平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

「走れメロス」太宰治~短文を積み重ねによる、リズム、疾走、躍動の心地よさ!

2020年09月13日 | 小説
 メロスは激怒した。
 で始まる太宰治の『走れメロス』。

 その文体構成は、短文の積み重ねだ。
 たとえば、『メロス』の冒頭──

 メロスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれたシラクスの市にやって来た。メロスには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばるシラクスの市(いち)にやって来たのだ。

 僕はこういう短文を重ねる文章が好きなんですよね。
・小気味いい。
・リズムがある。
・ムダな修飾がない。
・情報がスッと入ってくる。
・硬質。

『メロス』は走る小説なので、短文の積み重ねが合っている。
 短文の方が疾走感が出るのだ。
 たとえば、ラストの刑場にたどり着くシーン。

 まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、メロスは走った。メロスの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、メロスは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。

 おおっ、何と心地いい文章だろう。
 これ、朗読したら楽しいよね。

 もっとも長文でも疾走感を出せる。

 メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪(なみ)を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻き分け掻き分け、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐憫を垂れてくれた。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。

 路行く人を押しのけ、跳ねとばし、メロスは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴飛ばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。

 何という躍動!
「犬を蹴飛ばし、小川を飛び越え、」とかすごくないですか?

 これを朗読する時は、息継ぎをせず、一息で読み切るとカッコいい。

 比喩や修飾も文章に躍動感を与えている。
・ざんぶと
・百匹の大蛇のように
・のた打ち荒れ狂う
・押し寄せ渦巻き引きずる
・なんのこれしきと
・めくらめっぽう獅子奮迅の
・黒い風のように

 ううっ、たまらんなあ。
『走れメロス』はストーリーではなく、文体を味わう作品ですね。
 神は細部に宿る。

 この作品は朗読がおススメです!
 朗読しているうちに、自分もメロスと疾走している感じを味わえるはず!


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2 コメント

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Unknown (lemonwater2017)
2020-09-15 11:36:15
象が転んだです。
Pオースターの翻訳者である柴田氏が彼のことを”華麗なる前衛”と称しました。
太宰治「走れメロス」にも、同じ様な称賛を与えたいです。
返信する
ありがとうございます! (コウジ)
2020-09-15 21:50:48
象が転んださん

教えていただき、ありがとうございます。
〝華麗なる前衛〟
どういうことか調べてみますね。

返信する

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