平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

24 シーズン2 第14話

2006年02月19日 | テレビドラマ(海外)
「24」 シーズン2 第14話では核爆弾がどこにあるかがメインテーマとなる。

 マリーが空港で捕まり、ジャックが尋問するのだ。
 マリーは肩を撃たれ、弾丸を抜いてもらえない。
 ジャックは言う。
「弾丸が入っているから痛い。正直に話せば弾丸も抜くし、痛み止めも打ってやる」
 だが、マリーはしゃべらない。主義のために命を既に捨てていると言う。
 ジャックは信じない。
「心の底ではそう思っていないはずだ。俺は命を惜しまぬ人間の目を知っている」

 やがてマリーは痛みからショック状態に陥る。
 マリーはテロ組織から教えられたことを繰り返すだけになる。
 ジャックは5分だけ有効な鎮痛剤を与え、朦朧とした意識の中でマリーにしゃべらせようとする。姉のケイトを使って。
 そして、マリーは言う。
「スーツケースの中に爆弾は入っている。スーツケースを積んだバンはダウンタウンのアルゴタワーに向かっている」
 ジャックは「レベル1の非難を実行させろ」と指示を出すが、バンの種類などを問いつめていくうちに矛盾を発見して、マリーの嘘を見破る。

 この一連のやりとり。
 二転三転して実にスリリングだ。
 捜査のプロ・ジャックの凄さが描かれる。
 アメとムチの使い分け。
 尋問者を変える。
 そして、嘘を見破る手法。
 爆弾のありかを吐かせるというテーマがはっきりしているだけにシナリオライターの腕の見せ所だ。

 また、第14話では他の人物にも新たな問題が巻き起こる。
 CTUのミシェルは、本部から派遣されてきた元女性上司と対立する。
 CTUのチーフがジョージからトニーに替わる。ジョージが被爆して指揮不能になったためだ。トニーはジョージから本部と繋ぐアクセスコードを渡される。
 大統領の方では、妻のシェリーが疑惑を持たれる。
 真偽がわからぬシェリーに対し大統領は言う。
「君を信じていいか確かめる気力も時間もない」
 ジャックの娘キンバリーも核シェルターを作り、山中に隠棲するロニーに幽閉されそうになる。ラジオ・テレビのコードを抜いたロニーに「ロスに核爆弾が落ちた。シェルターに非難しよう」と言われるのだ。
 その嘘がばれて出て行くキンバリーにロニーが言うせりふが哀しい。
 ロニーは言う。
「おれのこと知りたくないの?おれと話したくないの?」

★研究ポイント
 連続物のドラマの作り方。
 ひとつの事件が解決したら、また次の事件が起こる。
 しかも同時進行。
 誰が本当のことを言っているかわからないという裏表のある人物造型。

「アンフェア」も同様の作りを狙っているが、あくまで起こる事件はひとつである。他の人物のドラマ・事件はない。しかも4話をかけての解決。

★追記
 マリーとケイトには次のようなやりとりも。
 ケイトに銃を向けテロリストのマリーは言うのだ。
マリー「以前の私は空っぽだった。でも、この国のやっていることが世界中に苦をもたらしていることが分かった時、自分を取り戻した」
ケイト「狂信者に洗脳されているのよ。大量殺人の犯人になりたいの?罪のない人を殺したいの?」
マリー「わたしはあなたを撃てるわ。私の使命はケイトの命より大事なものだから。わたしの命より大事なものだから」

 洗脳された狂信者の人物造型としてここに残しておきたい。

★追記
 ロニーがキンバリーに銃を向けるシーンもサスペンスがある。
 シェルターから出て行こうとするキンバリーにロニーは銃を向ける。
 キンバリーを撃つのかと思いきや、銃を渡す。
 山の中にジャッカルがいて危ないからと言って銃を渡すのだ。
 
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沈まぬ太陽

2006年02月18日 | 小説
山崎豊子の作品の基本構造はこうだ。

主人公が社会的な悪と闘い始める。
その闘いには葛藤がある。
闘うことにより出世コースから外れる。
家族を犠牲にする。
主人公の前に現れる強大な敵。
現れる主人公の協力者。
信じていた仲間の裏切り。

「沈まぬ太陽」(1)から例を取ってみる。

主人公・恩地元は国民航空の労働組合の委員長に選ばれる。
前委員長の八馬から推薦があったからだ。
労働組合と言っても会社のなれ合い組合。
八馬は彼の性格から、そのなれ合いを引き継いでくれる人材として恩地を推薦した。恩地は八馬から言われる。
「うまくやってくれれば将来は必ず保証される」
現に恩地は予算室で働くバリバリのエリートだった。
しかし、恩地は就任するや問題意識を持ち、組合の主張を会社側にあげるようになる。
国民航空の労働条件があまりにも劣悪だったからだ。
その原因は「組合がありながら、幹部の連中が組合委員のことより、自分たちの出世のために会社と馴れ合っているからだ。どの部門の職場でも不満は鬱積しているのに、言い出す者がいない」
委員長になった恩地は主張する。
「わが国民航空はお客様の事故に繋がるという自覚を持って、日夜、それぞれの職場で努力しておられると思います。しかし現状の賃金、労働条件はあまりに前近代的で、社会的役割と企業の規模からかけ離れているばかりか、公務員並みの水準にも至っておりません」
会社側と対峙してストを決行する。

こうして主人公の闘いが始まる。
しかし、障害が主人公を襲う。
前委員長の八馬は言う。
「今のままでは私の面子まるつぶれ、君を推薦した私の責任まで問われているんだ。組合と言っても会社あっての組合だってことくらいわかっているだろう」
それに対して恩地は言う。
「私は御用組合の委員長になるという約束はいたしておりません」

政治家からも圧力がかかる。彼は労働組合系の政治家であったが。
「団交というのは、ただ押しまくればいいというもんじゃなく、頃合いを見計らって手早く退くところが、委員長の腕の見せ所なんだ。あまりにも素人すぎるよ。何だったら私がパイプ役の労を取ってもいいから一度、議員会館に来ないか?」
恩地は言う。
「ご助言は有り難く思いますが、素人は素人なりにやって行こうと思いますので」
すると議員は急に横柄になって「そうかい、私は親切心で言っているだけだ。相談があればいつでも来たまえ」と言う。

味方も現れる。
運航技術部の志方は、空港で起こった飛行機事故の原因は超過勤務にあったとして恩地と組合の主張を支持する。

一方、敵も強大になる。
堂本はかつて共産党員として戦中、闘っていた人間だったが今は転向している。そんな彼が取締役になり、恩地の敵になる。

この闘いの結果、恩地は左遷され、アフリカでの海外勤務を余儀なくされる。
組合は不当人事だと反対のビラを配るが、相手にされない。
副委員長の行天は恩地と共に闘ってきた人間だったが、懐柔されて組合を抜けた。そして今はエリートコースを歩んでいる。

そして数年後、御巣鷹山の大惨事が起きる。
恩地が組合で主張してきたことが証明されたわけだ。

オーソドックスなドラマながら、人物がそれぞれの立場で的確に描かれているから面白い。
ワンシーンワンシーンがそれぞれに緊張感があるから長編であることを感じない。

敵が巨大な組織で、腐敗している組織だから恩地の闘いが活きてくる。

恩地が抱える葛藤、すなわち「自分が闘ってきたことは正しかったのか?」「自分は空しい闘いをして人生を無駄に過ごしてきたのではないか?」という葛藤が、御巣鷹山の事故にいたる。事故の痛みはあるが、自分の闘いが正しかったことが証明される。
このドラマ構成が見事だ。


★研究ポイント
物語の基本構造のお手本。

人物の登場・退場の仕方も計算されている。
ディティルの描写も見事。

「白い巨塔」と比べてみても構造は同じであることがわかる。
医療ミス。
大学側からの里見への圧力。
医療ミスと判断する者(敵)、しない者(味方)が入り乱れての裁判での証言。
裁判の敗訴。
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ココリコミラクルタイプSP

2006年02月17日 | バラエティ・報道
「嫌われる女」をテーマにしたショートドラマ。
テーマを「嫌われる女」とした所に女性視聴者を見込んだマーケティングを感じる。

★「殴られる女」(小西真奈美・庄司智春)
 未来は「愛されたい」という気持ちが強い女。
 それゆえ、恋人の気持ちが離れようとすると、何でもないことで感情的になってしまう。
 それが相手にとって負担になる。
 つらくなる。
 感情には感情で男は未来を殴ってしまう。
 しかし、殴る男は心の弱い男だ。
 デザイナーの隆は未来を殴らない。
 ちゃんと別れを告げる。
 そんな形で別れたことのない美久はとても嬉しい。
 そしてイタリアへ旅立つ隆。
 隆は気づく。
「自分も誰よりも愛されたい男」
 ふたりは再会して、お互いの中に自分たちの居場所を見出す。

★結婚しない女(坂井真紀・八島智人)
 クラス会での再会。
 若い女の子とつき合っているという今井にウェディングプランナーをしている亜子は「自分に自信のない男は若い子が好き。どうせ騙されて貢いでいるんでしょう」とからかう。
 それに対し今井は結婚していない亜子に「おまえこそ、白馬の王子様が来るのを待っているだろう」と突っ込む。

 ふたりはお互いのことを理解し合っている名コンビなのだ。
 そして独りが居心地と思いつつ、寂しいとも思っている。

 ふたりは若い後輩を誘ってダブルデートをする。
 読んだ漫画のことで世代のギャップを感じる。
 若いふたりは「NANA」「スラムダンク」。
 今井たちは「タッチ」。

 一方、亜子は出入りしている旅行代理店のイイ若い男(加藤晴彦)に想いを寄せられる。
 思い切ってデートをするが、どうも疲れる。
 今井といっしょにいる方が気楽だ。
 でも今井からメールが来て「素敵な夜。間違いをおこしそう」とメールを返してしまう。

 すれ違うふたり。
 しかし、気持ちはお互いの方を向いている。
 そして、さそり退治に呼び出され、お礼に箱いっぱいのミカンをもらった今井はある行動に出る。

★研究ポイント
 「愛されたい女」「結婚しない女」
 いずれも現代に生きる人間の願望をよく描いている。
 おそらく自分に身近な問題として観る人が多かっただろう。

 また、大がかりな11回ものだけがドラマではない。
 こういうシンプルさ(30分ドラマ)に可能性を感じる。

★追記
 「結婚しない女」は、映画「恋人たちの予感」で描かれた内容を使っている。
 こういう使い方をしてもいいのかな?
 「南海キャンディーズ」らお笑い芸人やMEGUMIらグラビアアイドルらが結婚相談に来る遊びが楽しい。
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全国民に喝!

2006年02月17日 | バラエティ・報道
TBSで放送された「全国民に喝!」。
日本の教育問題が議論された。

「(子供たちの)もめ事を俺の所に持ってくるな」
「     〃    は俺の知らないところでやってくれ」と平然と生徒に言う教師。

こんな状況を石原慎太郎は日本の防衛・外交にも関連づけてこう言う。
「肝心なことをすべて他人に預けている」
子供のもめ事に関わるのは教師の仕事。
その仕事を放り出している。
できれば他人が解決してくれればいいと思っている。

ある現役教師は、この原因は教師の評価制度にあると主張する。
「学級運営ができない教師はダメ教師とレッテルを貼られる」のだ。
それが嫌で生徒間のもめ事を嫌うという。
「校長はもっと現場に理解を示し、教師にダメのレッテルを貼るのではなく、伸ばす様に考えるべきだ」と言う。

そして、こうした評価制度は子供にも向けられるという。
すなわち、先生は自分がやられたのと同じように、子供たちに能力がないというレッテルを貼ってしまうのだ。
完全否定された子供は立ち直ることができない。
不登校になる。

そんな状況に対し、奮闘する住職さんがいる。
その住職さんは不登校の子供たちを自分の寺に住まわせて会話をしていく。
住職さんは言う。
「自分は父親であり、友だちであり、先生である。苦しいこと、つらいことがあったら何でも言ってくれ」
この「父親」であり「友だち」であり「先生」であるという発想がスゴイ。
また、その言葉はうわべだけのものではない。
親が子供の悩みの原因であれば、親を真剣に怒ってみせる。
「親にお金をもらっていないから、遠慮なく怒れる」と言う。
今の大人たちが見習わなければならない存在である。
子供たちは自分たちに真剣になってくれる存在を求めている。
そして、組織のしがらみやお金の絡まない宗教家の役割は重要であると住職は言う。

★研究ポイント
 こうした現在の状況をドラマで描く。

★追記
 また石原慎太郎はこうも言う。
「他人との摩擦を克服する力を与えるのが父親の役割」
 慎太郎シンパでも何でもないが、自分を含めて確かに「他人との摩擦を克服できない」人間は多い。
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Ns’ あおい 第6話

2006年02月16日 | 職業ドラマ
「ナースあおい」第6話をもとにシナリオを数式化してみたいと思う。

 公式は、A1+B+A2+C+A3+Dである。

 Aは物語のメインストーリー。
 今回の場合は、代議士の入院と病状悪化である。
★A1
 入院してくる代議士・葛西。実は汚職絡みのマスコミの追求から逃れるための緊急入院。身体が悪いわけではない。
 初めて担当を任されて江藤は喜ぶが、その事実に落胆する。
 しかし、過去5年間の人間ドックの血液検査を診て、血糖値が高いことに気づく。
★A2
 A1が発展する。
 葛西の接待係となっている江藤。
 馬になって葛西の孫のご機嫌をとる。
 葛西は酒を飲ませろとわがままぶりはますますひどくなる。
 わがままな葛西だが、あおいのことは気に入っている模様。(かわいいから?)
 江藤は葛西の血糖値が高いことが気になって仕方がないが、田所にも高樹にもすれ違いで話すことができない。
★A3
 A2がさらに発展する。
 酒を飲んで気管支を詰まらせる葛西。
 呼吸ができない。脈拍が下がる。
 自分に自信のない江藤だったが、あおいらに励まされて「気管送還」の施術を行い葛西の命を助ける。
 物語のクライマックスでもある。
 
 このA1~A3のメインストーリーの流れに、BとCのエピソードが入る。
 BはA3のクライマックスにいくための伏線が描かれる。
★B
 ・清天会病院グループの会議があるため、今度の日曜日は医者がいなくなる。
 ・医師の高樹も妻との離婚話があるから、日曜日は不在。
 ・病院の総士長は、江藤はいい医者の素質を持っているという。

 Cはもうひとつのクライマックス。
 今回の主役、江藤の心の葛藤が描かれる。
★C
 看護士たちにバカにされている自分に悩む江藤。
 両親、病院など、自分が医者であることなんて誰にも期待されていないことをあおいに吐露する江藤。
 あおいはそんなことはないと反論。
 江藤に言う。
「先生は人間的だと思います。患者さんのことが大事だから、江藤先生はうろたえたり不安になったりするんです。先生は優し過ぎるんですけど、わたしはそんな先生が好きです。先生の言うことに従います」 

 自分は医者に向いているのか、向いていないのか、という葛藤が描かれるのだ。
 その葛藤の結論が次のA-3で描かれるクライマックスで出されるというわけだ。

 余談だが、このシーンの後にあおいは総士長から江藤にいい医者の素質がある理由(江藤が子供の頃、祖父も父も見放した小鳥の命を救ったこと)を聞く。このことを受けて、あおいはA-3で葛西を助けられないとうろたえる江藤に言う。
「諦めないで下さい。先生はまわりが見放した小鳥を助けたんじゃないですか?!」
 やはりCで描かれたことが、A-3に活かされている。

 そしてDは結論。
 クライマックスを経て、医者として成長した江藤が描かれる。
 葛西に江藤はお面を被って言う。
「私はあなたの担当医です。あなたは脂肪肝です。お孫さんのためにもこれから政治家として立派な仕事をするためにも治して下さい」

★研究ポイント
 ドラマの数式化・構造化。
 音楽でもAメロ・Bメロ・Cメロ(サビ)で構成されている。
 恐らく人間にとって心地いい流れなのだろう。
 シナリオでもそんな公式化がなされていい。

★追記
 A-1の前には、タイトル前のアバンエピソードがあった。
 アバンで描かれたのも、江藤の家系のことと頼りなさだ。
 江藤は過呼吸の患者を前に何もできない。
 あおいに教えられて、やっと過呼吸と診断するのだ。
 江藤は「あおいママがいてくれてよかったわね~」とからかわれる。

★追記
 第6話で使用された医療用語を「あおい」HPより転載します。
このコーナーでは、毎週劇中で使用された医療用語・略語などを解説します。

・サチュレーション
 サチュレーションとは医療現場において血中酸素飽和度を意味し、サチュレーションが下がってきたら、呼吸状態が悪化していることを意味する。サチュレーションは パルスオキシメーターという、指に挟んで測る計測器を用いて簡便に測定できるため、臨床の現場において汎用される。

・弁膜症
心臓には右心房、右心室、左心房および左心室があるが、血液の流れを一方向のみに保つための弁が存在する。その弁に障害が生じた状態を弁膜症という。弁膜症の治療の主体は、薬物による内科的治療と、病気の原因である弁を外科的に治療する外科治療の大きく2つに分かれる。機能の障害を起こした弁そのものを、薬剤により治すことはできないため、薬剤を用いた内科的治療では、弁の障害による心臓の負担を軽くすることが目的となる。

・肝硬変
肝炎や脂肪肝やアルコール性肝障害などが進行して、肝細胞が破壊され、繊維化して硬くなり、機能が低下する病態。肝硬変の原因としては、脂肪肝やアルコール性肝炎、薬剤性肝障害、ウィルス性肝炎などがある。中でもB・C型ウイルス性肝炎が慢性化し、完治しない状況が続いて肝硬変へと移行することが多い。

・γ-GTP
γグルタミルトランスペプチダーゼという酵素のこと。肝臓や胆管の細胞がこわれるとγ-GTPが血液の中に流れ出てくることから、 「逸脱酵素」といわれる。γ-GTPが高くなる疾患には、肝臓の細胞が破壊される肝炎、肝臓に脂肪が蓄積する脂肪肝などがあり、胆石や胆道がんなどで胆道がつまった場合にも高くなる。健康診断のときに重要なのは脂肪肝であり、とくにアルコールを飲む中年男性の場合、アルコール多飲によるアルコール性脂肪肝が問題となる。その指標として、このγ-GTPが重要である。

・脂肪肝
肝臓、特に肝細胞の中に脂肪(主に中性脂肪)が蓄積された状態。肝臓は吸収された栄養分などから中性脂肪を作り、その一部を細胞内に蓄えているが、様々な原因によって肝細胞内に処理しきれなくなった脂肪が蓄積されると脂肪肝となる。脂肪肝自体は比較的良性な病気であるが、アルコールが原因となっている場合は慢性肝炎から肝硬変まで進むこともある(まれにアルコールを飲まない人でも肝硬変に到る場合もある)。脂肪肝の原因として、中性脂肪の原料となる脂肪や糖分・アルコールなどの摂りすぎが挙げられ、そのうち肥満とアルコールが約70%を占める。

・気管挿管
換気(肺への空気の出し入れ)が不十分な場合、口または鼻から気管までチューブを通し、気道を開通した状態に保ち(気道確保)、人工呼吸できる状態にすること。
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「ミステリーの書き方」 第1章

2006年02月15日 | エッセイ・評論
 人はなぜ書くか?
「ミステリーの書き方」(アメリカ探偵作家クラブ編・講談社文庫)では、1章を使って、様々な作家のコメントを載せている。

 まずは生活派。
エリック・アンブラー
「わたしは生活のために、自分の書けることを書く」
ジョー・ゴアズ
「れんが工がれんがを積むのと同じで。つまりは生活のためだ。しっくいの代わりに言葉を操る職人だ」

 生活するために書く。
 生活費を得る手段として、書くことが自分に適しているから書く、というスタンス。確かに自分に合ったことで、お金は稼ぎたい。また世に残る芸術作品を書くために、何もかもを犠牲にして書くというスタンスではない。
 これがプロということだ。

 しかし、生活費だけでないプラスアルファを求めていることも確かである。
 前述のゴアズはこうも述べている。
「もう少しつきつめて書けば、書きたい、伝えたい、語りたいという衝動にかられるので書いている」
 作家は自分の書きたい物があるから書いている。
 よく作家になりたいという人で、何を書きたいのかわかないという人がいる。作家という職業に憧れているだけだ。
 作家を目指す人は、自分が何を表現したいのかを常に考えていたい。

 人はなぜ書くか?こんな書きたい理由もある。

ポーリン・スミス
「作家というのはいい商売だ。タイプライターの前から一歩も動かずに、銀行を襲ったり、気に入らないやつを皆殺しにしたりして逃げおおすこともできる」
ジョー・ゴアズ
「作家はすべからく自分が読みたいと思う種類のものを書くべきだろう。どれだけの自負があろうとも、作家というのはつまるところ人を楽しませる商売なのだということを忘れてはならない」

 自分が書きたいものということにも関わってくるが、「自分の読みたいものを書く」というスタンスは、書きたいものは何かを考えている人には自分に問うてみるといいだろう。
 「エンタテインメントを書く」というスタンスも共感できる。
 シェークスピアも漱石も別に芸術作品を書きたかったわけではない。「客を喜ばせたい。笑わせたい。泣かせたい」「自分の中のもやもやしたものを形にしたい」そんなことから出発したのだと思う。

 こんな理由もある。
ディナ・ライオン
「自我を満足させるには、自分の文章が活字になったのを見るのが何よりだったから。出来の悪いハードボイルドのミステリーをたまたま手にしてわたしは思った。わたしだってもう少しましなものが書ける」
メアリー・クレイグ
「わたしは整頓マニアだし、動機を探り出さないと気が済まないし、言葉というものにも魅せられている。それに抽象的なことでも目に見える物でも、いったん引っかき回してゴチャゴチャしてから、きちんとした形にまとめあげるのが好きなのだ」
 クレイブの言っていることは、まさに創作過程そのものだ。
 心の中の混沌からひとつの秩序を作っていくのが作家。
 そうした作業が大好きな人が作家を職業として選ぶということだ。

 ミステリーを書く理由としては、次の様なものがある。
クレイトン・マシューズ
「現代の小説にはプロットがなく、形の判然としないものが多すぎる。そこへいくとミステリーには始まりと中身と結末が欠かせない」
メアリー・クレイグ
「ミステリーというのは否応なく人間というものをさらけ出す」
アーロン・マーク・スタイン
「代数の方程式やスイス製の時計風の精密な構成はミステリー以外のたいていのジャンルですたれている」
 創作とは数学的なもの。
 心の混沌を混沌のまま書いても、人に理解されない。
 この点で、ミステリーはエンタテインメントに一番適したジャンルだと言う。

 最後に作家が目指すスタンスとして、こんなコメントがあった。
ドロシー・S・ディビィス
「すこしでもいいもの、深く掘り下げてものを書こうと努力している」

★研究ポイント
 自分を含めて、何かを表現したい人に問いかけたい言葉の数々。

★追記
 何だかんだで今回で100エントリー目になりました!
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修羅の刻

2006年02月14日 | コミック・アニメ・特撮
 架空の主人公と歴史上の人物とを絡ませたいという欲求は多くの作家にあるようだ。
 「修羅の刻」(川原正敏)もそう。
 陸奥出雲は剣を使わない無手の拳法(組み打ち術)・陸奥圓明流を使って、幕末の坂本龍馬や新選組と絡む。

 坂本龍馬とはこう。
 剣は強いが、優しい龍馬は人を斬れない。
 龍馬は迷っている。
 このまま剣に生きるべきか、新しい自分の夢(自分の船を持って世界を往く)かで迷っている。
 龍馬は陸奥出雲と友だちになり、壮絶な勝負をして負ける。
 そして、剣を捨て新しい自分の夢に向かう決心をする。

 龍馬暗殺にも出雲は立ち会った。
 龍馬の力で大政奉還がなり、「振り上げた拳を降ろせなくなった」薩摩藩。薩摩は幕府を叩き伏せ、自分の実績・力を誇示したかったのである。そのため、西郷隆盛はそうではなかったが、薩摩の連中は動きまわる龍馬が面白くない。
 龍馬の友人・陸奥出雲はそんな薩摩の連中、そして幕府を消滅させたことを恨む新選組から龍馬を守ることを決意する。
 そして、薩摩の人斬り・中村半次郎と立ち会う。
 半次郎は示現流の使い手だ。
 出雲は示圧倒的な威力を持つ示現流の初太刀をかわすことなく、踏み込むと剣より速く蹴りを入れて勝つ。
 しかし、半次郎と戦っている隙に龍馬は襲われ斬られてしまう。
 出雲は新選組がやったと思い、屯所に乗り込むが下手人はそうではなかった。
 新選組を抜けた伊東甲子太郎が下手人であった。
 伊東は薩摩に取り入るため、龍馬を斬ったのだ。
 そんな伊東と出雲は油小路で戦う。
 伊東は自分の剣を振るいながら出雲に言う。
「自分の剣の前に龍馬は剣を抜くことすらできなかった」
 出雲は答える。
「龍さんの剣はもっと速かったぜ。龍さんは刀を抜けなかったのではない。抜かなかったのだ」
 そして、伊東は倒される。
 新選組が駆けつけてくる。出雲は去り、歴史上、「油小路の戦い」は新選組がやったことになる。歴史事実のつじつま合わせである。

 最後にこの物語の作者のモチーフは以下のことである。

1.坂本龍馬を描きたい。
2.示現流など様々な流派と陸奥圓明流との戦いを描きたい。
3.自分の創り出した主人公を歴史の中で活躍させたい。

★研究ポイント
 歴史上の人物と自分の主人公を絡ませるという着想。 
 格闘マンガと歴史マンガを合わせるという新しいジャンルの作品。

 出雲と新選組は次の様に絡む。
 沖田総司……病気療養の身。出雲との勝負で最期の命を燃え尽きさせる。
 土方歳三……沖田は剣の天才だが、土方は鬼。修羅場をくぐり抜けて来た悪鬼の剣。これに修羅の剣の陸奥出雲が戦う。この沖田と土方、人物対比が面白い。

★追記
 家光の時代を舞台にした「寛永御前試合篇」では様々な流派が登場する。
 ・柳生新陰流(江戸柳生・尾張柳生)
 ・小野派一刀流
 ・宝蔵院流槍術
 ・示現流(蜻蛉、満の構え)
 ・抜刀田宮流(居合い)
 ・二天一流(宮本武蔵~伊織)
 ・新当流(塚原卜伝の流れ)
 ・富田流(小太刀)

 敵となるのは、柳生の剣だ。
 同じ柳生でも十兵衛は父を批判する。
「剣禅一如などはただの方便。政治外交剣、出世のための剣。この十兵衛、権力争いなどという俗事に興味はござらぬ。興味があるのはおれより強いかもしれぬ者と仕合うことでござる」
「剣とはしょせん人を斬るものと心得ておりまする。俺はただ強いやつとやりたいだけの大ばかもの」

 この十兵衛の考え方が、寛永試合を政治の場に使おうとする柳生、天海、そして真田幸村の遺児で将軍・家光の命を狙う圓、そして陸奥圓明流の天斗らと絡み合う。

 最後に政治的な権力争い抜きで、天斗と戦うことを楽しむ十兵衛のせりふがかっこいい。
「野にはさても化け物が多い。お前のような化け物とつきあってくれるやつは俺か武蔵くらいのものだ」

 この戦いで十兵衛の片目は偽りであることが明らかにされる。
 修練を積むために眼帯をつけ、わざと片目にしていたのだ。
 だから、眼帯をとって両目が見えるようになった十兵衛は強い。
 この辺はいかにもマンガ的だ。
 結局、戦いの最中、十兵衛は指を目に突き入れられて、片目になってしまうけれど。

 戦いが終わって十兵衛は言う。
「楽しかったな。退屈になったらまた訪ねて来い」
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功名が辻 4

2006年02月13日 | 大河ドラマ・時代劇
「山内家旗揚げ」
 今回は日常のエッセイ。
 今までのようなドラマはない。

 千代はつぎはぎの着物を着て(これが千代紙の由来だとか)、50石と苦しい山内家の家計のやりくりをしている。
 新右衛門の大家族がやって来たため、米が足りないのだ。
 千代は食事を一日おきにして、町へ近江の絹の着物を売りにいく。
 夫婦袋というペアの巾着袋を路上で売る。
 そんな状況で千代は「おなかがすいたのでございます」と言って、倒れてしまう。
 そんな千代のために山へ猪狩りに行く一豊。
 そして足利義昭を奉じての京への上洛。
 千代は「丸に3つの柏紋」の山内家の旗を作って、一豊に持たせる。

 ここには、何のドラマもない。
 「一豊と千代は若い頃、お金がなく苦労していたのです。旗も手で縫った物だったのです」で語られる。
 「トリビアの泉」で扱われてもいいネタだ。

 やはりドラマは心の葛藤だ。
 以前のような美濃か尾張か、自分を育ててくれた叔父の家か一豊か、という葛藤はない。
 今回の唯一の葛藤は、千代が生活苦から叔父からもらった百両を使うか使わないかで迷う時である。叔父夫婦からは「家の大事の時に使え」「暮らし向きに使ってはいけませんよ」と言われている。そこで千代が迷う。

 この物語は千代が主人公。
 襲い来る歴史の苦難や人間どうしの葛藤は一豊の方に降りかかるであろうから、千代のドラマ要素は少なくなる。内助の功ということになるのだろうが、それでは葛藤を背負うのは一豊になる。
 今後、千代の心の葛藤がどの様に描かれるかが楽しみだ。

★研究ポイント
 エッセイの様な作品。
 事実を描いても心の葛藤がなければ、ドラマにならない。

 人物描写は見事。
 今回は「明智光秀」という存在に各人物がどうリアクションするかで描かれた。
 若い家臣たちは光秀の時代になると色めき立つ。
 秀吉も光秀の存在を手強いと思う。光秀と違う自分の出自に悩む。
 一方、一豊は動揺せずに秀吉についていくと言い切る。
 信長も光秀の説く礼法をつまらないものだと思うが、いったんは光秀の言うこと(足利義昭に)に頭を垂れる。(この頭を下げた信長の心の中には葛藤がある)

★追記
「なぜ、足利義昭を奉じる必要があるのか?」と秀吉に問われた時に、一豊は「京に上る大義名分」と答える。秀吉は「一豊も政治向きのことに通じてきたな。興味を持ってきたな」とほめるが、実は千代が一豊に教えたこと。千代は竹中半兵衛からそれを聞いて一豊に伝えていた。
 半兵衛~千代~一豊~秀吉という情報伝達、人間関係が面白い。
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24 シーズン2 第12話

2006年02月12日 | テレビドラマ(海外)
 「24」のすごい所は、特撮などを使ったすごい映像シーン、アクションシーンを使わずに「核爆弾テロ」と言った素材を描いている所だ。
 映像をよく見てみるとわかる。
 ドラマのほとんどは会話シーンで構成されている。
  ・捜査をするジャックの会話
  ・CTUでのメイスンらの会話
  ・大統領と側近たちの会話
  ・テロリストの会話
  ・ジャックの娘キンバリーの会話
 それなのに緊迫感を持っているのは、各自の抱えているテーマ・葛藤を見事に描いているからである。

 シーズン2 第12話にはこんなやりとりがある。
 テロリストのボス・アリを拘束したジャック。
 爆弾のありかを尋問する。
 しかし、アラーのために死を覚悟したアリを説得できない。
 イスラム教の司祭もアリを説得する。
「あなたはコーランの違った解釈をしている」
 だが、アリは言う。
「その議論は天国でやろう」

 ジャックは最終手段に出る。
 祖国にいるアリの家族を拘束。
 衛星回線を使って、家族がアメリカ軍に拘束された映像を見せる。
 そして爆弾のありかを言わなければ、家族をひとりずつ殺していくと脅迫するのだ。ジャックは言う。
「自分もお前の家族を殺したくない。妻を殺された俺は家族が殺されるとはどういうことかを知っている」
 葛藤するアリ。
 同時にジャックも葛藤している。
 このジャックの行動に対して大統領もリアクションする。
「子供を人質にすることなど、許すことは出来ない」
 しかし、大統領の側近は反論する。
「しかし、これは戦争案件で多くの命を救うためには、多少の犠牲は仕方がない」

 爆弾の起爆装置を運ぶ妹マリーに姉は電話をかけ説得を試みる。
 この説得にはもうひとつ意味がある。
 逆探知して、マリーの居場所を突き止めようというのだ。
 妹のマリーは言う。
「世の中を変えるには誰かが死なないといけないの」
「そんなこと、どうして?」

 人と人とがぶつかり合っている。
 ドラマは人と人とのぶつかり合いだ。

 第13話ではこんなやりとりがあった。
 本部からCTUに人がやって来る。
 テロリストに爆破されたロスのCTUが機能でているかを確認するためだ。
「本部は監督したがっているだけだ。本部のバカ共を接待している時間なんてない」
 実にかっこいいせりふだ。
 本部のシステムを使って指揮をとる様に言う本部の連中にメイソンは言う。
「本部に移動する1時間半がもったいない。それにここのシステムは復旧しています。それにシステムデータだけでは作戦を実行できません。スタッフの経験とチームワークが必要です」

 会話だけで緊迫感を出している。
 さらにメイスンは被爆して身体がボロボロの状態。彼のスーツの上着からは、膿が滲み出ている。
 それを本部の連中に悟られたら指揮権を剥奪されてしまうというサスペンスも伴う。

★研究ポイント
 派手な戦闘シーンがなくても作り出せるサスペンスドラマの作り方。
 1.盛り込む情報量を多くする。
   結果、展開も速くなる。
   この点、日本のドラマのスピードは遅い。

 2.リアリティのあるせりふを作る。
   政治絡みのせりふはリアリティを出す。
   (前述の大統領のせりふ、アリと司祭の会話など)
   また、軍事・テクノロジー絡みのせりふはリアルに聞こえる。
   例え、それが根拠のない嘘であっても緊迫感がそれをリアルに見せる。 

 例えば、こんな例。

 核爆弾が空港にあって、飛行機に積まれているのがわかった時、メイソンはこんな指示を出す。
「ユニットBEUを派遣しろ。飛行機は離陸を禁止。離陸した飛行機はF11戦闘機で打ち落とせ」

 核爆弾を積んだ飛行機のテールナンバー、格納庫を現場に伝える時は、こんなせりふを言う。
「テールナンバーはN-345。NはニューヨークのN。格納庫はMDー7。MはメキシコのM、DはデンマークのD」

 核爆弾の起爆装置を解除する時は、こんな会話。
「起爆装置を解除できません」
「内部から設定を変更しろ」
「設定を変更すると起爆が速くなる仕掛けになっています」

 ユニットBEUが実際にあるかどうかわからない。
 実際の作戦指揮で「メキシコのM」と言うのかわからない。
 設定を変更すると起爆が速くなる起爆装置があるかどうかわからない。
 しかし、作品のスピード感がリアリティを与える。

 その他、「拷問に耐えられる訓練を受けた男」や「焼えて黒こげになった紙から書いてあったことを復元するコンピュータのプロ」らが登場する。
 これもそんな奴らが本当にいるかどうかわからない。
 だが、大した疑問なく見えてしまうのは、作品のスピード・サスペンスのせいだ。
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インソムニア

2006年02月11日 | 洋画
白夜のアラスカでの殺人事件。
刑事ウィル(アル・パチーノ)と犯人フィンチ(ロビン・ウィリアムス)の葛藤が素晴らしい。

事件の概要はこうだ。
ケイという17歳の少女が撲殺される。
犯人は冷静で、ケイの身体をきれいに洗い自分の痕跡をすべて消していた。
ロスからやって来たウィルと相棒のハックは事件の捜査に乗り出し、破られた写真などから被害者ケイの交友関係、事件当夜の動きが明らかになる。
ケイは恋人のランディを親友のタニアに寝取られた。
それを責めてランディに殴られた。
容疑者としてランディが挙げられる。

だが、事件はここで複雑になって来る。
犯人を捕まえるおとり調査の最中に誤って、相棒のハックを銃で殺してしまうのだ。
濃霧の中の出来事だった。
ウィルはちょうど警察内の内務調査で過去の捜査が適切であったかどうかが問われている時期であった。ハックへの発砲が犯人追跡中のミスだったとしても、ウィルにはマイナス材料だ。
ウィルは偽装をする。
その偽装は、落ちていた犯人ものと思われる銃をウィルが偶然拾い上げたことで可能になった。
ウィルの行った偽装はこうだ。
・犯人の残した銃(38口径)を肉に発射して、弾丸を回収する。
・検死官からハックの身体に入った弾丸を受け取ると、肉から回収した38口径の弾丸とすり替える。
 これでハックは犯人の銃で撃たれて殺されたことになる。
・ウィルは被害者のバッグの中に入っていた推理小説から犯人が推理作家のフィンチであることに気づく。
・フィンチの家に忍び込み、38口径の銃を暖房の通気口の中に隠す。

これで銃が発見されれば、ハックを殺したのはフィンチになる。
少女ケイを殺したのはフィンチなのだから、ハックを殺しも被ってもらおうというわけだ。

しかし、犯人のフィンチもしたたかだった。
フィンチは霧の中でハックを殺したウィルの姿を見ていたのだ。
ウィルを呼び出し、取り引きを持ちかける。
「ケイ殺しの犯人を恋人のランディに仕立て上げよう。そうしてくれれば、おまえがハックを撃ったことを言わないでおいてやる」
既に偽装を完了していたウィルは断る。
この先、このことでフィンチに強請られるかもしれないからだ。フィンチに犯人になってもらった方がいい。
しかし、フィンチもワイルドカードを用意していた。
このふたりの会話を録画していたのだ。
おまけにフィンチは38口径の銃を通気口に隠したことにも気づいていて、既にランディの部屋に隠していた。

警察はランディの家の家宅捜索をし、30口径の銃を発見する。
これでウィルにもフィンチにも疑惑は及ばない。

しかし、ウィルは苦悩する。
実は彼は過去にも同じ様な偽装を行っていたのだ。
ある犯人を挙げるため、ウィルは証拠をでっち上げた。
被害者の血を抜き、犯人の家に忍び込むと、衣服に血を付けたのだ。
本当の犯人でないランディを自分の保身のために陥れていいのかとも思う。

真実を苦悩するウィルにフィンチは言う。
「目的は手段を正当化する。おまえの偽装がばれたら、過去の事件捜査のことも内務調査で調べられる。それで刑務所から釈放される悪党が出て来るじゃないのか?」
「このままもとの生活に戻って、クズ共を豚箱に入れろ」
「ハックを殺したのは故意じゃない。事故だ。俺もケイを殺したのは事故だった。あいつは俺を笑って、俺はケイを殴った。殴ったらあいつが倒れて死んだんだ」

 ウィルは苦悩する。
 そして、フィンチが偶然ケイを殺したのではなく、快楽を求める殺人鬼であることに気づいた時、フィンチ逮捕に向かって戦い始める。

 状況が二転三転する見事なシナリオだ。

★研究ポイント
 頭の切れる刑事と犯人の息詰まる駆け引きが面白い。
 彼らが考えて行ったことにより状況がくるくる変わる。
 ある時はウィルが有利になり、ある時はフィンチが有利になるのだ。

 白夜と不眠症に陥った刑事ウィルの描写も見事だ。
 彼は心の葛藤があるが故に眠ることが出来ない。

 葛藤の第一は、ミスであれハックを殺してしまったことで、内務調査が自分に振りになってしまうこと。
 ウィルは警察官僚を憎んでいる。
 彼は言う
「(官僚は)安全な机の上で報告書を読んでいるだけ。現場の本物の警官を酷使してその恩恵にあずかっているだけ」
 そんな警察官僚に悪を憎み戦ってきた自分が糾弾されるのが嫌なのだ。
 葛藤の第2は、無実のランディをそのままにしていいのかという葛藤。
 葛藤が発展して二段階になっているのも面白い。

 実によく出来たシナリオだ。

★追記
 地元の女刑事はハックに発射された弾丸の方向が違うことに気がついてウィルを疑う。そしてラスト、推理作家のフィンチが銃撃で殺された後にウィルに言う。
「フィンチが死んであなたがハックを殺したことを知っている人間は誰もいない。このことは黙っていましょう」
 しかし、ウィルは言う。
「道を誤るな」
 自分の罪を受け入れて、不眠症のウィルは穏やかに眠ることが出来た。
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