平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

D坂の殺人事件

2007年12月09日 | 短編小説
 江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」。
 D坂とは東京の団子坂のことらしい。
 確かにタイトルが「団子坂の殺人事件」ではかっこ悪い。
 明智小五郎が最初に登場した作品でもある。

 さて古い推理小説を読む楽しみとして当時の風俗を知るという楽しみがある。
 作品が発表されたのが大正十四年ということから、描かれているのは大正風俗。
 まず喫茶店がある。アイスコーヒーのことは冷やしコーヒーと言ったらしい。
 語り部の私と明智小五郎は喫茶店で推理小説などの話題でダベっているが、そんな行動を大正期にしていたことがわかる。
 その他にはアイスクリーム屋なども事件の目撃者として証言しているから、アイスクリームも存在していたらしい。
 現代に近い習俗である。
 またD坂は『菊人形の名所』だと描かれているが、僕は『菊人形』というのを見たことがない。漱石の「三四郎」なんかにも菊人形見物が出てくるが、どんなものなんだろう。

 推理小説としてはひとつの事実を私と明智が推理する方法がとられている。
 オモテに現れている事実は
1.古本屋の女房が殺されたこと。首を絞められた窒息死であること。
2.被害者の体にいくつもの傷があったこと。
3.犯行時に襖の格子越しに男の姿を見たふたりの学生がいること。
4.ひとりの学生は男の来ていた着物は紺だと言い、ひとりは白だと言っていること。
5.その目撃された男はオモテからも裏口からも出た様子がないこと。
6.犯行時に電灯が消えたこと。灯りのスイッチは明智が部屋に踏み込んだ時につけたため、犯人の指紋が消され明智のものだけしか残っていないこと。
7.殺された女は明智の幼なじみであること。

 この事実に基づいて私と明智が推理するわけだが、事実が人物の解釈によりA案、B案ふたつあるという所が面白い。
 黒澤明の「羅生門」よろしく、物事の解釈など見る者の主観によりいくらでもあるということを描いている。

 まずは語り部である私の解釈。
 犯人は明智。
 犯行に明智にアリバイがない。ぶらぶら歩いていたと言っている。
 それに当時、着ていたのは紺と白の着物。
 明智は殺人を終えると隣の蕎麦屋を通って逃げた。
 動機は過去の痴情のもつれか?

 それに対して示される明智の推理。
 ネタバレになるので書かないが、動機としては当時としては驚くべきものであったろう。現代ではわりとポピュラー?
 ヒントは『被害者の体にいくつもの傷があったこと』

 最後に明智の言葉をひとつ。
「物質的な証拠なんてものは、解釈の仕方でどうにでもあるものですよ。一番いい探偵法は人の心の奥底を見抜くことです」


コメント
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