大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆奇妙な恐怖小説群
☆ghanayama童話
☆写真絵画鑑賞
☆日々の出来事
☆不条理日記

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆分野を選択して、カテゴリーに入って下さい。

A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 3月13日 六甲山

2014-03-13 20:26:21 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 3月13日 六甲山



 これは20数年前、私が大阪の天六あたりをうろついていた頃の話です。
行き付けの焼き鳥屋“人生劇場”という店がありました。
そこのお客さんにA君というお客さんがいて、その彼女Bさんとの話です。
大筋は記憶してますが、詳細がうろ憶えなので、セリフなどは演出しますのでご容赦願います。

 ある晩、BさんはA君のアパートに泊った。
深夜、Bさんがベッドの中で寝言を言い出した。
一緒に寝ていたA君は寝ぼけながら“こいつ何夢見てるんやろ”と思ったがそのまま朝まで寝てしまった。
 朝、Bさんに、

「 なんの夢見てたん?」

と聞いたが、

「 いやあ友だちのCが出て来てな、なんか言うてんねんけど、忘れたわ。」

といってその時は仕事に出て言った。
 その夜、Bさんは再びAくんの部屋へ。

「 あんなあ、Cがなー、一昨日から帰ってないんやって。」
「 行方不明なんか?」
「 わからん、彼氏もつかまらへんねん。」

あちこち電話したらしいが、家族も友人も2人の行方を知らない。
そして彼氏の自動車がない。

「 どっか旅行でもいったんかな。」

捜索願いなどは家族が出すだろうと心配しながらも、ベッドに入った。
 その晩もBさんがベッドの中で寝言を言い出した。

A君は“こいつまたや”と思ったらしいが、よく聞いてみると、六甲山の○○と言っている。
そして、

「 Bちゃん・・・Bちゃん・・・。」

と自分自身の名前を呼ぶ。
不思議に思ったA君は、

「 B、B、どしたんや?六甲山がどうした?」

Bさんは目を瞑ったままゆっくりと上半身を起こし、つぶやくように言った。

「 Bちゃん、私たち六甲山のカーブの崖下にいてる。」
「 探して、助けて。」

A君は驚き、Bさんの肩をゆすって起こした。

「 B、どしたんや、Cちゃんが出てきたんか?」

目を覚ましたBさんは、

「 A君、Cちゃんが助けてくれって、車が崖の下に落ちてて2人ともフロントガラスにつっこんで・・・。」

そこまで言ってぼろぼろと泣き出した。
 A君は、これはただ事ではないと感じ、いそいで深夜に実家に帰り、父親の車を借りて六甲山へ向かった。
六甲のMドライブウェーについたのは午前5時頃だったらしく、初夏と言うことですでに明るかった。
 ドライブウェーといっても奥Mとか表とか裏とかいっぱいあって、特定出来ない。
仕方なく、A君の知っているルートを走ってみることにした。
A君とBさんはガードレールが壊れているところがないか、カーブにタイヤ痕がないかなど、慎重に探しながら走った。
気になるカーブでは停車し、崖の下を覗いたりしてみたがわからない。
 そもそも走り屋が多い場所だからタイヤ痕や潰れたガードレールなどはいっぱいあった。
一通り走ってみたがわからない。ふたりはあきらめ、その日は仕事があるので、また今晩来ようと帰路についた。
 阪神高速はすでに渋滞にかかっており、まちがいなく遅刻すると思ったA君は運転しながら遅刻の言い訳を考えていたと言う。
Bさんは寝不足もあり、Cさんの心配をしながらも渋滞の車中では睡魔に勝てなかった。
数分後、Bさんが突然、、

「 キャー!!」

といって飛び起きた。
 びっくりしたA君は、その時渋滞で徐行していてよかったと言っていた。

「 もどって!、今視た!
事故の遭うた瞬間!山が迫って来る!」

A君は高速を降り、再び六甲へと向かった。
 途中、勤務先に連絡し、2人ともその日は休みをとったという。
Mドライブウェーの上りをゆっくり進む。
後ろからバイクがいらつくように追い抜いて行く。

「 もうちょっと先の左カーブ。」

とBさんは言う。
 左カーブで山が迫ってくるということは反対車線にはみだして壁面に激突したということか。
右カーブで崖に飛び出したものとばかり思っていたので気がつかなかったのか。

「 あああっここや!あぶない!」

とBさんは顔を手で覆い、叫んだ。
 そこは急カーブではなく、緩やかな左カーブで次のカーブまで短い直線があるところだった。
スピードの乗るところで、タイヤ痕など無数にあったがガードレールは新品のように傷が少ない。
どうやら事故も多いようで、数メートルだけ最近付け替えたような白さだった。
 ハザードを点滅させ、停車するとBさんは降りてカーブの出口の山側の壁面を見つめていた。
無数の接触痕があり、比較的新しいものもある。レンズやウインカーは砂のように散らばっている。

「 ここに当たって、はじかれて・・・。」

歩きながらBさんは説明する。

「 ここから落ちたんやわ。」

と憑かれたように崖を見下ろす。
 そこは車を縦にしなければ通れないようなガードレールと雑木の隙間だった。
なだらかな斜面はたしかに大きな物体が通り抜けたように木々が倒れていた。
しかし車は見えない。
十数メートル先は急な崖になっており、死角になっている。
ふたりは崖下が見える場所を探そうと道を移動するが見えるところがない。

「 絶対にここや、警察呼ぼう。」

とBさんは確信を持って告げた。
 ドライブウェーの入口ちかくに派出所があったそうで、そこに駆け込み、車が転落していると伝えた。
警官は現場を確認後、 レスキューに連絡し捜索が始った。
 数時間後、カーブから50メールほど下に、雑木に引っ掛かったクルマを発見した。
しかし乗員がいなかった。
シートベルトの習慣がないころの事故だけに、 フロントガラスが割れ、放り出されたようだった。
 ナンバー照会で持ち主はCさんの彼氏と判り、警察は家族に連絡したようだが、Cさんの家族には連絡しなかった。
その後も捜索は続けられたが、日没になり捜索活動は終了した。
 A君とBさんはその夜、Cさんの家に行き、両親に経緯を話した。
俄に信じ難い話ではあるが、事実彼氏のクルマが事故っている以上、Cさんが同乗していたのはまちがいないだろうと、父親は明朝現場に行くといって嗚咽する母親とともに2人に感謝の言葉を述べた。
 その夜、Bさんはひどい寒気を感じ、

「 寒い、Cが寒いっていうてる。」

といって泣きながらそのままAくんの部屋で寝てしまった。
 翌日、両親、友人の願いも空しく、ふたりは遺体で発見された。
彼氏は崖を転がり、かなり下の木の枝に引っ掛かっていた。
Cさんはさらに下の小さな沢に飛ばされていて、上半身が水につかった状態で発見された。
Bさんはそれ以降、Cさんが乗り移ったような状態はないらしい。
ただ、Cさんの母親に、

「 もしまたあの子が現れるような事があれば、伝えてやって下さい。」

と手紙をあずかったそうだが、私にはどういう内容なのかは知る事は出来ない。
そして、その手紙をBさんを通じて、Cさんが読んだのかどうなのか、気になる事ではある。














童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 3月12日 日記

2014-03-12 18:37:17 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 3月12日 日記



 某TV局に務めていた父が死んだ。
遺品の整理中に父の日記を読んでいて、不可解な記述を見つけました。
この話は、当時まだ子供だった私も聞いていたと思います。
今になって、あの時の父の焦った顔と共に思い出しました。

 当時、ロケで某県に出張っていた父。
よくある旅番組で、父は当時のディレクターだった。
有名な蕎麦屋に行くにあたって、誰かが風情のある路地を見つけたので、そこを通って目的地に行くという事になった。
 進行役のタレントさんが歩く画を撮ってから、路地だけの画を撮る段階になった時の事。
カメラを回していると、短い髪に赤いロングスカートの女性が、曲がり角から出て来た。
一旦、カメラを止めようとしたら、カメラマンが言った。

「 あそこ、曲がり角ありましたっけ?」

 路地は分岐路のない直線である事を思い出して、場の全員が首を傾げていると、誰かが声を上げた。
再び路地を見ると、女性は忽然と消えていた。
幸いにもカメラを回し続けていたので、女性の消えた瞬間も映っていた。
 映像を確認すると、こちらに普通に歩いていた女性が、突然フッと上に引き寄せられる様に消える様子が映っていた。
その直前には、女性の頭上から人の形にも見えるものが、女性を両手で抱え上げようとしている様な映像もあった。
 空を見上げたが、青空に少し雲が出ているだけで何も見当たらない。
女性の出て来た曲がり角も確認したが、そこはブロック塀だった。
地元の人にも色々と話を聞いたが、その路地にまつわる話も、そういった出来事に関する話も一切知らないという事だった。

 番組自体は放送されましたが、この映像は放送されなかったそうです。
心霊特番に回される事になっていましたが、結局は放送されずじまいでお蔵入りになったと、後日の日記に書かれていました。
又、日記には、地元の人達が嘘を吐いていたとも書いてあります。
父は隠し事を見抜くのが上手かったので、何か感じたのかも知れません。










童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 3月11日 守り刀

2014-03-11 18:19:29 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 3月11日 守り刀



 俺の母方の先祖は何かしらんけど偉い坊さんだったらしい。
で、何かどえらい化け猫を退治したとき(7つ尾の猫又って言ってた)、七代先まで祟るっていう呪いかけられたらしい(ちなみに俺で6代目)。
そんなんで、祟りから逃れるためにお守りを子供に持たせるんだが、俺の爺ちゃん(母方の方な)が昔鍛冶屋やってたんだが、初の女孫で、いたく張り切って守り刀を作ってくれたらしい。
 つっても、人形に持たせるような小さいやつ。
爺ちゃんは俺をすごく大事にしてくれたんだが、方向がちょっとアレだった。
雛人形の時期に、菖蒲様の人形を送ってくれたり(俺、女なのに・・・)。

 守り刀って言うよりナイフに近い、実際、ペーパーナイフとして活躍中のそのナイフだが、先祖が合戦に行って、生きて帰ってきた時の刀を使ったらしい。
で、なんかすごいの憑いてる。
 もともと、見間違いレベルでそういうたぐいの奴はしょっちゅう見るんだけど、守り刀持ってると何故か出てこない。
京都に修学旅行に行ったとき、神社見学してたら、宮司さんに、

「 ブフォ!?すごいのに守られてますね~!」

と、なんだかよくわからないウケかたされた。


 で、何年か前に友達と四人で飲んでいたんだが、(N男、T男、A子、俺) 、N男が、

「 本当にあった呪いのビデオでも見ねぇ?」

と言い出した。
 だが、時間が時間。
田舎のTUTAYAは10時で閉まっていた。
時刻は午前0時半ぐらいなので、ビデオを借りにも行けずにいたら、T男が突然、

「 ここいらに心霊スポットあったよな?そこに行こうぜ!」

と言い始めた。
昔から、そこそこ見たりしてた俺は、

「 行くなら行くけど・・・・?」

状態。
しかし、A子は非常に怖がりで、あまり乗り気ではなかった。
 T男とN男は高校時代に格闘技をやっていて、片方は国体出場経験があった為、そっち系じゃないいわゆるDQNが出てもまぁ大丈夫だろうと思っていたし、守り刀をカバンに入れていたのもあって、大丈夫だろうと思っていた。
雰囲気的に行く感じのようだし(というか男二人が異様に乗り気だった為)、A子を説得して4人でレッツゴーした。

 で、地元では有名な心霊スポットはもともとホテルで、特段いわくがついていたわけでもないが、火事になり焼け落ちたため使用されなくなってしまい、廃墟になった所。
なぜか心霊スポットとして異様に有名になっていた、よくわからない所だった。

 で、4人で廃墟探索してたんだが、期待していたような心霊現象は特に何もなく、A子が涙目になっただけで探索終了。
良い肝試しだっただけだった。
もともといわくつきなわけではないし、最初から出ないだろうとは思っていたが、拍子抜けしてしまった。
男二人はわりかしビビっていた様子だが、その後無事に部屋まで帰った。


 しかし、その後にことが起きた。
部屋に着き、みんなで寝始めたが、コンコンという音で目が覚めた。
どうやら、窓に何かが当たっているらしい。
カーテン閉まってるし、虫だろうと思って寝直そうと思ったら、 突然、T男がしきりに、

「 来るな!来るな!」

と言い始めた。
 T男を見ると寝ている様子。

“ さては予想外にビビリだったのか・・・?”

と思っていたら、A子もなんかつぶやき始めた。
しきりに、

「 ごめんなさい、ごめんなさい。」

と何かに謝っている。
 まさかと思いN男を見ると、普通に寝ていた。
A子とT男になんか憑いてきたのか?と思い始めたら、窓が強くドンドン!と叩かれた。
内心、

「 ちょ~~~、ココ2階だけど・・・・。」

とテンション上がったが、一人だけ起きているとなんかちょっと怖くなってきたので、N男を起こすことにした。
 が、ゆすってもビンタしても一向に起きない。
窓がまたドンドン!と叩かれる。
何か窓ガラス割られたら面倒だと思い、思い切ってカーテン開けると、微妙に半泣きっぽいおっさんが外にいる。
 しかも、カーテン開けた時に微妙にびっくりした様子で、2秒ぐらい二人で見つめ合ってしまった。
何を言うでもないおっさんに、とりあえず、

「 窓壊れるから叩かないで下さい。
あと寝てるんで帰って下さい。」

って言ったら、神妙な顔をして消えていった。
と、その時N男が、

「 危なぁぁぁぁいい!」

つって俺にタックルしてきた。
何事かと聞いたら、

「 窓の外におっさんがいて、お前が窓開けておっさんを部屋に入れようとしているように見えた。」

とのこと。
いやいや、追い払ったの俺だし・・・。

 で翌朝、T男とA子が顔面蒼白にして、

「 お祓いに行こう!あそこマジヤバイとこだって!」

というので、近くの神社へお祓いに行くと、神主さんがあの例の紙のついたシャンシャンなる棒で頭のあたりワサワサして、祝詞ていうのか?わけわからんこと言って(かしこみだけは聞き取れた)お祓い終了。


 で、帰る間際に、神主さんが言うには、別に何も取り付いているわけじゃなかったとのこと。
俺の守り刀のことを話してみたら、ちょっとした神様クラスの力があって、悪霊は近寄れなかったんだろうってことと、夜のおっさんは廃墟に住み着いた奴で、悪霊ではないけれど、強すぎる力に場を乱されたので、来ないで下さいって言いに来たんだと思うよ?
あと、あなたは呪いを受けているけど、ココでは解除できないこと等を言われた。
 俺は、

「 呪いって何が起きるんです?」

と聞いては見たものの、神主さんいわく、

「 わからない。
でも、そのお守りあったら、新しく取り憑こうなんて輩はいないし安心していいよ。」

だそうで、この先安泰らしい。

 ちなみに、T男とA子は夜のおっさんに、「なんで来た~なんで来た~」と追い掛け回される夢をみたらしい。
オチなくてごめんね。














童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 3月10日 草薙剣

2014-03-10 19:57:35 | B,日々の恐怖



      日々の恐怖 3月10日 草薙剣



 先の大戦末期に機密勅令によって全国の主だった寺社でルーズベルト米大統領調伏のための儀式修法が同時一斉に行われたんだよね。
その時、高野山や東寺でも禁断の大元帥明王法が修された。
 熱田神宮に至っては政府中枢からの相当強硬な圧力により、天皇さんや大宮司でも見ることさえかなわぬ草薙神剣がついに開封され、大宮司による機密御仕の主依とされたという。
草薙剣の話については、当時の大宮司のひ孫 が、大学で同級でそいつから詳しく話を聞いたんだが、相当ヤバい話で、あまり聞きたくない話だった。
 で、結果はというと、ルーズベルト、本当に死んじゃったんだよな。
これが偶然だったのか必然だったのかはともかく、結果として神風だの本土決戦だのを本気で妄想する連中を増長させることになったのだけは確かだろう。



 で、話です。


 まず、草薙剣本体の材質について。
社伝ではかつて一度、新羅僧に盗まれ再び封印された際の剣の描写が残っているが、 再封印後、現代に至るまで御神剣は一切錆を被っていないとの伝説、あくまでも伝説があったが、六十年前にその勅儀のために封印が解かれたとき、思わぬ象で伝説の根拠が明らかになった。
つまり御神剣は錆びることのありえない素材である金のムクで、もとより剣としての実用に耐えぬ、あくまでも祭祀用の具として造られたと思われる。

 そして最も問題だったのは御神剣の形そのもの。
社伝では中空の矛のような短銅剣とされていたのだが、実際には、とても剣とは言いがたい、異様な形状の御体だったという。
喩えることのできるものがあるならば、国宝・石上神宮七支刀にやや近いというべきだったらしいが、七つに別れたその先が左右に羽根をひろげるが如く長く手を広げ、これまた、そもそもこれが剣として造られたものでないことを示していたという。
 ちなみに、後年、俺のその同級生の曽祖父(当時の大宮司)は、自らの日記の中で、御神剣が七支の形状をなしていた事実と、記紀中のヤマタノオロチより剣がいでたとの伝承を結び合わせ、ヤマタノオロチの八つの頭がそのまま草薙神剣の七支の穂先と幹の突端になったのではないか、との自説を記しているという。

 で、問題の儀式中に起きたことは、大宮司が祭文を唱えるにつれ、御体が唸り声のような重い音声をあげたかと思いきや、祭殿の左、西の方角に向けて自らいざりはじめ、そのまま震えて祭文を唱え続ける大宮司に代わって、御神剣を押しとどめようとした禰宜職が御体に触れた途端、口より青い炎を上げて体が燃え上がり、骨も残さず溶けるように一片の黒い炭になってしまったという。
 あまりのことに、神職・禰宜らが取り乱す中、何とか祭文をほふり終えた大宮司だったが、三ヶ月半後に再び同じ儀式を行うよう命が下った際には、さすがにこれを拒み続け、そのまま敗戦を迎えたという。
 なお、その時も爾後も、その大宮司の一の弟子だったのが、神社本庁・前総長だった鶴岡八幡宮の白井前宮司で、存命中の方でその儀式に立ち会っていた数少ないお人だそうなので、当時のナマの様子を聞きたい方は訪ねてみては、との友人のことばでした。

 以上が、今から13年前に、京大文学部史学科の某助教授の研究室で、そのセンセと私ほか2名の前で語られた内容の大筋です。













童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 3月9日 線路

2014-03-09 18:50:00 | B,日々の恐怖



      日々の恐怖 3月9日 線路



 以前、と言っても10年以上前の話ですが、現役バリバリの鉄チャンだった頃の実体験です。
北海道の北東地域、オホーツク海に面した街、網走から夜行列車に乗って札幌へ向かう途中でした。
 ご存じの方も多いでしょうが、タコ部屋と称する強制労働従事者により敷設された石北本線という路線があり、その中でも常呂地域と紋別地域を結び山を越える常紋峠という難所がありました。
 ここはとにかく陰惨な話には事欠かない凄いところでして、日中はそこで撮影したのですが、人気のない山の中で常に視線を感じるという思い出すのも嫌な場所でした。
ちなみに私は霊感と呼ばれる感覚が一切ありません。

 夜行列車は留辺蘂という駅で若干停車した後、峠に向かってゆっくりと高度を上げていきます。
常紋峠のクライマックスに挑む直前、最後の駅である金華駅に着いたとき、なぜだか列車が停車しました。
 ダイヤ通りで有れば通過な筈だが・・・、と思っていたら程なく発車、たまたま通りかかった車掌氏に事情を聞くと走行中ブレーキ系統に異常が出たと警告表示が付いたので運転士が停車させて点検したとのこと。
ブレーキのテストを行ったら問題無かったので発車したと答えた、しかし、この時の車掌氏、決してこっちを見ず、その上、何かに脅えている様子がはっきりと分かってしまった。
 この時点でマズイ!と思ったんだけど、顔には出さず静かに荷物をまとめて自分の寝台に潜り込みました。
その時は寝台を確保していたのですが私を含めて3人しか乗客が居なかったのです、怖いという感情が押し寄せてきて、毛布を隣の寝台から拝借し2重に被って寝てしまう努力をしました。

 やがて列車は速度を落とし、長い編成はカーブに沿って右へ左へ曲がっていきます。
エンジンの音が轟きジョイントを越えるリズムはゆっくりになっていきました。
ややあってまもなく峠の頂上か?と言うところまで来て列車が急激に減速、急ブレーキに近い状態で止まるのではないか?と思ったほどです。
 しかし列車は止まらず先頭の運転士が警笛をバンバン鳴らしながら列車は加速を再開しました。
その時は咄嗟に「あぁエゾシカでも飛び出したか」と思ったのですが、歩くような速度で坂道を上りきり頂上のトンネルへ突入したのです。
その道ではつとに有名なオカルト現象頻発トンネルの常紋トンネルへ・・・・・。

 トンネルに突入した後もなぜか運転士は警笛を鳴らし続けていました。
トンネルの中までエゾシカが?と思っていたのですが、やがて只ならぬ気配に気が付きました。
 寝台車の中が急激に生臭い・・・と言うか汗くさいというか、何とも言えない臭いで充満してきました。
そして・・・・今でも忘れられない音・・・・。
ガシャともグシャとも付かない割れた陶器を布袋に入れて床に落とすような・・・・・。
そんな音が寝台車の通路を通過していきました。
 やめればいいものを・・・そう思っても後の祭り。
警笛が響き渡り列車のエンジンが唸っている状態。
ふと毛布から頭を出してカーテンを少しだけめくって廊下を覗いてみました。
なんであんな事をしたんだろう?
本当に今でも後悔しています。
 なんであのまま毛布を被っていなかったんだろう。
そんな光景が眼前にありました。
 廊下に点々と水がこぼれていた、と言うよりハッキリ足跡状態になって続いてました。
寝台車の構造をご存じの方なら分かると思いますが寝台の中からは廊下の隅まで見る事ができません。
しかし、廊下の頭上、窓の上の部分に小さな鏡が付いているのですが、そこに写っていたのは「黒い影」でした。

 その黒い影が廊下の奥の方へすーっと消えていったんですけど、やはりガシャともグシャともつかぬ音が響いてました。
そして、その影が廊下の隅へいったとき列車はトンネルを抜けたのですが、その黒い影が何故か振り返ったように思えたのです、まるでトンネルを振り返るように・・・・です。
 本当に怖い状態になると人間身動きがとれなくなると言うのを実感しました。
やがてその黒い影がすーっと消えたのです、なんて言うのかな、フォトショップとかで画像の透明度を変更して、背景が影越しに見えるというか、そんな感じ。

 やがてほぼ消えると思った瞬間、凄い速度で・・・窓の外を流れる景色と同じ様な速度で廊下を駆け抜け・・・、と言うより横に吹っ飛んで消えたんですけど、自分の目の前を通り抜けるとき、なぜだか・・・、本当になぜだか知りませんが、その影の顔がこっちを見たような気がしたのです。
 と言うのも、まさに感覚的な物ですが、目と目があったような気がしたんです。
なんて言うのか、そう、恨みのこもったような眼差しを感じました。
それで何かもう心底怖くなって石のように固まってました。

 しばらくして我に返ったときは車掌さんが廊下から声を掛けたときです、「お客さん・・・・見ましたか?」でした。
大丈夫ですか?ではなく見ましたか?と声を掛けられました。
車掌氏は慣れた手つきで廊下の水を拭き取ってました、それって・・・・そこまで言ってから声が出なくなりました。
ふき取ったティッシュがほんのり赤かったのを見たからです。
 車掌氏はどこか遠いところを見るようにボソッと「金華で臨停するときは100%出るんですよ」と言って車掌室へ消えていきました。
その顔は青ざめきっていて、まるで人形のようでした。

 峠を越えた列車は速度を上げて坂道を下っていきますが、いつの間にか警笛は鳴らなくなっていました。
ただ、なんかいつもより速いなぁ・・・と思っていたのですが、それよりも動悸が収まらず寝台の中で小刻みに震えていました。
 やがて列車は遠軽と言う駅に到着しました、なんか喉が無性に渇いたので駅のホームの自販機で缶コーヒーを買ったのですが、ちょうどそこへ運転を終え交代した運転士さんが通りかかりました。
「峠の上でシカでもいたんですか?」と声を掛けたんですが、運転士は力無く笑って「いや、シカではなかったです」とだけ言って詰め所に入ってしまいました。

現場の運行スタッフも嫌がる常紋の恐さを体験した夜のことです。















童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 3月8日 博多人形

2014-03-08 18:56:16 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 3月8日 博多人形



 私には大好きな祖母がいました。
幼い頃から私はダメ人間で、いつも祖母に心配ばかりかけていました。

「 お前がしゃんとせな、ばあちゃん死んでも死にきれん。」

祖母の口癖でした。
 そんな祖母も、私が働きだして何年か後に亡くなりました。
その後、私は付き合っていた人に振られ、職も失い、軽い鬱状態になっていました。
どうしようもなく酷く落ち込んだ時、神様仏様じゃありませんが、

「 ばあちゃん、どうしたらいい?」

泣きながら、亡くなった祖母に問いかける事もありました。

 ある晩、私は物音で目を覚ました。

“ コトコトコトコトッ、コトコトコトコトッ・・・。”

音は下階から、猫かなにかが走り回っているようでした。
私の住んでいるのは木造の安アパート、周りの音は筒抜けです。

“ どうせ、下の人がこっそり猫でも飼っているんだろう・・。”

そう思い、再び目を閉じました。

“ コトコトコトコトッ、コトコトコトコトッ・・・。”

 いつまで経っても足音は止みません。
それどころか音は段々と大きくなり、とうとう寝ている私の頭上を右から左に走り回っているのではと思える程になりました。
 私は只ならぬ気配を感じ、恐る恐る目を開けました。
目を開けると同時に音は止まりました。
 部屋の中は街灯のせいで薄暗いながらも良く見えます。
私は目だけを動かし、先程まで音がしていた方を見ましたが何もありません。
そしてぐるりと部屋を見渡し、足元を見た途端ギョっとしました。
 誰かが布団の袖に座っていました。
若い女性、おかっぱの黒髪、子供が着るような丈の短い、白地に赤い井裄絣模様の浴衣を着ていました。
 俯き垂れ下がった横髪で顔は見えません。
こちらを見るでもなく、何か喋るでもなく、ただ正座したままじっとしています。
私は怖くなって頭から布団を被りました。

“ ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・。”

何に対して謝罪しているのかさえ分からずに、何度も何度も謝りました。
するとどこからとも無く、

“ コトコトコトコトッ、コトコトコトコトッ・・・。”

また、あの音がまた聞こえてきました。

“ コトコトコトコトッ、コトコトコトコトッ・・・。”

いつまでもいつまでも音は止みませんでした。
 それがどれくらい続いたかは分かりません。
長かった様に思えましたが、実際は短かったかもしれません。
 目を覚ました時には朝になっていました。
昨晩の事は、はっきりと覚えていたのですが、夢だった、の結論で自分を納得させました。

 それから暫くしてなんとか職に就き、久しく行っていなかった祖父母の墓参りに出かけました。
ついでと言ってはなんですが、近くに住む伯父の家も訪ねました。
 伯父は長男だったため、祖父母の仏壇があったからです。
仏壇に手を合わせた後、ふと床の間にあるガラスケースに目をやりました。
 ケースの中身は福岡の伝統工芸博多人形でした。
微笑みながら片足を上げ手毬を打つ少女。
どこにでも在りそうな人形でしたが、私が驚いたのはその装い。
おかっぱの黒髪、白地に赤い井裄絣模様の浴衣姿でした。
夢に出てきた女性と全く同じです。
 世間話の後、伯父に人形の事を聞いてみました。

「 あれは、ばあさんの家取り壊した時に納戸から出てきたったい。」

 伯父の話によれば、その昔、祖父が近所に住んでいた有名な陶師から貰ったとのこと。
当時買えば結構な値段がしたらしく、祖父母は大事にしていたようでした。

「 人形は気味が悪いけん、捨てるに捨てれんめーが。」

伯父は笑って言いました。
 私は覚えていませんが、幼い頃に見た記憶が夢に出てきたのかもしれません。
でも私は、祖母が叱りに来てくれた、そう思いました。
 帰り際、もう一度、仏壇に手を合わせました。

「 ばあちゃん、心配かけてごめんね。」












童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 3月7日 腕輪

2014-03-07 19:27:51 | B,日々の恐怖



       日々の恐怖 3月7日 腕輪



 じいちゃんの家には納屋があって ホントじいちゃんの趣味らしいのだが、骨董品がちょいちょいあった。
その中に薄汚い装飾された腕輪みたいなのがあって、なんとなく心惹かれた俺は、黙ってそれをもらっていった。
 で、いとこと海にいったとき、遊び道具セットの中にその腕輪もあって、あ 着けてみよ!って気持ちになり、祈るというか念じると、その海の潮溜まりみたいなとこで、ほんの少しだが、確実に海水が動くんだよ!
右に念じると右の水位があがり、左に念じると左の水位があがる。
もう、興奮してしまって、いとこ呼んで、見て!っていって結構遊んでた。
 で、慣れてくると どういうふうに念じればいいかわかってきて、なんか動きがスムーズになる(っつっても超がつくほどノロい)。
超能力者になった気分で夢中で遊んでた。
 でも、子供の頃だったんで、扱いもぞんざいで一ヶ月もしないうちに壊しちゃったんだよね 、古かったし。
で、そのまま海にポイっと・・・。
 その次の年の年末くらいで、じいちゃんが知らんか?って言ってたけど、じいちゃん怒ると怖いので、いとことしらばっくれた。
子供だから分からなかったんだろうけど、あの腕輪ってすっげー代物だったのではないかと思ってる。

じいちゃんごめん!











童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 3月6日 初めまして

2014-03-06 19:26:58 | B,日々の恐怖




   日々の恐怖 3月6日 初めまして

 

 うちの母方のバアちゃんの話です。
母方のジイちゃん、バアちゃんはアメリカ人で、うちの父は日本人で母はアメリカ人です。
出張でアメリカにきていた父、交際は当時むちゃくちゃ反対された。
 特にバアちゃんが、日本人だけはダメ と猛反対。
しかし、母も、そこはアメリカの女の性格、持ち前の気の強さと揺るぎない意志で、絶対一緒になる!と突っ走った。
 バアちゃんが母を往復ビンタ、絶交する!と怒鳴りちらしても母は効かなかった。母は車ぶっ飛ばして家出して一事音信不通になったりしていた。

 とうとうお金を貯めた母は父の住む日本東京へ行く日になった。
バアちゃんは、空港に見送りに一緒にいきたいと告げた。
穏やかなバアちゃんに“あれっ?”と感じつつ、空港でバアちゃんに会った。

 バアちゃんが何かを差し出した。
古くて小さい日本のお守りと、古びた写真。
母は初めてみる物だった。
 そのときは、お守りというものすら知らなかった。
無造作に中を開けた。
そこには、古くてシワシワの小さな白い紙。
米粒ひとつが入っていた。
古くてシワシワ紙を読んでみた。
日本語で『ローザ、君を愛している』と書いてあり、英語の綺麗な字でアイラブユーとあった。
 パッとバアちゃんを見ると泣いていた。
わけをきくと、バアちゃんは結婚するまえ、大昔、日本人と恋に落ちた。
写真に移っている、背の低く丸い典型的昔の眼鏡をした優しそうな日本人。
それがバアちゃんが恋に落ちた彼だった。
 しかし、戦後すぐのアメリカと日本。
戦争の傷跡からか周囲は二人の結婚に大反対。
 日本にいる彼の親も大反対。
連れ戻すため、彼の親がアメリカにきて、彼を強制的に連れ帰ってしまった。
バアちゃんは、何ヶ月か泣いて泣いて毎日を過ごした。
自殺未遂まではかった。
 そして、日本から一通の手紙が届く。
中には、そのお守りがあった。

『 ローザ、君を愛している。』

読めない日本語だったが住所も書いてあり、バアちゃんは彼への愛を確信し、彼に会いに日本へ。
 どうにかして、彼の住む家付近についた。
近くを通った人に、住所をみせ、家をきくと顔色が変わった。
つたない英語で『dead』と言われた。
 半信半疑で家についた。
生気のない母が迎えた。
彼は自殺していた。
あのお守りは、彼が厳しい両親の目をかい潜り送った彼からのメッセージだった。
あれを書いた数日後自殺した。

 彼は死んだ。
アメリカにもどり、その後の狂乱ぶりは街でも有名になるくらいバアちゃんは病んだ。
セラピーも何年も受けた。
 どうにかして彼を忘れ日本を忘れ、(暗示療法か?)ジイちゃんと結婚。

『 まさかオマエ(母)が日本人と恋に落ちるとはね。
私は○○を忘れようと、何年も必死だった。
本心は○○がいない世界なら、死にたかった。
あれから日本人とは関わらないように関わらないないようにしてた。
日本がトラウマになってたから猛反対した。
怖かったから。
悪かったね。
だけど日本人を好きになったと聞いたとき、ほんとうは嬉しかった。』

とバアちゃんが号泣しながら語ったという。
写真には幸せそうに寄り添う○○と若いバアちゃん。
不思議なのは、バアちゃんも母さんも何も知らない日本人に一瞬で恋に落ちた。
家系なのか、単なる偶然なのか。

 あと、ひとつ。
○○が日本に連れ戻される前、泣き出したバアちゃんに言った。

『 もし二人が引き裂かれて、離ればなれになっても、僕は絶対生まれ変わってでも君に会いにくる。
君がおばあちゃんになってても、僕は絶対に君に会いにくるよ。
その時は、僕はすました顔で日本語で“初めまして”って笑って、桜を見せてあげよう。
僕を忘れてもかまわない、だけど、そのときは思い出してほしい。』

 それで、母ちゃんが初めて父ちゃんをバアちゃんちに連れてきたとき、緊張しまくった父ちゃんは、散々練習した英語虚しく咄嗟に、

「 初めまして。」

って言って、桜が舞い散るスノードームのようなものをバアちゃんにプレゼントした。
誰にも話してない内容だったから、バアはむちゃくちゃビックリしたそうだ。
バアちゃん嬉しかったってさ、○○、ありがとう。













童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 3月5日 後ろ美人

2014-03-05 20:12:16 | B,日々の恐怖




      日々の恐怖 3月5日 後ろ美人




 じいちゃんの法事でのことです。
中学生1年の時、じいちゃんが死んだ。
76歳だったかな?とくに痴呆でも寝たきりでもなく、ギリギリまで元気なじいちゃんだった。
 うちの地元は盆地状に広がる小さな田舎町で、じいちゃんちは山を少し登ったとこにある。
俺と両親は町場のほうに新しい家に住んでて、じいちゃんは一人暮らし。
いざ通夜をやるって段になっても、家までの道がよろしくないのでお寺でやることになった。
 盆地の真ん中あたりにある、高台の大きなお寺。 
檀家数も多い。
建て直したばかりの寺だった。
 じいちゃんの入った棺を本堂の脇にある広い和室へ運び、通夜まで預かってくれることになった。
うちの両親や親戚何人かで一緒に泊まることになり、敷布団とか用意してもらって寛いだ。
 料理頼んで昔話して、お酒の入った親戚はもう雑魚寝ムード。
俺はすることないからお寺を探検してた。
本堂の隣の和室ゾーンに台所や物置やトイレがあり、廊下の端に扉を隔てて向こう側が住職さんの居住スペース。
和室まわりのトイレはひとつだけで、こちら側のトイレも使ってかまいません、と住職さんに言われていた。
 俺はトイレ使ったついでにちょっと見て回った。
和室からの扉を抜けると同じような廊下が続いてて、左手に住職さんの使うトイレ。
その向かいに本棚が備え付けてある。 
壁に埋め込まれた、天井まである本棚。
分厚い辞典とか、仏教関係の難しい本に混じって、一部日本庭園の写真集や、京都の寺めぐりの本なんかがある。
そういう俗っぽい本を選んで暇つぶしに立ち読みさせてもらってた。

 普段と違う雰囲気で興奮してるのか、寝付けないので長いこと座り込んで読んでた。
夜中回って親戚連中も、住職さんも全員寝てるな、って時間に「シュルシュル」と音がした。
 親戚連中が寝てる和室ゾーンの方向から聞こえる。 
本から顔をあげてふっとそっちを見た。
廊下の途中にある引き戸の扉がすぐ近くにあって、そこの向こうから聞こえる。
 その扉はつまみをくるっと回すと鍵がかかる簡易的なもので、防犯用か、あとからつけたもの。
真ん中にマンションとかにある魚眼レンズがついてて、そこから向こう側の灯りが漏れてる。
立派なものではなく、ごくごく簡易的な覗き穴で、どちらからも向こうが見える。
まだ音がシュルシュルしてるから、立ち上がってそこを覗いてみた。

 穴からまっすぐ廊下が続いてて、そこの突き当たりに本堂に入る襖がある。
そこに向かって着物を着た女性がゆっくり歩いてる。
親戚はまだみんな普段着だから、誰だか一瞬では分からなかった。
お寺の関係の人か、それとも遅れて到着したじいちゃんの知人か、何とも言えない。
 遠ざかっていく背中から、小柄で背の小さな上品なおばさんを連想した。
髪は腰くらいまであって、足首だけを動かして床を舐めるようにするすると歩いている。
それで畳とこすれて「シュルシュル」と言ってたわけだ。
俺が出て行って挨拶したほうがいいのかな、両親は起きてないのかな、と覗いてると女性が立ち止まった。

 本堂に入る襖の前で、開けもせずじっと立ち止まった。
覗き穴から見た風景だと、少し丸く歪んでいて奥行きがあり、よく状況が分からない。
腰を曲げて屈みなおし、覗いてみると女性がくるっと振り返り、こっちに向かってまた歩き出した。
 その時あれ?と思った。
着物が上の方は茶色っぽく足元は白い ちょうどグラデーションっぽい感じで品がいいなと思った。
それが正面から見ると、そのイメージが吹き飛んだ。
 着物の胸のあたりがなんだか変な模様なんだ。
帯も後ろは白かったのに前は着物と同じ茶色。
髪も腰まである清楚なロングヘアーだと思ったら、前髪は目が隠れるくらいぼさっとした感じ。
 廊下は割と明るいからこっちに向かってくるにつれて段々ディテールがはっきりしてくる。
本堂と自分の見てる扉の中間くらいに女性が来た時に、これは普通の人じゃない、と確信した。
 着物の茶色はなにか汚物をまいたみたいに汚れてる状態で、それがお腹くらいまで着物に染み込んでる。
髪はぼさぼさで、寝起きみたいに振り乱してる。
何より唇が真っ白で、着物の袂から覗く両手が冗談じゃなく青い死体が歩いてるのかとマジで思った。

 その女性が速度を変えず「シュルシュル」とこっちに向かってくる。
どうしよう、逃げるべきか誰か呼ぶべきか、それほど長い時間でもないのに恐ろしいくらい脳がフル回転した。
でも不思議とこの扉を開けてどうこう、って選択肢は絶対選ばない、と決めた。
 女性が近づいてきて前髪の間から視線が分かるかな、くらいの距離で俺は顔を上げた。
よく考えたら向こうからもこっちが見えるのだ。 
まして扉を開けられたら無防備な状態。
 気配を悟られないように、そっと指で穴を塞いで、引き戸を開かないように押さえつけた。
頼むから開けないでくれ、俺は絶対ここを動かないぞ、と息を止めた。
女性の足音が止まって、扉の前で立ち止まってる気配が伝わってくる。
いま覗き込んでたら嫌だな、と穴を塞いでる左手の人差し指に意識を持って行ったとたん、右手にぐっと力が入った。

 女性が扉に手をかけたっぽい。
やべえ、と思って力をいれなおし、ぐっと扉を押さえつける。
女性は扉を開けようと力をいれてくる。
 開ける、開けない、の押し問答をひたすら続けてると、扉から音がする。
バサ、とかザラ、とか扉に何か当たってる。 
そろそろ右手だけで抑えるのもキツいので覗き穴から左手を離し、両手で押さえると、覗き穴で黒いものがチラチラと見える。
髪が扉に当たってるんだ、と思った。
 女性が頭を振り回しながら扉を開けようと食らいついてる。
それで髪が扉に当たってバサバサと音を立ててる。
冗談じゃねえ、絶対開けるもんか、と声が出そうなくらい扉を押さえつけた。

 体感時間では15分か30分くらいだったけど、前のめりに扉を押さえてると後ろから声をかけられた。
住職さんが、

「 開きませんか?」

と様子を見に来た。
寝てたはずなのに衣をきちんと着てて、手にはタオルを何枚か抱えてる。
扉押さえたまま、

「 あえ・・・?」

とか訳の分からん返事をしたら、住職さんはすっと扉に近づいて引いた。
慌てて俺が扉から離れると、誰もいない電気の点きっぱなしの廊下が続いてた。

「 鍵が壊れてるのかな、立て付けは悪くないのだけれど・・・?」

とか住職さんが言いながら、和室側のトイレにタオルを交換に行った。
俺は呆然と立ち尽くして廊下を眺めるけど、鳥の声がチュンチュンしてて、あれ、もう朝だったのかと思った。

 起きていた親戚に聞いても、夜中は誰もこなかったと言われた。
お寺の奥さんは髪が肩より短いし、ましてや綺麗な色白の人。
あれは誰だったんだろ、やっぱり人間じゃないのかな、と一日中ぐるぐる考えてた。
 通夜が終わって、一旦住んでる家に戻り、明日の準備を済ませて親戚とご飯を食べた。
お寺にいるじいちゃんのほうには、じいちゃんの兄弟が行ってくれてて、交代で泊まるらしい。
 全然寝てないから食事もそこそこに、自分の布団で寝ようと思ったら、じいちゃんの弟が酒飲みながらぼそっと語った。

「 あいつは昔からよくモテて、色んなところで女を作っては泣かせてた。
先に逝った奥さんも苦労してた。
若い頃に遠くで作った女がここに押しかけてきて、修羅場になったことがある。
結局山の中で自殺して、身元が見つからんからこっちで墓作って埋めたんだ。」

とか言ってた
それ聞いてなんとなく、

「 じいちゃん死んでからも大変だな・・・。」

と気が重くなった。
10年くらい前の地元での話。













童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 3月4日 内線

2014-03-04 18:23:40 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 3月4日 内線



 ある夏の日の病院夜勤。
うちは看護師2名で2交代。約15~16時間病棟で拘束されます。
この日も二人で夜勤しておりました。
 22時。
消灯時間も過ぎ、病室の電気も消え、真っ暗な病棟。
非常灯の明かりだけがぼんやりと光っていました。
業務もひと段落ついたころ。

プルルルルルゥゥ・・・

内線の電話が突然なった。
不意をつかれ、あわてて受話器を取ろうとするが、すぐ切れてしまう。

「 間違い電話か・・。」

そう思って、気にもしなかった。
 23時。
巡回の時間だ。
真っ暗な病棟を懐中電灯をもって、一つ一つの病室をまわる。
みんな、よく寝ている。
とくにかわった様子はない。
 最後の部屋を回ったところで、また内線が鳴る音が聞こえてきた。
ここはナースステーションから一番遠いところ。
足早にナースステーションへ向かおうとすると、またすぐ切れてしまう。

「 またか、事務のおっさん間違えすぎだろっ!」

と苛立ちを隠せず、ナースステーションに戻ってみると、他の部署の看護婦さんがいた。
 普段から気さくで他部署の私にもよく声をかけてくれるヒトだ。
しかし、夜勤の時間帯は、他部署の看護婦が来ることはあまりない。
なにやら真剣な顔。

「 あんた、さっきうちの病棟に電話かけた?」

は?
なんですと?
いやいや、かけてないし、さっきこっちも鳴ったところッス。

「 おかしいねぇ、うちの病棟でもさっき鳴ってね。
すぐ切れるし、間違いと思ってたけどもう4回目で。
気持ち悪くて全部の部署に聞いてみたのよ・・・。」

やっぱ間違いですかね?
 普段はへらへらしている看護婦さんの顔はすこし青白くなっており、つぶやくように小声で言った。

「 どこもかけてないみたい・・・・。」

・・・・・・
・・・・
・・・

一同絶句。

どういうことだ?頭の中でいろいろ考えがめぐる。

「 えーと、それはどういうこ・・・。」

プルルルウッルルルウルゥゥゥ

言い終わるかどうかのタイミングでそれは鳴って、すぐ切れた。
 その場の空気が凍るのが肌でわかった。
そのあとは、内線が鳴ることはなかったが、病棟全体がなんともいえない雰囲気だった。

 暗闇がいつも以上に深く、そこになにかがうごめいているようにも見えた。
最後の内線は、取ろうと思えば取れたかもしれない。
けれど、取らなくてよかったのだろう。
取ってしまうと、聞かなくてはならなくなる。
誰かの声を・・・。


と、まあ、お決まりのフレーズで締めたところで、はじめはただのワン切りかよ!って思ったんですがね。
病院はいろんなことが起こる場所です。













童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 3月3日 邦楽

2014-03-03 18:14:17 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 3月3日 邦楽



 知人Fさんの話です。
Fさんは個人で左官関係の仕事をしている。
ある時、峠の休憩所に町にちなんだ壁画を貼った壁を作る、という仕事を請けた。
 休憩所といっても、屋根付きの吹きさらしベンチとトイレのみ。
辺りに民家はなく、車通りもまばら。
そんな辺鄙な場所で作業は続いた。

 仕事は順調に進み、最終日の昼前には、明日、依頼者と確認に来るだけとなった。
早終いして帰っても問題はなかったが、どうせなら散歩がてら山に入り、弁当を食べてから帰ろうと思った。
何日も通ったが、黙々と働くのみで、辺りを散策したことはなかったからだという。

 熊笹の繁る小路を暫く登っていくと、狭い平地に出た。
小さな祠があったので、簡単に挨拶をしてから弁当を食べだすと、シャンシャンシャンと、大量の鈴を鳴らすような音がした。
辺りに音の原因になるものは見当たらない。

 何とも言えない清々しい音色を聞きながら食事をしていると、鼓や笛の音まで混ざり始めた。
1時間ほどで音楽は止み、その瞬間もの凄い拍手が周囲から沸き上がったそうだ。
思わずFさんも一緒に拍手したという。

 翌日、酒を持って御礼に行くと平地に祠はなく、以前そこに祠があったことを告げる石碑のみが苔むしていたそうだ。













童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 3月2日 呪い

2014-03-02 18:55:20 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 3月2日 呪い



 神社の事務で働いていた時のことです。
わたしが勤めていた神社はとても広くて、境内を一周歩くだけでも30~40分かかる。

 夕方になって仕事の片づけや戸締まりをして歩いていた時のこと。
樹齢何百年という大木が立ち並ぶ境内の片隅に何か動くものが見えた。
よく目を凝らしてみると、それは人間のようだった。
境内は薄暗く、こんな時間にここを訪れる人はあまりいないので、その人のことが気にかかった。
 わたしは気付かないフリをしながら、通り過ぎざまにチラッ、と視線を走らせた。
すると、その人もわたしの方をジッと見ていて、バチッ、と目が合った。
 相手は女の人。
薄暗かったので年令や人相はハッキリしないが、確かに女の人が大木の後ろから顔半分だけを出してこちらを見ており、彼女はわたしと目が合うと逃げるように走り去ってしまった。
 彼女がそこで何をしていたのか興味があった。
普通の参拝客はそんな場所に入ったりしないし、こんな夕暮れに女性が一人でいるような所ではなかったからだ。

 わたしは彼女が立っていた大木の裏側に回ってみた。
するとそこには、非常に気味の悪い物があった。
大木の根元に、首の無い日本人形が一体転がっていた。
人形の胸には五寸クギが深々と刺さっている。 

“ 呪い・・・・?” 

その言葉が頭に浮かんだ。
嫌なものを見たなぁ・・・だが、神社で働いている立場上、そのまま人形をほっておく訳にもいかず、回収し焼却炉に放り込んだ。

 社務所に戻って今あった出来事を同僚に話すと、呪われるぞ、と変な顔で脅かされた。
呪をかけている所を第三者に目撃されると、呪いが成就しないのだそうだ。
わたしは笑ってすませた。
呪いなんてバカバカしい、心底そう思っていたからだ。

 それから別段、かわったことは起こらなかった。
わたしが何かにつまずいたり、物を落としたりすると、同僚達は、

「 呪いだ!」

と言ってからかったものだが、そんなのはありがちな些細な出来事。
わたしは至って健康で、事故に遭うこともなく、家族に不幸が降り掛かるなんてこともなかった。

 一ヶ月も過ぎると、わたしも周囲もすっかりあの気味の悪い出来事を忘れてしまっていた。
そんなある日、わたしは休日に散髪へ出かけた。
自宅近所の馴染みの床屋は、わたしの同級生が奥さんと二人でやっている小さな店だ。
 髪を切ってもらいながら、同級生と下らない世間話をしていた時だ。
いきなり店のドアが開いて、女の人が飛び込んできた。
彼女は順番を待つでもなく、ものすごい勢いで散髪してもらっているわたしの所までやってくると、床に散らばったわたしの髪の毛をワシ掴みに拾って、そのまま店を飛び出して行った。
 その行動は、ほんの3秒かそこらだったと思う。
わたしも同級生もその奥さんも何が起こったのか理解できずに、しばらく女の人が走り去ったドアを見つめていた。

「 最近変なヤツが多いからなぁ・・・」。

同級生がそんなことを言った。
 わたしが神社で出会った無気味な女と首無しの日本人形のを思い出したことは言うまでもない。
誰かに呪いをかける時、相手の毛髪を使うとかいう話を聞いていたからだ。
 もしかしたらあの女に呪われているかもしれない、自分が不運だったりすると、たまにそんなことを考える。















童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 3月1日 山

2014-03-01 21:15:46 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 3月1日 山



 ある北国の山あい。
鄙びた温泉宿で、僕は穴を掘っていた。
脇の木製のベンチに腰をかけて、夕闇に浮かぶ整然と美しく並んだ双子山を眺めた。

「 今日の作業は終わりか。
日没まで間もないしな。」

僕は呟いて部屋へと戻った。
 肉体労働の疲れは上質の睡眠薬をもしのぐ程、短時間で僕を眠りへ誘った。
どれ位経ったか目が覚めた。
日はとっぷり暮れている。
何気なく窓の外を眺めるが、薄闇の中に山際が茫と浮んでいるだけだった。

「 おめの命コとれせ。」※注1

不意に掠れた様な女の声が聞こえた。

「 え・・・?」

僕は耳を疑った。
目を細め声の主を探した。

「 こご掘れば、まえへんネ」※注2

今度は、はっきり聞き取ることができた。
 いつの間にか部屋には生臭い匂が充満し胸が悪くなる。
正体を確かめようと、とっさに周囲に目を走らすと部屋の出入口に人影がいた。
扉を開いた様子もなく、そのうつろな背中は消える様に見えなくなった。

「 掘ったら、殺される?」

頭が真白になった。

 この温泉宿は、僕の親戚が細々と営んできた。
それが、近年の温泉ブームに後押しされ都会からの宿泊客が増えた為、露天風呂を新設することにしたのだが、専門業者に仕事をしてもらう様な金はなく、家族で造ることにした。原泉を掘るわけではないから、素人でも何とかなるのだ。
僕は休暇がてらに手伝いを申し出て、この宿に滞在している。
 夜闇に浮ぶ双子山。
この山に纏わる伝承が幾つかある。
双子山には姉弟の山神様が住む。
ろくろ首を幾体もお供に従え、里に季節を運んでくる。
また、昔話ではこの山一体を統治した侍が、巨大なまな板の上で女房をぶつ切りにした。殺された女はその怨念を晴らすべく未だに山を彷徨っていて、里の男を惑わし死へと誘うそうだ。
こうした不気味な伝承も怯えを増徴させ、その夜、僕は何をするにも辺りの気配ばかり気にしていた。

 寝床に入った後も、僕は暫く眠れなかったが、疲労が恐怖を上回った。
不意に目が覚めた。
どうやら、僕は眠っていたらしい。

「 ドサッ。」

突然布団の上に何かが落ちてきた。
いつの間にか、部屋にはあの生臭い匂が満ちている。
雪明りを頼りに暗い部屋に目を凝らして、今起きている事の理解に努めた。
布団からは決して出ずに、落ちてきたモノを手でまさぐった。
嫌に軟らかい。
少し滑り気がある。

「 ドサッ。」

また何かが落ちてきた。

 すぐに布団から飛び出した僕の眼が捉えた者。
前腕が切れ落ちた青白い女。
布団の上に落ちた二個の肉塊。
女は無表情のまま「おめの命コ」と呟いた。
僕の頬に、冷や汗が一筋流れた。
女の体中に、赤い線が幾筋も浮かぶ。
汗が、僕の首筋から、じっとり湿った胸元に流れ込んだ。
女の体を覆う筋から、赤黒い血が糸を引いて垂れ流れる。
汗が僕のへそに行き着いたその時、女の腕が、脚が、胴体が、「ブチブチッ」と音を立てて千切れ飛んだ。
最後に残った頭部が宙に浮いたまま口を開いた。

「 こご掘れば、」

目を横切って赤い線が走る。

「 まえへんネ。」

女の顔は瞳を境にバックリと上下に切り開かれ、ぐちゃっと布団の上に転がった。
鮮烈な血の匂が鼻を突き、僕は堪えきれずに嘔吐した。
ぶつ切りの女の死体は、止め処なく血を流しうねうねと蠕動した。

「 ぎゃあっ!」

僕は大声で叫んでしまった。

 得体の知れない別の気配を感じたのは、その時だった。
床の間の辺から、室内とは思えぬ強烈な風が吹き付け、僕の髪を舞い上げた。
目を細め風の向うを見つめると、二つの幼い顔が見えた。
おかっぱ頭の無邪気な顔。
 しかし、二人の体は赤く腫れ、膨れ上がり、細い亀裂が全身を覆って、所々肉が裂け体液が噴出している。
二人は爛れた口を尖らせると、寒い冬風を吐きかけて女の肢体を吹き飛ばした。
女の残骸が断末魔の叫びと共に霧消した。
 まったく状況が掴めず、僕は呆然としていた。

「 おどさまこえしじゃた。」※注3

そう呟き、二人が僕の胸に抱きついた。
そして、すぅと消えた。

 翌日、僕は一心不乱に土を掘った。
そんなに深く掘るまでもなく、その手がかりを見つけられた。
 二体の子供の骨。
温泉宿の大婆が駆けつけた。
 婆は骨を箱に収めて、双子山に向かって手を合わせた。
里の言伝えによれば、侍が女をぶつ切りにしたのは、女が彼の実子(姉弟)を大釜で茹で殺して、銀杏の木に寄る土地に埋めたためだ。
 死体の場所は二羽の小鳥が伝えたという。
以来、姉弟は山の神となり里を守っている。
僕の掘った土地の脇には銀杏の木が佇む。
山神が僕を助けてくれた。

「 ありがとう。」

僕は双子山に手を合わせた。
二羽の小鳥が山際でいつまでも戯れていた。


(※注1:命コとれセ = 命をとるぞ)
(※注2:まえへんネ = いけない、許さない)
(※注3:こえしじゃた = 恋しかった)














童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。

-------大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ-------