日々の恐怖 3月22日 狐
数年前の1月頃のことです。
いつもと同じく仕事を終えて電車に乗っていたとき、吊革を握りふと目の前の座席に座っている人に視線を向けると、周囲と雰囲気の違う男性がいました。
まだ若い人だけれど、全体的に覇気が欠けうつろな状態です。
疲れているのかな、という印象だったのですが、気になってチラチラと表情を見るとやけに眼がつりあがっていました。
“ つり眼でも、ここまでの人ってあまり見たこと無いなあ・・・。”
ただ、そう感じました。
でも、ジロジロ見るのは失礼だなと思い視線を逸らせようとしたとき、その若い男性の顔が一瞬狐の顔にかわりました。
眼がさらにつり上がり、ニヤニヤと薄気味悪い目つきで前を見ています。
そのとき、顔付きは両方の口端が目の辺りまで一気に裂け上がっているように見えました。
そして、次に男性は視線を前から上にあげ、硬直している私の目を見てニタリと笑いました。
若い男性の目付きは、狐の目付きそのものでした。
私は、あまりの気持ち悪さに、声こそは出さないものの、瞬時に後ろへ体が仰け反ってしまいました。
その直後、電車は駅に到着し、その男性は私の横をすり抜け電車から降りて行きました。
あまりのことに、気になって恐る恐る後ろを振り返ると、ホームを歩くその男性はもう人の顔に戻っていました。
あれが狐憑きといわれるものかは分かりませんが、二度と見たくないと思いました。
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