前回に続いて東博の所蔵品いろいろ。江戸時代以降の作品を見てみよう。
「親指の聖母」17世紀 江戸時代
当時禁教だったキリスト教を布教しようと来日し、幕府に捕らえられた宣教師ジョヴァンニ・シドッチが持っていた絵画。この絵はイタリア・フィレンツェで活躍したルネサンス時代の画家カルロ・ドルチェの作品(すぐ近くの西洋美術館所蔵の「悲しみの聖母」)とよく似ている。
シドッチは江戸で新井白石の取り調べを受けたが、白石は彼の知識や人柄を高く評価したと伝えられている。
「能面 長霊べし見」 17世紀 江戸時代
口を閉じた鬼の面。能の「熊坂」などに使われる異相の武者を表現している。まさにくっきりはっきりの顔をした典型的な能面だ。
「八橋蒔絵螺鈿硯箱」18世紀 江戸時代
漆工作品の中でも最大の評価を得ている国宝だ。名工尾形光琳の作品。伊勢物語がモチーフで、きらきら光るカキツバタの花びらは、あわび貝を打ち欠いて張り付け、質感を見事に表現している。
「浮世絵 市川蝦蔵の竹村定之進」1794年 江戸時代
当代随一の名優と言われた役者の堂々たる風格を表現した浮世絵だ。未だにこの人物が誰なのか論争が絶えない作者、写楽の傑作。1794年5月から10か月間、140点ほどの作品を発表して突如姿を消した謎の絵師の一枚だ。
「日本の婦人像」1881年 明治時代
ヴィチェンツォ・ラグーザの作品。彼は明治初期に来日し、西洋彫刻の技法をわが国に初めて伝えたイタリアの彫刻家。
この作品は、たすき掛け、手ぬぐいを頭にかぶった当時の日本女性の姿を掘り出したもので、日本人の骨格、表情を的確に表現している。
彼は滞在中日本人女性と結婚、イタリアに帰国後は夫人(ラグーザお玉)も画家となって活躍したことでも知られる。
「老猿」1893年 明治時代
つい今まで格闘して捕らえた鷲の羽を左手に握りしめ、前方を見据えた老猿の力感と重厚さを見事に表現している。
光太郎の父として知られる高村光雲の気迫が感じられる作品だ。この作品は1893年にシカゴで開かれた万国博に出品され、優秀賞を獲得している。
「舞妓」1893年 明治時代
ヨーロッパから帰国した黒田清輝が京都を訪れた際、出会った舞妓の可憐な姿に新鮮な感動とともに描き上げた作品。川の流れの光から陰になる舞妓だが、外光派らしくその表情をしっかりと描き上げており、清新な美しさを湛えている。