日々の恐怖 3月24日 隙間
数年前の夏休みのことです。
夜中にコンビニへ行き、いつも通る道をいつも通り歩いていると、ビルとビルの間に1mちょっとくらいの隙間があるのを発見した。
俺は、
“ こんな所に隙間あったっけ?”
と思ったが、特に気にせず通り過ぎようとしたとき、後ろから早足に歩くカッカッカッというハイヒールの音が聞こえてきた。
かなり急いでいるような足音だったため、俺は歩きながら歩道の端のほうに寄り、
“ 早く追い越してくれよ。”
と思っていると、すぐ後ろまで来たときに急に足音がビタッと止んだ。
“ 途中に曲がり角なんてないし、民家も無い場所なのにおかしいな?”
と思って後ろを何となく振り向くと、20代半ばくらいの女の人がさっきの隙間を覗き込んでいた。
俺は不審に思ったが、
“ まああの人も気になったんだろう。”
と前を向き歩き出そうとしたとき、その女の人は何の躊躇も無くビルの間の隙間の中へと歩いていった。
突然の行動に俺は流石にその隙間に興味を持ち、
“ 近道でもあるのか?”
と思い戻って隙間の中を覗いてみると、先は真っ暗で状況は見えない。
ずーっと先のほうまで真っ暗闇が続いているようにも思った。
それも、ついさっき入っていったはずの女の人の姿も見えない。
少し気持ち悪く感じた俺は、
“ まあ明日明るくなってからまた来てみれば良いか。”
と、その日はそのまま帰る事にした。
翌日、友人と出かける約束をしていた俺は、ついでだからと駅へと向かう道すがらに昨日のビルの間の隙間を確認することにした。
昨夜の記憶を頼りに探してみると、たしかに昨日と同じ場所に隙間があった。
“ まだ待ち合わせまで時間あるし。”
と思った俺は、ひとまずその隙間の中を覗いてみたのだが、おかしな事に3mくらい先にコンクリートの壁があり、どう考えてもそれ以上先へは行けるとも思えない。
壁にドアでもあるのかと思って良く見てみたが、どう見てもそんなものはない。
俺は、
“ まあ他の場所なんだろう。”
と、探すのを諦め友人との待ち合わせの場所へと向かうことにした。
その日の夜、友人達と分かれ帰り道を歩いていると、道の先のほうに10歳くらいの子供が壁の方を向いて立っている。
時間は終電ギリギリだったため夜中の1時過ぎだった。
“ こんな時間に子供?”
と思ったが、どうせDQN親が連れ出しているんだろう、とか考えながら歩いていると、その子供は壁の中へと歩いて行った。
その時気が付いた、
“ あの場所って、今日の昼間に見たすぐに行き止まりの隙間じゃないか?”
急いで子供がいた場所まで駆け寄ると、やはり昼間に確認した場所だった。
そして、シャッターの閉まった両隣のビルとその辺りの雰囲気で、昨日女の人が入って行った場所も間違いなくここだと、直感的に感じた。
しかしおかしい、昼間確認したとき、あの隙間はすぐに行き止まりだったはずだ。
“ 他に通路など無いし、どうなってるんだ?”
と疑問に思い、俺はその隙間を覗き込んでみた。
すると、やはりその先は真っ暗で見えない。
流石に中に入るのは不安だった俺は、近くにあった小石を隙間の方へと投げ込んでみた。壁があるなら、見えなくとも小石が壁に当る音がするはずなのだから。
俺が小石をエイッと投げると、カツンと言う音がして壁に当たった小石は足元に転がり出て来た。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ