新作短編、と銘打って始めた連載も、気がついてみるとこれで19回。一回平均2000字として、既に4万字、原稿用紙にして100枚分に達そうかという量になってきてました。これはもう、短編小説と言う枠を超えていますね。本気で題名考え直して、早急に「短編集」カテゴリーから独立させる必要を感じて参りました。
それにしても、かつて、コミケ用小説では、大体書き始めの段階でどれくらいの量になりそうだ、という予測が立つようになっていました。その感覚からしたら、これは大体50枚、2万字位で10回も連載したらケリが付けられるかな? と読んでいたのですが。うーん、想像以上に伸び伸びになって、まるでいつまで書いても終わりそうにない、と途方にくれていた、小説書き始めた頃の自分を省みているみたいです。まあ書きつなぎながらの連載は確かに初の試みですから、初心者っていうところは確かなんですけどね。
とまあそう言うわけで、先週大ピンチに陥った(というか、陥ってもらった(笑))麗夢ちゃんを助けるべく、外側に取り残された面々が動き始めます。大団円まで、あと一息です!
---------------------以下本文---------------------------
『もう、手遅れみたい・・・』
ぼそっとその呟きが届いた途端に、 一旦は繋がった麗夢との連絡が切れた時、榊、鬼童、円光、アルファ、ベータの面々は、ほんの一時ではあったが完全なパニック状態に陥った。普段は冷静沈着な鬼童や榊が、「麗夢さん! 返事をしてくれ! 麗夢さん!」とあたりはばかることなく叫び続け、アルファ、ベータもニャンワンと小さな身体で精一杯鳴く一方で、円光は力を出し切ったせいもあって、難しい顔のまま地面にこぶしを突き立て、なすすべなく荒い呼吸に肩を揺らす。それでも円光は今一度気を凝らそうと両手の指を組み直すが、疲弊した精神力は容易に戻ってくるものではない。
「くそっ! 円光さん、鬼童君、なんとかならんのか!」
全く麗夢からの返事がないことを悟ると、榊は焦慮もあらわに年少の二人に声をかけた。人外の者に対する能力としては、今目の前にいる二人の若者以上に優れた力をもつ者を、榊はただ一人しか知らない。その唯一無二の大切な存在が、恐らくは想像を絶する窮地に陥っていることは想像に難くないのだ。榊ならずとも、円光、鬼童の二人に期待をかけるのはやむをえないところだった。
「駄目だ、結界の力が強すぎる」
しばらく般若心教を唱えて意識を集中していた円光は、やがて額に玉の汗を浮かべながら、再びその場に手をついた。
「こんなものしかないのでは・・・せめて実験室に帰ることが出来たら!」
我に返った鬼童も、背広のポケットやショルダーバックからいくつかの機械類を取り出して並べ始めたが、その焦りに満ちた言葉を聴いては、今すぐここで役立つものは得られそうにないらしい。
「アルファ、ベータ、君達ならどうだ、何とか麗夢さんと連絡がつかないか?」
榊のすがるような目を向けられて、子猫と子犬は顔を見合わせた。だが、程なく同時にがっくりと頭を下げて、打つ手のなさを榊に悟らせるばかりである。
「ええい、すぐそこにいる事が判っているのに、まるで手を出せないなんて!」
榊は憤懣やるかたなくやにわに河原の石を拾い上げると、力任せに駒込川の流れに投げ込んだ。円光によるとその辺りから強力な結界が張られているというが、石は何の抵抗もなく川面まで飛び、水音と飛沫だけを散らしてすぐに見えなくなった。その手ごたえのなさに、結局自分は何も出来ない凡人だ、と言う厳然たる事実を突きつけられたように感じ、榊はがっくりとその場に腰を下ろしてしまった。
「しっかりしてください警部! 何か、何か方法があるはずです」
「左様。麗夢殿がまだがんばっておられる以上、我らも根を上げるわけには参らぬ」
鬼童と円光が、顔面を蒼白に変えつつも気丈に榊に話しかけた。アルファ、ベータもまだあきらめていないとばかりに榊の足元までかけてきて、その髭面を見上げて鳴いた。榊も、もちろんその言葉に否やはない。ただ、では実際にどうしたらよいのだろうか。
「せめてその結界の内側に入ることが出来れば・・・」
榊は、眼に見えない結界を、そうすれば見えてくる、とでも言うように睨み付けた。円光も榊と並んで結界と思しき河原を凝視したが、円光の力をもってしても気の流れがおかしくなっていること以上のことは感知できない。もちろん、アルファ、ベータの超感覚も、この結界に対しては何の効力も発揮できなかった。
一方鬼童は、せめてこれまでのデータからだけでも何とか突破口が見出せないか、と、朝倉にくっつけた発信機の電波を受けていた、携帯ゲーム機のような受信装置を再び動かした。八甲田山の周辺の地図と、朝倉が出現した時に点いた光点が液晶画面に浮かび上がる。鬼童はそれを小さなスティックと装置のボタンを操作しながら調べ始めたが、程なく、おや? と声を漏らして、一段と熱心に装置にかじりついた。
「どうしたんだ、鬼童君、何か判ったのか?」
「・・・ええ、ひょっとしたらひょっとして・・・」
「何が判ったのだ! 鬼童殿!」
榊、円光に加え、アルファベータも鬼童の元に駆け寄り、期待に一杯の目で真剣な鬼童の顔を見上げて待つ。そんな周囲の様子をあえて無視して機械の操作に集中していた鬼童は、やがてはっきりと一人ごちた。
「そうか、そうに違いない」
「何がそうなんだ?」
「にゃーん!」
「わん! ワンワンワン!」
焦って答えをせがむ榊達に、ようやく鬼童は思わずほころんだ笑顔を見せた。
「うまくいけば、我々も結界の中に飛び込めそうですよ!」
「何だって?」
期待していた答えとはいえ、さすがにこうもいきなり言われては、榊や円光と言えども判断に躊躇するのはやむをえない所だろう。何せ相手は、円光、アルファ、ベータという当代切っての能力者たちの束ねた力すらあっさりひしぐ力の持ち主である。その者が作った結界を破って中に侵入しようなど、およそ正気の沙汰とは思えない。だが、鬼童は喜び勇んで榊に言った。
「さあ、急ぎましょう! 早くしないと、間に合わなくなる!」
「ど、どこに行くんだね」
「朝倉さんの辿った道、すなわち青森第五連隊の通った道を、我々もそっくりなぞるんですよ!」
「第五連隊の辿った道?」
「そうです。それが多分、結界を抜ける唯一の通り道なんですよ。さあ早く!」
鬼童は率先して苦労の末降りてきた山道をまた登り始めた。アルファ、ベータがあわててその長い足を追いかけて斜面を駆け上がる。榊、円光も、こうなっては鬼童の後を追うしかない。
「鬼童君! もう少し詳しく説明してくれ!」
きびすを返す榊の背中を尻目に、円光は結界の方角へ振り向いた。
「麗夢殿、しばしの辛抱だ。拙僧、必ず助けに参る!」
円光は軽く一礼を残すと、やにわに鬼童の後を追った。
それにしても、かつて、コミケ用小説では、大体書き始めの段階でどれくらいの量になりそうだ、という予測が立つようになっていました。その感覚からしたら、これは大体50枚、2万字位で10回も連載したらケリが付けられるかな? と読んでいたのですが。うーん、想像以上に伸び伸びになって、まるでいつまで書いても終わりそうにない、と途方にくれていた、小説書き始めた頃の自分を省みているみたいです。まあ書きつなぎながらの連載は確かに初の試みですから、初心者っていうところは確かなんですけどね。
とまあそう言うわけで、先週大ピンチに陥った(というか、陥ってもらった(笑))麗夢ちゃんを助けるべく、外側に取り残された面々が動き始めます。大団円まで、あと一息です!
---------------------以下本文---------------------------
『もう、手遅れみたい・・・』
ぼそっとその呟きが届いた途端に、 一旦は繋がった麗夢との連絡が切れた時、榊、鬼童、円光、アルファ、ベータの面々は、ほんの一時ではあったが完全なパニック状態に陥った。普段は冷静沈着な鬼童や榊が、「麗夢さん! 返事をしてくれ! 麗夢さん!」とあたりはばかることなく叫び続け、アルファ、ベータもニャンワンと小さな身体で精一杯鳴く一方で、円光は力を出し切ったせいもあって、難しい顔のまま地面にこぶしを突き立て、なすすべなく荒い呼吸に肩を揺らす。それでも円光は今一度気を凝らそうと両手の指を組み直すが、疲弊した精神力は容易に戻ってくるものではない。
「くそっ! 円光さん、鬼童君、なんとかならんのか!」
全く麗夢からの返事がないことを悟ると、榊は焦慮もあらわに年少の二人に声をかけた。人外の者に対する能力としては、今目の前にいる二人の若者以上に優れた力をもつ者を、榊はただ一人しか知らない。その唯一無二の大切な存在が、恐らくは想像を絶する窮地に陥っていることは想像に難くないのだ。榊ならずとも、円光、鬼童の二人に期待をかけるのはやむをえないところだった。
「駄目だ、結界の力が強すぎる」
しばらく般若心教を唱えて意識を集中していた円光は、やがて額に玉の汗を浮かべながら、再びその場に手をついた。
「こんなものしかないのでは・・・せめて実験室に帰ることが出来たら!」
我に返った鬼童も、背広のポケットやショルダーバックからいくつかの機械類を取り出して並べ始めたが、その焦りに満ちた言葉を聴いては、今すぐここで役立つものは得られそうにないらしい。
「アルファ、ベータ、君達ならどうだ、何とか麗夢さんと連絡がつかないか?」
榊のすがるような目を向けられて、子猫と子犬は顔を見合わせた。だが、程なく同時にがっくりと頭を下げて、打つ手のなさを榊に悟らせるばかりである。
「ええい、すぐそこにいる事が判っているのに、まるで手を出せないなんて!」
榊は憤懣やるかたなくやにわに河原の石を拾い上げると、力任せに駒込川の流れに投げ込んだ。円光によるとその辺りから強力な結界が張られているというが、石は何の抵抗もなく川面まで飛び、水音と飛沫だけを散らしてすぐに見えなくなった。その手ごたえのなさに、結局自分は何も出来ない凡人だ、と言う厳然たる事実を突きつけられたように感じ、榊はがっくりとその場に腰を下ろしてしまった。
「しっかりしてください警部! 何か、何か方法があるはずです」
「左様。麗夢殿がまだがんばっておられる以上、我らも根を上げるわけには参らぬ」
鬼童と円光が、顔面を蒼白に変えつつも気丈に榊に話しかけた。アルファ、ベータもまだあきらめていないとばかりに榊の足元までかけてきて、その髭面を見上げて鳴いた。榊も、もちろんその言葉に否やはない。ただ、では実際にどうしたらよいのだろうか。
「せめてその結界の内側に入ることが出来れば・・・」
榊は、眼に見えない結界を、そうすれば見えてくる、とでも言うように睨み付けた。円光も榊と並んで結界と思しき河原を凝視したが、円光の力をもってしても気の流れがおかしくなっていること以上のことは感知できない。もちろん、アルファ、ベータの超感覚も、この結界に対しては何の効力も発揮できなかった。
一方鬼童は、せめてこれまでのデータからだけでも何とか突破口が見出せないか、と、朝倉にくっつけた発信機の電波を受けていた、携帯ゲーム機のような受信装置を再び動かした。八甲田山の周辺の地図と、朝倉が出現した時に点いた光点が液晶画面に浮かび上がる。鬼童はそれを小さなスティックと装置のボタンを操作しながら調べ始めたが、程なく、おや? と声を漏らして、一段と熱心に装置にかじりついた。
「どうしたんだ、鬼童君、何か判ったのか?」
「・・・ええ、ひょっとしたらひょっとして・・・」
「何が判ったのだ! 鬼童殿!」
榊、円光に加え、アルファベータも鬼童の元に駆け寄り、期待に一杯の目で真剣な鬼童の顔を見上げて待つ。そんな周囲の様子をあえて無視して機械の操作に集中していた鬼童は、やがてはっきりと一人ごちた。
「そうか、そうに違いない」
「何がそうなんだ?」
「にゃーん!」
「わん! ワンワンワン!」
焦って答えをせがむ榊達に、ようやく鬼童は思わずほころんだ笑顔を見せた。
「うまくいけば、我々も結界の中に飛び込めそうですよ!」
「何だって?」
期待していた答えとはいえ、さすがにこうもいきなり言われては、榊や円光と言えども判断に躊躇するのはやむをえない所だろう。何せ相手は、円光、アルファ、ベータという当代切っての能力者たちの束ねた力すらあっさりひしぐ力の持ち主である。その者が作った結界を破って中に侵入しようなど、およそ正気の沙汰とは思えない。だが、鬼童は喜び勇んで榊に言った。
「さあ、急ぎましょう! 早くしないと、間に合わなくなる!」
「ど、どこに行くんだね」
「朝倉さんの辿った道、すなわち青森第五連隊の通った道を、我々もそっくりなぞるんですよ!」
「第五連隊の辿った道?」
「そうです。それが多分、結界を抜ける唯一の通り道なんですよ。さあ早く!」
鬼童は率先して苦労の末降りてきた山道をまた登り始めた。アルファ、ベータがあわててその長い足を追いかけて斜面を駆け上がる。榊、円光も、こうなっては鬼童の後を追うしかない。
「鬼童君! もう少し詳しく説明してくれ!」
きびすを返す榊の背中を尻目に、円光は結界の方角へ振り向いた。
「麗夢殿、しばしの辛抱だ。拙僧、必ず助けに参る!」
円光は軽く一礼を残すと、やにわに鬼童の後を追った。
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