新イタリアの誘惑

ヨーロッパ・イタリアを中心とした芸術、風景。時々日本。

アミアン大聖堂② キリストが、マリアが、最後の審判が、大聖堂正面の壁には満載の物語が。

2019-04-13 | フランス・アミアン

 アミアン大聖堂はロマネスク様式だった以前の聖堂が火事で焼失してしまったことを機に、1220年にゴシック様式で着工され、主要部分は1285年に完成した。
 その後西正面の2つの塔は15世紀初め、交差部の尖塔は16世紀に完成、盛期ゴシックの代表作として現在もその威容を誇っている。

 まずは外観から見て行こう。西正面には3つの扉口がある。右扉口は聖母マリアの扉口。中央にマリアが立つ。

 脇の人像円柱を見ると、順に大天使ガブリエルが聖母マリアと向かい合っている。そう、この2人の姿は受胎告知の場面だ。天使がマリアに妊娠を告げる劇的なシーン。

 その横も似たような形だが、これは妊娠を告げられたマリアがエリザベートを訪問するところ。
 その他にもソロモン、シバの女王など旧約聖書の人びとが並ぶ。

 中央の扉口は救世主キリストの扉口。美しき神と称されるキリスト像が中央にある。

 そして左扉口は初代アミアン大司教である聖フィルマンの扉口だ。通常はこの扉口が開いており、ここから中に入る。

 中央扉口の上を見上げてみよう。ここに描かれるのは「最後の審判」。

 真ん中にカッと目を見開いたキリストがにらんでいる。広げた手には処刑の時に受けた傷跡があり、血まで流れている。とても恐ろしい!
 まさにここでキリストが下す判定で天国か地獄かが決まってしまう場所だ。

 そのアシストをしているのが、下中央に見える大天使ミカエル。秤を持って徳の重さをはかっている。
ああ、そんなもの計られたら私なんか即刻地獄だなあ。
 2層目の人びとはよく見ると、中央から左側は着衣姿なのに、右側は裸。天国と地獄で待遇が完全に別れている。
 面白いのは、ミカエルの持つ秤は天国側に重く傾いているが、右下にいるちっちゃな悪魔は地獄側に傾けようと下から引っ張っている。こんなユーモラスな像のある所も、当時の職人のウイットが感じられて滑稽だ。

 気を取り直して、さらに上を見上げた。ずらり並ぶ人物像。ここは諸王のギャラリーと呼ばれ、22人の王冠をかぶった王たちが揃っている。盛期ゴシック建築の1つのテーマとなる形だ。
 さらに上にはフランボワイアン様式のバラ窓。

 また、南扉口に周ると、こちらにもバラ窓の付いた高いファザードがある。

 扉中央には聖母子像。優しく幼子キリストを抱くこちらの聖母の方が柔和でほほえましい感じだ。

 このように外壁全体には約4000人もの聖書にまつわる像が彫り込まれており、まさに「石の百科全書」と呼ばれている。
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アミアン大聖堂① ゴシック建築の粋を見上げる。「これほど美しい大聖堂を見ることは、何という喜びだろうか」(ロダン) 

2019-04-09 | フランス・アミアン

 パリを出発してアミアンにやってきた。7年ぶりのことだ。

 初めて目にしたアミアン大聖堂は後陣の姿だった。まるで無数の刃の切っ先を突き立てたようなその姿に威圧感を感じつつ、

 中心部に突出した高さ112mの尖塔を仰ぎ見て、西に進むと、

 ようやく西正面の雄大な全体像にたどり着く。

 この大聖堂は、ロマネスク様式だった以前の聖堂が火事で焼失してしまったのを機に、1220年にゴシック様式で着工された。
 ちょうどこの時期はパリ・サンドニの聖堂を始めとして続々と新様式ゴシックの大聖堂がシャルトルやランスに立ち始めていた。

 従来のロマネスク様式の聖堂は、とても厚い壁で造られた。それは、石で造られた天井の重みを支えるにはそれだけの頑丈な壁が必要となり、強度を損なってしまう窓も小さめにしか設置できなかった。

 その問題を解決したのが、フライングバットレスという手法だった。
 ヴォルトと呼ばれるこうした天井は、石の重みを外に広げ、壁を押し倒そうとする強い力が働く。

その力を受け止めるために、外壁に新たな「控え壁」を設けて天井からの圧力を解放するという「フライングバットレス方式」が編みだされた。
 これによって、聖堂はよりスマートに、より高く、という願いを実現することが可能となった。

 さらに、大きな窓が造れるということは、ステンドグラスという新たな芸術の展開を可能にした。

 天にも届け! 天からの光よ 堂内にも差し込め!

 神との距離を縮めてしまうようなゴシックの大聖堂が、中世のヨーロッパに次々と建ち始めた。
 (もちろんそれは人間の欲望、虚栄心のなせる業でもあったのだが・・・)
 そんな中でも最も雄大で最も華麗といわれるのが、アミアンの大聖堂だ。

 青空の下でも美しいフォルムは実感できるが、夕焼けの時間になると、一層輝きを増してくる。

 見上げる姿は迫力満点。さらに石とは思えぬ軽やかさも感じ取れる。

 そして夜。ライトアップされたファザードは、濃い青の夜空を従えてくっきりと浮かび上がる。

 建物というより芸術作品だ。

 「この大聖堂は讃迎すべき女性である。聖母である。これほどに美しい大聖堂を再び見ることは、芸術家にとって何という喜びだろうか!」彫刻家ロダンがアミアン大聖堂を前にして語った言葉だ。

 最後にもう1枚。プロジェクションマッピングによって仮想復元された、建設当初のあでやかな色彩に彩られた大聖堂を。

 この連載中に改めてマッピングの模様を特集する予定です。


 

 
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パリを歩く⑭ モンパルナス墓地はまるでアートの展示場。変わったニャンコたちも。

2019-04-05 | パリ・街歩き

 モンパルナス墓地は著名人の墓を訪ねることの他に、面白い、変わった墓を見つける楽しみもあった。この墓は陶製の巨大ネコ!?

 こちらは入らな墓石の上にちょこんと子猫ちゃんが座っている。

 と思えば、墓石にステンドグラスをはめ込んだ異色の墓標。

 一方でアーティスティックなものもいろいろあった。こちらは手のモニュメント。祈りのポーズを表現しているのかも。

 磔刑されたキリスト像?

 沢山の勲章が並べられた墓。生前は相当のお偉い方だったのだろう。

 シルビア・ロペスさんの墓。女優さんだったのかも・・・。

 この墓にも笑顔の女性の写真が添えられていた。


 こちらは元は競馬の旗手だったのだろうか。

 これはキリストの死を悲しむ「ピエタ」像。

 これは何だろうか。まさに前衛的な作品。

 対してこちらはひっそりとたたずむ清楚な女性像。

 祈りをささげる像も。後方にはモンパルナスタワーがそびえている。

 白いドレスを着たダンサーのような像だ。

 こちらも女性像。少し悲しみを湛えたような姿に見える。

 とにかくいろいろな像やモニュメントがちりばめられた、まるでアートの展示会のような空間でもあった。そんな感想を抱いて墓地の外に出ると、これもまたアーティスティックな建物が目の前に。

 そして、改めて直立するモンパルナスタワーがドーンと目前に迫っていた。

 さあ、パリを後にして次は中世の大聖堂が待つアミアンへ出発だ。


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パリを歩く⑬ サルトルからゲンズブール、ボードレールまで。墓地なのに華やかな場所になっていたモンパルナス墓地

2019-04-02 | パリ・街歩き

 パリ出発日の朝、電車の時間まで時間があったので思い立ってモンパルナス墓地に行ってみた。

 入ってすぐのところにあったのが、あの哲学者ジャン・ポール・サルトルとボーヴォワールの墓。実存主義の第一人者出あり、「嘔吐」などの著書を持つサルトルと、「第二の性」で知られ、女性解放運動の草分けであるボーヴォワールはお互いを認め合う仲。ボーヴォワールの故郷であるモンパルナスに住み、近くのカフェで語り、作品を記す姿がよく見られたという。

 ‟信者”も多く、この日も花束が添えられていた。

 これはジーンセバーグの墓。ハリウッドスターだったセバーグは「悲しみよこんにちは」でセシルカットというショートヘアで颯爽と登場した。その髪型は大流行したことでも知られる。その後も「勝手にしやがれ」の主演などで活躍したが、後年うつ病にかかり40歳で自死するという悲劇的な最期を遂げた。

 花束の前には彼女自身の明るい笑顔の写真が備えられていて、ほっとする気持ちにさせられた。

 こちらはセルジュ・ゲンズブールの墓。歌手、作詞作曲家、俳優とマルチな活躍でフランス女性を虜にしたスーパースター。ジェーン・バーキンと事実婚をし、ブリジッド・バルドーとの付き合いも話題になった。

 ここには何枚ものポートレート額入りで飾られ、相変わらずの人気ぶりだ。

 数年前に彼の自宅前を通った時、家の壁が沢山の落書きで埋め尽くされていたことを思い出す。

 マンレイの墓。画家、写真家、彫刻家の顔を持つ、シュールレアリスムの旗手。以前彼がアトリエにしていたビルを訪れたことがある。何度か結婚、恋愛を繰り返したが、今は最後の妻となったジュリエット・ブラウナーと一緒の墓に入っていた。

 あちこち探してやっと見つけたボードレールの墓。通路と面しておらず、横向きに墓が立っており、わりと地味な造りになっていた。

 墓碑には口紅のような赤い印がついている。

 供えられていた見事な花束。

 ようやく青空が広がり、心地よい空気が周囲を包み始めてきた。

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