日々の恐怖 2月22日 オカン(4)
中部とはいえ長野の真冬の夜は、外気温が氷点下になることも珍しくない。
空いてる道路を優先で道を走っていた母は、ここがそれほど車通りのない道だということを十分分かっていたそうだ。
年末の夜中、携帯は電池切れ、残り少ないガソリン。
雪国育ちなら、この不安多分わかるんじゃなかろうか。
とにかく誰かを呼ばねばならないと、クラクションを鳴らし続けてみるが反応が無い。
無いけど鳴らすしかない。
住宅街とは程遠いこともオカンは知ってたから、この時すでに涙目だったらしい。
家はまだずっと遠かった。
家族には、
「 遅くなるから。」
とだけ伝えてある。
肉屋の伯父叔母は既に帰宅して、店を閉めるのは自分になっているから、店に帰らない自分には気付かない。
幼い俺と妹と一緒に祖父祖母が眠ってしまっていたら、自分の異常に気付く人がいない。
雪降る真冬の長野で、ガソリンも食べ物もない車の中で母の身体じゃまずもたない。
そんなこと考えてるうちにガソリンは切れて、少しづつ車内が冷えて行く。
クラクションを鳴らすが、人影はないままだ。
被れるだけの布を集めて包まっても、寒くて寒くてどうしようもなくなってきて、携帯の画面は真っ暗のまんま、息だけがどんどん白くなって行く。
オカンは、
“ あぁ、私死ぬかもしれない・・・。”
と思って泣いたそうだ。
“ せめて最後に子供に会いたい、会ってごめんねを言いたい。”
と手を合わせて、母が好きでいつも初詣に行ってる諏訪大社に向けて祈ったそうだ。
そうしているうちにパトカーが向こうからやってきて、自分の名前を確認された。
「 ご家族から捜索願が出されて探していました。」
と言われた時に、ほんとに死ぬと諦めかけていたオカンは安堵と感謝で顔を覆ってパトカーでまた泣いたそうだ。
母にとっては、ほんとに怖かったと思う。
後日、お茶を飲みながら、
「 クリスマスの夜に日本の神様に祈るところがオカンっぽいな。」
って、家族そろって笑い話にできました。
神様には感謝してます。
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