かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

新作短編 その6

2008-07-06 22:04:18 | 麗夢小説 短編集
 今日は昼までぐっすり、といきたかったのですが、こういう休日に限って朝はきっちり目が覚めてしまうもので、6時半には目が覚めてしまいました。そこで二度寝をもくろんだのもののなぜか目がさえてしまい、結局寝ることができませんでした。もっとも、昼間は暑いですが、朝は結構涼しいので眠れなくても横になっているだけで結構気持ちよかったりします。そのままごろごろ布団にしがみつき続け、8時になってようやく枕から頭を上げました。

 さて、今日はamazonからようやくブツの届く日で、待つこと半日、午後2時過ぎになってやっと玄関のブザーが鳴りました。早速中身に比べていつも大振りな箱を開け、何はともあれいの一番に「ドリームハンター麗夢XX」第2話を堪能、他の作品をさっと読み流して、もう一つ、到着を心待ちにしていた「深海のYrr」中巻を開きました。上巻の比較的ゆったりしたストーリー展開に比べて、中巻は冒頭から一気に破局が押し寄せてきて、目が回りそうです。気がつくと、もう200ページばかり
読み進めておりました。こんなペースで読んでいたら、下巻もあわせて今週末までもたないかもしれません。

 それでは、そんな合間を縫って私のお話の方も書き進めて参りましょう。
 一つ気づいたのですが、なぜか連載という形をとると、全体の長さが読みにくい気がするのです。コミケにあわせて長編書いてたときは大体これくらいの枚数になるだろう、と初めから予想して、それが大きく外れることもなかったのですが、このお話だけは、一体どこまで延びるのか、自分で言うのもなんですが見当がつきません。私としては、すでに頭の中で展開しているクライマックスを早く書きたくてうずうずしているのですが、そこまでいたるのに思いのほか手間取っていることに我ながら驚いております。まあそれはさておき、とにかく先へ進めましょう。幾らなんでも今月中には書きたいところまで届くはずですから。

-----------------------本文-------------------------

 朝倉の快復を待つこと一週間。午前10時東京・羽田空港を飛び立った麗夢達一行は、定刻通り11時過ぎには本州最北端の空港、青森空港に到着した。ここから目的地である青森市幸畑の陸軍墓地までは、直線距離で東におよそ10キロ余りになる。榊があらかじめ用意したレンタカーに納まった一行は、一路幸畑を目指して青森市郊外の田園風景の中を走り出した。
「見て! アルファ、ベータ、八甲田山よ!」
 助手席に納まった麗夢が、膝に抱いていたお供の二匹に声をかけた。
「ニャア!」
「ワン!」
 二匹のお供も運転席の榊越しに、身を乗り出して目を向ける。後席に納まった円光や鬼童、それにたっての希望で再び訪れることになった朝倉幸司も、同じように幾つもの嶺が折り重なって見える八甲田山を見た。
「でも、どれが八甲田山なのかしら?」
 一目見ただけで、明らかに異なる頂と見分けられる山が5つか6つはある。高さもそれ程変わらないように見えるそれらが前後左右に寄り添っているため、ちょっとした山脈のようにも見える。
「八甲田山、という山はないのです、麗夢殿」
 麗夢の真後ろから円光が話しかけた。
「え? どういうこと?」
「八甲田山というのは、あの山々全部の総称なのです。一番左端に見えるのが前獄、その隣の手前が田茂萢岳、と言うように、一つ一つには、全部別の名前が付いているのです」
「じゃあ、昔遭難があったというのは、その山の中で迷ったりしたわけ?」
「いいえ、八甲田山は大体1500m前後の高さですが、彼らが遭難したのは、あの前嶽の更に左側、標高700m位の所だったそうですよ」
 中央に朝倉を挟んで榊の後ろに坐る鬼童が、麗夢に言った。
「彼らの目的は、そもそも真冬の八甲田山を登山することじゃなくて、冬山で武器や食料などの輸送が可能かどうか調べることと、耐寒訓練が目的だったんです。だから目的地も途中の田代という所までだったんですよ」
「今ならロープウェイで真冬でも頂上まで一気に上がれるのに・・・」
「ろくに冬山装備も無しに歩いて登るのは、さぞ困難を極めたと思いますよ」
 円光や鬼童等と雑談をかわしつつ、麗夢はさりげなくその間に坐る朝倉の様子を観察した。とにかくここまでは無事に辿り着いたことに、麗夢は密かに安堵の溜息をもらす。麗夢は円光と共に、この1週間というもの、まさか、よもや、と思いつつも、万に一つの可能性を無視しきれず、交代でそっと朝倉の護衛を続けていたのだ。もちろん榊も配下を貼り付け、24時間ぬかりなく警護を続けていたが、幾ら榊が全国屈指の名警官であり、その配下には屈強の手練れが揃っていると言っても、相手が死霊とあってはあまり役に立ちそうにない。鬼童も一応は気を付けてくれたが、実戦となるとこれも余り過度の期待は出来ない男だ。勢い、確実を期すには麗夢と円光以外に適任はなく、時折アルファ、ベータの手を借りながら、今日まで頑張ってきたのである。それも恐らくは今日で終わる。麗夢の溜息は、そんな徒労に終わった1週間を締めくくるための、儀式とでも言うべきものであった。
「ニャウン?」
 目ざとくアルファが小首を傾げて麗夢に振り向いた。麗夢も苦笑いを浮かべると、軽く舌を出して自分を諫めた。
「そうね、まだ気を抜いたらいけないわよね。何せここからが敵の本拠地なんだから」
「脅かさないで下さいよ、麗夢さん」
 ハンドルを握る榊が、苦笑混じりに相の手を入れる。
「ご安心めされい、警部殿。たとえ万々が一に何かあったとしても、拙僧や麗夢殿がいれば大丈夫」
「そうそう、アルファやベータもいるし、鬼童さんだっているんですから」
「僕を頼りにして下さるとはうれしいですね、麗夢さん」
 うれしそうに笑顔を向ける鬼童に笑顔を返しつつも、多分何も起こらないだろう、と麗夢は考えていた。その気分は、一人麗夢だけじゃなく、一行の全員が共有するものだったに違いない。円光でさえ、一週間の護衛が何事もなく過ぎたときには、さすがに考え過ぎだったか、と麗夢にぽつりと洩らしたほどである。既に死霊は退治した、この上何が起ころうというのだろう。榊はもちろん、皆がそう思うのは無理からぬ所だ。
 ただ・・・。
 麗夢はおぼろげに心の片隅をたゆたう不安な気分を自覚していた。はっきり何かを予感しているわけではない。恐らくは気にかけなければほんの数瞬のうちに忘れはてる程度の、不安と言うにはあまりに未熟なもやもやした気分である。今もふっとよぎるそんな思いは、自分が愛車のハンドルを握っていないからだろうか。榊から、飛行機で行く、と聞いた時に、一度は自分はプジョーで走っていきます、と告げて榊を困らせた。それは、そんな気分が最後まで拭えなかったからに相違ない。麗夢は無意識に左脇のホルダーに納めた愛用の銃を服の上から確かめ、自分自身に問いかけてみたが、残念ながら答えは出てこない。今はただ、無事この禊ぎ旅行が滞りなく済んで、全ての決着が付くのを祈るしかなかった。
 やがて榊の運転するレンタカーは、青森環状線と呼ばれる県道44号線を東に進み、青森市郊外の住宅地を通り抜けた。更にその周辺では一際目立つ鉄筋コンクリートの立ち並ぶ、青森大学の前を通り抜け、その先の幸畑交差点で右に折れた。
「遭難した部隊もこの道を辿ったそうですよ」
「こんな道で遭難したのかね」
「100年以上前の、それも真冬の話ですからね。今とは比べものになりませんよ」
 冬には積雪で閉ざされてしまう県道40号線も、さすがに真夏は普通のアスファルト道にしか見えない。辺りも少し鄙びてきたような気はするものの、少しばかり緑の多いごく普通の住宅地に見える。榊と鬼童のやりとりに頷きつつも、100年前の遭難事故が、麗夢にはどこか別の世界の話のような感じがしないでもなかった。
「ああ、警部、そろそろですよ」
 鬼童が目ざとく道案内の看板を見つけ、榊に注意を促した。程なく駐車場への案内が現れ、榊はハンドルを右に切って、目的地・幸畑墓園へと、車を乗り入れた。

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