平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

銀河英雄伝説を読む7~「講和」か「主戦」か。イゼルローン攻略で巻き起こる議論。「主戦」を説く政治家のいかがわしさ

2023年01月26日 | 小説
 ヤンの智略で帝国のイゼルローン要塞を奪取した自由惑星同盟。
 その最高評議会の11人の評議員はこんな議論をおこなう。

「ヤン提督の智略で、吾々はイゼルローンを得た。
 帝国軍はわが同盟に対する侵略の拠点を失った。
 有利な条件で講和条約を締結する好機ではありませんか」


 この評議員レベロの主張はヤンの考えに合致する。
 これで人々は戦争に拠る経済的な疲弊から立ち直り、平和を享受することが出来るのだ。
 平和な期間はどれくらい続くかはわからないが。
 ヤンも軍人を辞めて、軍人の年金暮らしで、好きな歴史の研究が出来る。
 だが、こんなことを言う評議員もいる。

「しかしこれは絶対君主制に対する正義の戦争だ。
 彼らとは俱(とも)に天を戴くべきでない。
 不経済だからといってやめてよいものだろうか」


 これに対して講和派のレベロ。

「つまり民力休養の時期だということです。
 イゼルローン要塞を手中にしたことで、わが同盟は国内への帝国の侵入を阻止できるはずだ。
 それもかなりの長期間にわたって。
 とすれば、何も好んでこちらから攻撃に出る必然性はないのではないか」


「これ以上、市民に犠牲を強いるのは民主主義の原則にもはずれる。
 彼らは負担にたえかねているのだ


 これに対して主戦派の評議委員ウインザー夫人。

「大義を理解しようとしない市民の利己主義に迎合する必要はありませんわ。
 そもそも犠牲なくして大事業が達成された例があるでしょうか?」


 議論は白熱。

「その犠牲が大きすぎるのではないか、と市民は考え始めたのだ。ウィンザー夫人」

「どれほど犠牲が多くとも、たとえ全市民が死に至ってもなすべきことがあります」

「そ、それは政治の論理ではない」

「わたしたちには崇高な義務があります。
 銀河帝国を打倒し、その圧政と脅威から全人類を守る義務が。
 安っぽいヒューマニズムに陶酔して、その大義を忘れはてるのが、
 はたして大道を歩む態度と言えるのでしょうか」


 さて、皆さんはこの議論のどちらに共感するだろうか?
 ウィンザー夫人に共感するのは、僕的にはNGな気がする。
 政治家が「大義」とか「正義」とか言い出したら、気をつけた方がいい。
 政治家は言う。
 虐げられた人たちを解放するための戦争。それをおこなう国は「美しい国」。
 一見、正しいようにも見えるが、
 戦争は虐げられた人たちを助けるためだけにおこなわれるわけではない。
 そこには勝利して得た土地の利権が絡んだり、
 軍需産業と癒着した武器利権があったり、政治家の名誉欲や自己陶酔があったりする。
 戦争の勝利者が旧支配者に代って新しい支配者になったりもする。
 そして『銀英伝』のジェシカが語ったように、戦争を煽る政治家は戦場に行かない。
 まあ、平凡で退屈な生活を送っていて、人生に行き詰まっている人は、美しい国の戦争に参加して、人生を意義あるものにしたいと考えるかもしれないが……。

 さて、この評議会の議論はこんなオチで終わる。

「コンピューターに計測させたところ、ここ100日以内に帝国に対して画期的な軍事上の勝利を収めれば、支持率は最低でも15%上昇することがほぼ確実なのだ」
 

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2 コメント

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二つの潮流 (TEPO)
2023-01-28 00:26:14
私は、同盟軍が帝国領侵攻へと流れてゆく場面は見るのが辛い(腹が立つ)ので、一度流し見しただけで、丁寧に繰り返し視聴はしていません。
ただ、旧作アニメ「シーズン1第16話」、新作アニメ「シーズン1・第13話」、同盟軍が帝国領侵攻が失敗し、アムリッツァ星域会戦に敗北し、ヤンたちの奮闘で辛うじて全滅を免れてイゼルローンに帰還する場面で、ヤンがフレデリカに次のように述懐する場面があります。
両方のアニメで同じ台詞なので、おそらく原作どおりなのでしょう。

>私は少し歴史を学んだ。
>それで知ったのだが、人類の社会には思想の潮流が二つあるんだ。
>人の命以上の価値があるという説と、命に優るものはないという説だ。
>人は戦いを始めるとき前者を口実にし、やめるとき後者を理由にする。
>それを何百年、何千年と続けてきた。
>いや、人類全体などどうでもいい。
>私はこの先流した血の量に値するだけの何かをやれるんだろうか。

差し当たり「戦いをやめる理由」となる「後者の説」が良識的であるように見えます。
しかしながら、皮肉にも敗戦後権力を握ったのはトリューニヒト。
トリューニヒトが同盟側社会にとっていかなる存在であったかは周知の通りです。
しかし、そのトリューニヒトは帝国領侵攻作戦に限って言えば「良識派」すなわち、帝国領侵攻反対の立場でした。
本作の構図はなかなか単純ではありませんね。
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マクロとミクロ (コウジ)
2023-01-28 09:52:09
TEPOさん

いつもありがとうございます。

そうなんですよね。
評議会でトリューニヒトは「反対」に票を投じるんですよね。
何という深謀遠慮。

僕も、同盟が「帝国侵攻」をおこなった時、何と愚かなことをするのか、と見ていてつらくなりました。
でも、ひとつのことが上手くいくと、もっともっとと求めてしまうのが人間なんですよね。

ヤンの言葉、的確ですね。
国家というマクロの視点で、見れば人の命など小さなもの。
個人のミクロの視点で見れば、人の命はかけがいのないもの。
と言い換えることが出来るかもしれません。

そして政治家や官僚はマクロでしか物を考えないんですよね。
たまにミクロの視点を持つ時は、自分の選挙や利権や出世や天下り先のこと。

あるいは「それを何百年、何千年と続けてきた」人類の脳は、これで限界なんですよね。
おそらく新しいステージに行くことはない。
返信する

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