さな少女にどれほどの力があるというのだろうか。半ば呆然とする一堂を前に、淡々とした口調で朝倉=倉田は言葉を継いだ。
「そうです。私の魂の記憶を呼び戻し、だれが私そのものなのかを明らかにするため、我等4人の魂は、その日から毎晩八甲田山雪中行軍隊の遭難行の悪夢に参加させられました。かわるがわる隊員達の役を割り振られて、白い地獄をさまよい続けたわけです。そしてようやく、私は自分が倉田であることを思い出した」
「それで、役目を終えた田中さん達は、元の通り凍死体にされた、と?」
「ええ。私、つまり朝倉幸司もまた役目を終えた今、半年をさかのぼって凍り付いた体に戻り、魂だけがこの山まで行くはずでした。それを無理やり貴方達に助けられてしまったおかげで、自らここまでやって来なければならなくなりました」

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