日々の恐怖 3月13日 六甲山
これは20数年前、私が大阪の天六あたりをうろついていた頃の話です。
行き付けの焼き鳥屋“人生劇場”という店がありました。
そこのお客さんにA君というお客さんがいて、その彼女Bさんとの話です。
大筋は記憶してますが、詳細がうろ憶えなので、セリフなどは演出しますのでご容赦願います。
ある晩、BさんはA君のアパートに泊った。
深夜、Bさんがベッドの中で寝言を言い出した。
一緒に寝ていたA君は寝ぼけながら“こいつ何夢見てるんやろ”と思ったがそのまま朝まで寝てしまった。
朝、Bさんに、
「 なんの夢見てたん?」
と聞いたが、
「 いやあ友だちのCが出て来てな、なんか言うてんねんけど、忘れたわ。」
といってその時は仕事に出て言った。
その夜、Bさんは再びAくんの部屋へ。
「 あんなあ、Cがなー、一昨日から帰ってないんやって。」
「 行方不明なんか?」
「 わからん、彼氏もつかまらへんねん。」
あちこち電話したらしいが、家族も友人も2人の行方を知らない。
そして彼氏の自動車がない。
「 どっか旅行でもいったんかな。」
捜索願いなどは家族が出すだろうと心配しながらも、ベッドに入った。
その晩もBさんがベッドの中で寝言を言い出した。
A君は“こいつまたや”と思ったらしいが、よく聞いてみると、六甲山の○○と言っている。
そして、
「 Bちゃん・・・Bちゃん・・・。」
と自分自身の名前を呼ぶ。
不思議に思ったA君は、
「 B、B、どしたんや?六甲山がどうした?」
Bさんは目を瞑ったままゆっくりと上半身を起こし、つぶやくように言った。
「 Bちゃん、私たち六甲山のカーブの崖下にいてる。」
「 探して、助けて。」
A君は驚き、Bさんの肩をゆすって起こした。
「 B、どしたんや、Cちゃんが出てきたんか?」
目を覚ましたBさんは、
「 A君、Cちゃんが助けてくれって、車が崖の下に落ちてて2人ともフロントガラスにつっこんで・・・。」
そこまで言ってぼろぼろと泣き出した。
A君は、これはただ事ではないと感じ、いそいで深夜に実家に帰り、父親の車を借りて六甲山へ向かった。
六甲のMドライブウェーについたのは午前5時頃だったらしく、初夏と言うことですでに明るかった。
ドライブウェーといっても奥Mとか表とか裏とかいっぱいあって、特定出来ない。
仕方なく、A君の知っているルートを走ってみることにした。
A君とBさんはガードレールが壊れているところがないか、カーブにタイヤ痕がないかなど、慎重に探しながら走った。
気になるカーブでは停車し、崖の下を覗いたりしてみたがわからない。
そもそも走り屋が多い場所だからタイヤ痕や潰れたガードレールなどはいっぱいあった。
一通り走ってみたがわからない。ふたりはあきらめ、その日は仕事があるので、また今晩来ようと帰路についた。
阪神高速はすでに渋滞にかかっており、まちがいなく遅刻すると思ったA君は運転しながら遅刻の言い訳を考えていたと言う。
Bさんは寝不足もあり、Cさんの心配をしながらも渋滞の車中では睡魔に勝てなかった。
数分後、Bさんが突然、、
「 キャー!!」
といって飛び起きた。
びっくりしたA君は、その時渋滞で徐行していてよかったと言っていた。
「 もどって!、今視た!
事故の遭うた瞬間!山が迫って来る!」
A君は高速を降り、再び六甲へと向かった。
途中、勤務先に連絡し、2人ともその日は休みをとったという。
Mドライブウェーの上りをゆっくり進む。
後ろからバイクがいらつくように追い抜いて行く。
「 もうちょっと先の左カーブ。」
とBさんは言う。
左カーブで山が迫ってくるということは反対車線にはみだして壁面に激突したということか。
右カーブで崖に飛び出したものとばかり思っていたので気がつかなかったのか。
「 あああっここや!あぶない!」
とBさんは顔を手で覆い、叫んだ。
そこは急カーブではなく、緩やかな左カーブで次のカーブまで短い直線があるところだった。
スピードの乗るところで、タイヤ痕など無数にあったがガードレールは新品のように傷が少ない。
どうやら事故も多いようで、数メートルだけ最近付け替えたような白さだった。
ハザードを点滅させ、停車するとBさんは降りてカーブの出口の山側の壁面を見つめていた。
無数の接触痕があり、比較的新しいものもある。レンズやウインカーは砂のように散らばっている。
「 ここに当たって、はじかれて・・・。」
歩きながらBさんは説明する。
「 ここから落ちたんやわ。」
と憑かれたように崖を見下ろす。
そこは車を縦にしなければ通れないようなガードレールと雑木の隙間だった。
なだらかな斜面はたしかに大きな物体が通り抜けたように木々が倒れていた。
しかし車は見えない。
十数メートル先は急な崖になっており、死角になっている。
ふたりは崖下が見える場所を探そうと道を移動するが見えるところがない。
「 絶対にここや、警察呼ぼう。」
とBさんは確信を持って告げた。
ドライブウェーの入口ちかくに派出所があったそうで、そこに駆け込み、車が転落していると伝えた。
警官は現場を確認後、 レスキューに連絡し捜索が始った。
数時間後、カーブから50メールほど下に、雑木に引っ掛かったクルマを発見した。
しかし乗員がいなかった。
シートベルトの習慣がないころの事故だけに、 フロントガラスが割れ、放り出されたようだった。
ナンバー照会で持ち主はCさんの彼氏と判り、警察は家族に連絡したようだが、Cさんの家族には連絡しなかった。
その後も捜索は続けられたが、日没になり捜索活動は終了した。
A君とBさんはその夜、Cさんの家に行き、両親に経緯を話した。
俄に信じ難い話ではあるが、事実彼氏のクルマが事故っている以上、Cさんが同乗していたのはまちがいないだろうと、父親は明朝現場に行くといって嗚咽する母親とともに2人に感謝の言葉を述べた。
その夜、Bさんはひどい寒気を感じ、
「 寒い、Cが寒いっていうてる。」
といって泣きながらそのままAくんの部屋で寝てしまった。
翌日、両親、友人の願いも空しく、ふたりは遺体で発見された。
彼氏は崖を転がり、かなり下の木の枝に引っ掛かっていた。
Cさんはさらに下の小さな沢に飛ばされていて、上半身が水につかった状態で発見された。
Bさんはそれ以降、Cさんが乗り移ったような状態はないらしい。
ただ、Cさんの母親に、
「 もしまたあの子が現れるような事があれば、伝えてやって下さい。」
と手紙をあずかったそうだが、私にはどういう内容なのかは知る事は出来ない。
そして、その手紙をBさんを通じて、Cさんが読んだのかどうなのか、気になる事ではある。
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