校長は垂れ下がった髪を右手でサッと直し、俺を睨んだ。
俺は、校長の迫力に押されて、ゆらゆらしたヤツの方に眼を逸らした。
“ ピョン!”
ゆらゆらしたヤツは、ソファの背あてを飛び越して、ソファの後ろに入って見えなくなった。
“ あれは、何だ・・・・?”
俺が不思議に思って首を傾げたとき、校長の灰色の声が聞こえた。
「 見たな・・・・。」
俺は、ハッとして答えた。
「 いや、見てません!」
「 何、見てない・・・・。
そ、そうか、見てないのか・・・。
うん、見てなかったのか・・・・。」
俺は思った。
“ 何が、‘見たな’だ。
誰が見ても、校長の頭の状態は分かるだろォ~。”
校長は続けた。
「 うん、そうだな・・・・。
人、それぞれ、人に知られたくないことはあるもんだ。
神谷君が掃除をサボったことは、家に知らせないでおいてやろう。
ワシは寛大な心を持っているからな。」
「 それって、スゴク、ラッキーです。」
「 そうじゃろ、そうじゃろ。
校長室であったことはすべて忘れて、真面目に生きるのだ。」
「 ハイ、そうしますです、ハイ。」
「 うん、うん。
そして、ワシのように立派な人間になるんだ。
分かったな!」
「 ハイ、分かりました。」
「 じゃ、山下先生には、ワシが指導したと言っておくから、この件は
もうお仕舞いだ。」
「 ハイ、また、明日から、勉強します。」
「 よし、帰ってよろしい!」
俺は、ゆらゆらしたヤツは何処に行ったのか気になって、校長室をキョロキョロ見回した。
“ おかしいな、何処に行ったのか・・・。
見失ってしまったな・・・。”
校長は湯飲み茶碗を見て言った。
「 あれっ、お茶が無くなっているぞ。
全部、飲んだのかな?
あ、窓を閉めなきゃ、隙間風が入って頭がす~す~する。」
校長は、窓に歩いて行った。
「 あれっ、窓は閉まってる。
風が入って来たと思ったが・・・・?」
校長は、窓の鍵を閉め直した。
☆HOMEページに戻る。
HOMEページ