かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

新作短編 その20

2008-10-19 22:11:21 | 麗夢小説 短編集
 今日はミニ引越しをいたしました。ちとうちの押入れ付近で雨漏りがするもので、そのあたり一帯を修繕しようと言うことになって、押入れの中のものを別の部屋に移したのです。それにしても、出るわ出るわ、まさにこれまでここで住んでいた軌跡が地層をなして、手前から奥にかけて、実に様々なものが大量の埃とともに出てきました。ほとんど一日がかりでようやく人心地つきましたが、今週予定の工事完了後、またこれを元通りに戻す必要があると思うと、さすがにげんなりしてしまいます。出来ることなら、この際不用物はすっきり処分しておきたいのですが、山となった雑多なモノどもを整理するだけでも一苦労、実際に引越しでもしない限り、そこまで手がけるのはちと難しいようです。

 さて、と言うわけでこちらの方の時間はちと厳しいものがありましたが、何とか今週も更新できました。とうとう連載20回に達してしまいましたが、ようやくゴールが見えてきたようです。それでは、はじまりはじまりぃ。

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 一瞬、真っ黒になった視界が、次の瞬間にはま白く反転した。まだジーンと衝撃が頭に残り、それが何故なのか、はっきり判らないのがもどかしい。薄ぼんやりと開いた目に映るのは、やはりただ白一色のぼやけた世界。そして・・・。
 鋭い冷気を肌に感じ、はっと麗夢は意識を取り戻した。とっさに両手を動かそうとしたが、それがまるで言うことを聞かないことに驚く。見れば、大きく大の字に広げられた両腕の、二の腕から先が分厚い氷で覆われ、それが下から不定形に積みあがった二つの雪の塔に繋がって、ちょうど麗夢の身体を空中に固定していたのである。頼みの剣はと言うと、右手の氷の中に一緒に封じ込まれていた。剣さえ振るうことが出来れば、これくらいの氷をどうにかするくらいわけはないのだが、柄の部分が指先からほんの少しだけ離れ、その隙間を緻密に埋める氷が硬く凍てついていては、さしもの夢の戦士といえども、即座にこれをどうすることも出来なかった。
 かなり状況は悪い。
 まだ夢のガードが力を保っているが、氷に覆われた腕、そして、夢戦士の姿のまま、すなわちほとんど裸同然に露出している全身を蝕む冷気が、一段と強く、深く染み通ってきているようだ。すなわち、この「八甲田山」そのもの、と鬼童の呼ぶ相手の霊力の大きさに、今自分は圧倒されつつあると言うことである。このままでもしばらくは耐え忍ぶことも出来るだろうが、いずれこちらの気力が尽きてしまえば、真夏の東京で透視した3人の若者達のあとを、自分も追うことになるのは間違いない。
『ほう、まだ凍りつかぬとは。噂に違わぬ力よの夢守』
 嘲弄とも怒声ともつかぬ声が麗夢の耳を突いた。正面にいつの間にか、さっきまで戦っていた巨大な雪製遮光式土偶が立っている。
「あなた、何故朝倉さんを・・・、いえ、朝倉さんだけじゃないわ。田中さん、植田さん、斉藤さん達の命を奪ったのは何故なの!」
『そのような瑣末事、我は覚えておらぬ』
 土偶の右腕が上がり、宙吊りの麗夢の足に伸びた。途端に、膝のアーマーから下が腕と同じく透明な氷に覆われた。同時に、その足下から雪が不規則に伸び上がり、腕同様に足も固定してしまう。更に冷気が、氷が、ほんの少しずつではあったが、確実に両腕と足から身体へと成長し始めた。麗夢は気力を振り絞ってその力を阻止しようと努めたが、わずかにスピードを抑えることが出来たに過ぎなかった。
腕の氷は更にひじを越え、肩に届き、肩のアーマーには白い霜がうっすらと降りつつあった。足の方も、氷の薄い皮膜が太ももを徐々に這い登って、そろそろ腰に届こうかと言う状況である。
『夢守は突いても裂いても死ぬことはない、と聞く。その噂、試してくれよう』
 遮光式土偶の左手が上がり、その先が急速に細く、長く伸びていった。やがて、先端鋭い槍のような形に変形した左手が、その切っ先を麗夢の胸元に突き立てた。
 駄目だ。相変わらず話が通じない。
 身動きできない麗夢が、氷の槍を胸に受ける覚悟を固め、歯を食いしばった、その時。
「もうやめなさい。山ノ神ともあろう者が、大人げない」
 麗夢が声の元を探して見下ろすと、ちょうど足元、対局の土偶雪人形と麗夢の間に割り込むように、両手を左右に広げた朝倉の身体が、小さく見えた。
「朝倉さん! 危ないから逃げて!」
 麗夢は思わず声をかけたが、朝倉は振り返ろうともせずに目の前の雪の塊に語りかけた。
「これだけ暴れたらもう気も済んだだろう。さあ、約定を果たしにきたんだ。煮るなと焼くなと好きにすればよい」
『よい心がけだ』
 左手の槍を下ろした土偶は、ぐらり、と前かがみに傾いて、右手で朝倉の身体をわしづかみにするや、そのまま空中高く持ち上げた。
「朝倉さん! 朝倉さんを放して!」
 麗夢は必死に呼びかけたが、氷が既に首まで届き、声を上げるのも難しい。すると、朝倉が麗夢に振り返った。
「何度も言うようだが、私は朝倉じゃない。私の名前は・・・」
「倉田大尉! あなたは、倉田大尉ですね!」
 麗夢の背後から突然上がった声に、朝倉はようやく判っててもらえたか、と安堵のため息を一つついた。そして、背後の見えない声の主に、朝倉は答えた。
「いかにも。自分は青森歩兵第五連隊大尉、倉田だ」
「ならばもう何の問題もない! 八甲田山の神よ! 麗夢さんを放してくれ! 私達は、けして貴女の邪魔をしにきたのではありません!」
「麗夢どのぉ!」
「ニャーアン!」
「ワンワンワンワン!」
「麗夢さん!」
「どういうこと・・・? どうやって来たの、みんな・・・」
 麗夢は信じがたい気持ちで、次々に上がる呼びかけを聞いた。首を回して見られないのがもどかしかったが、それは確かに、心強い仲間達の声だった。


 

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