大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 3月20日 自衛官

2014-03-20 18:17:17 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 3月20日 自衛官



 現役の自衛官の話です。
彼が言うには巷で落武者とか兵隊の幽霊を見たと言う声を聞くが、鼻で笑ってしまうと言う。
古来より、この世に未練がある者が幽霊になるのであって、覚悟を決め戦った者が死して彷徨うはずは無い。
幽霊となり泣き言を言う落武者や兵隊など、

「 ヘタレだ。」

それが彼の見解であった。
 彼は新撰組の話をしてくれた。
当時、世界最強の白兵戦集団であった新撰組。
その副長土方歳三は、腹を切らせた部下が幽霊となり墓地近隣の人々を怖がらせると言う話を聞き、

「 生きて新撰組に恥をかかせ、死しても尚、新撰組に恥をかかせるか!」

と激怒し部下の幽霊を切るつもりで刀を持って墓の前で夜を明かしたと言う。(当時、死を覚悟している武士は幽霊にならないと信じられていた。)
ちなみに、歳三に恐れをなした隊士の幽霊はそれ以後出なくなったそうだ。

 そんな彼が腹の底から恐れた体験がある。
ある日、彼は隊舎で見慣れぬ幹部自衛官に服装の着こなしについて指導された。
大した事では無かったが、その幹部自衛官は彼を指導した後、懐かしそうに隊舎を見回した後に、彼に言った。

「 ここには今、K一尉(大尉)がいるな。
ヤツと俺は同期なんだ。」

そう言い終えると、彼の目の前ですぅ~と消えてしまったと言う。
 驚いた彼は、慌ててK一尉のもとにおもむき事の次第を報告した。
K一尉は黙って彼の話を聞いた後に、彼が見た幹部自衛官の特徴を聞いた。
彼が見たままを報告したらK一尉は、

「 そうか、じゃ駄目だったのか。
しかし、何が悲しくてこんな場所に戻って来たんだ。」

 後に彼はK一尉から事の次第を聞いた。
彼が見た幹部自衛官はその時、訓練中の事故で行方不明になっていたと言うこと。
K一尉とその自衛官は自衛隊に入って最初の年で最も厳しい時期に、この隊舎で過したこと。
辛く悲しいばかりで楽しかったことなど何一つ無いのに、なぜココに帰って来たのか。
それを聞いて彼は、死してこの場に戻る先輩の幽霊に言葉に出せない恐怖を感じたと言った。
 私は質問した。
戦えば生あるモノに対して誰にも負けないであろう彼が、なぜ、そのありふれた幽霊にそれほどの恐怖を感じたのかと。
 彼は答えた。

「 今の俺なら、妻子のもとに真っ先に帰る。
だけど、あの人にとって帰る場所はあそこしか無かったんだ。
君には理解できないだろけど・・・。」












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