日々の恐怖 3月25日 桜
今は亡くなった父方のじいさんから聞いた話です。
じいさんは子供の頃から、花見が大好きで、庭の桜が咲くのを楽しみにしていた。
桜が咲くとお母さん(俺の曾祖母)が団子を作ってくれて、家族で花見をするんだけど、当時だからお団子は御馳走で、それも楽しみだった。
じいさんが8歳くらいの頃、曾祖父が桜の木を切って、柿の木を植えようとしたことがあったのだが、じいさんがとてつもなくわんわん泣いて止めるから、じゃあ、切らずにこのままにしようと言うことになったらしい。
昭和18年の2月、じいさん24歳の時、じいさんは、あと2カ月もすれば桜が咲くと、凄く楽しみにしていたのだが、赤紙が来て出征しなければいけなくなった。
奥さん(俺のばあさんね)にも桜が見れんのは残念だなあってしきりに言ってたんだ。
それが、出征の日、家から出たら、じいさんは仰天した。
2月にも関わらず、桜の花がホンの5、6個だけど咲いていた。
「 俺のために桜が咲いてくれた。」
そう言って、じいさんは涙を流した。
後にも先にもじいさんが泣いたのはこの時だけだったから、ばあさんは凄く驚いたらしい。
そんな事があったから、戦争が終わってからも、じいさんは桜を大切にした。
もうひとつ驚いたことに、じいさんが亡くなってから2年後、桜は後を追うように枯死したってこと。
今、庭には、枯れた桜から接ぎ木した二代目の桜が毎年花を咲かせている。
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