第十五 女人往生章
女人は五障三従とて身に障多くして佛法に入りがたき由、如来も説給へり。五障といふは、一には梵王、二には帝釈、三には魔王、四には転輪王、五には佛身、以上の五になること能はざるが故に、障と説き給へるなり。三従といふは幼時は父母に従ひ、婚しては夫に従ひ、老いては子に従ふ。このごとく一生終に其身を自由にすること能はざるの旨、龍樹菩薩も仰せられたり。されば日夜に嫉妬の妄念を恣にし、朝より夕に至るまで、念ひと念ふ程のこと、悉く輪廻の因に非ざること無く、作しと作す程のこと、皆堕獄の業に非ずと云ことなし。かく輪廻生死の業のみを造りて、佛法にはますますとおざかる女人の身も、真言教王の功徳にては罪業消滅して、ついに浄土に往生せらるるなり。是を以て興教大師は、「破戒の僧尼も必ず往生をうる、造悪の男女も定めて極楽に生ず」と述べ給へり。是故に諦信決定する時は、いかなる女人といへども、必ず有縁の浄土に往生せんこと、疑あるべからず。是蓋し真言教力の不思議にして化益甚深の致す所と厚く信じて怠りなく真言念誦相続し、往生浄土を願ふべきなり。
第十六 女人成佛章
女人成佛のことは、いずれの宗にもその沙汰あることなれど、皆女人は五障の雲深ければ其身其儘にては佛になりがたきものなりといへり。是故に釈尊出世の本懐とも云る法華経にも、龍女成佛を説給へども、猶も変成男子にてのことなり。又阿弥陀如来超世の悲願にも、同じく変成男子と建て給へり。然るを吾宗にては、一切衆生の色心の實相は、常に是れ毘盧遮那の平等智身にして皆是六大の所成なりと談ずるが故に、女人とても此平等智身、六大所成の外なければ、皆悉く成佛せらるるなり。是を以って高祖大師は「若し信修すること有れば男女を論ぜず皆その人なり。」と仰せられたり。さればいかに五障の罪深くとも、秘密灌頂の壇に入り、三平等句の法を受け、機教相応する時は、速に成佛することを得るは、独り吾密教不共の談にして他門の知らざる深趣なり。かかる不思議の深教なるが故に仮令劣慧の女人たりとも、此尊き御法を信知して、専ら光明真言を唱ふれば、往生浄土疑いなしと、安心決定致すべきなり。(続)
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