最近、マレーシアのニュースによく登場するSDC。今は亡き、Sipadan Dive Centre?ではなく、「Sabah Developement Corridor」という、政府主導のサバ州開発プログラムの略称で、本日めでたくスタートしたらしい。(SDCで、こんな景色がシドニー化する!
SDCは、サバとマレーシアの他の州との間の経済格差の縮小や、所得水準の向上をめざし、農業、観光業、製造業をメインに、各産業でのさまざまな開発計画が発表されている。ニュースや新聞によれば、総予算160億リンギット(1リンギット=3.8USドル)のSDCは、すべてのサバハンにその恩恵をもたらす素敵なプランらしい。日本の政治経済のこともわからないのに、マレーシアの政治経済のことはもっとわからないが、サバ州を訪れる私たちにかかわってくる観光業での開発を強力におしすすめるようなので、ほ~っとけない、なおせっかいな気持ち・・・。これでサバの様子も変わっていきそうだ。
まずSDCには、15か年計画の、KKウォーター・フロント・プロジェクトがある。これは市と民間の開発業者によるジョイントベンチャーで、ひとつはショッピングモール併設の6ツ星ホテル建築構想。空港方面から見て、町のはじまりにあたる、ウィスマ・ワワサンのロータリーから、町の終わりの手前、ウィスマ・ムルデカまでの約2キロにわたるエリアの開発で、プロムネード・ホテルとマリーナ・コートの前に、ホテルを建て、道はボードウォークの遊歩道にするというもの。もうひとつは、タンジュンアルからのKKまわりの海を、シドニー湾クラスのハーバーにするという、ずいぶんとスケールの大きなプランだ。私からみれば、6ツ星ホテルというのは、日本橋のマンダリンが世界初ということくらいしか知らず、中に入ると気恥ずかしくなりそうなイメージ、ボードウォークはアメリカのビーチな感じだし、素朴なサビ海が、いかにも作られた感じのシドニー湾をめざす、というのもしっくりこない。
また、SDCとは別に、コタキナバル国際空港も、5月には新ターミナルビルがオープンする。従来の倍以上の大きさのターミナルに、滑走路が800メートルほど長くなり、扱える便数や機材の種類が飛躍的に増える見込みだ。これでますます多くの人々が、サバ州を訪れるようになるわけだ。10年前には、連休でもなんでもない時期に日本からの直行便でKKに着くと、ターンテーブルで荷物待ちの人は10人もおらず、それも登山者かダイバーがほとんどだった頃を思うと、そんなに来られても、って思うのが、人情。だって、サバ州の誇るシパダンもキナバル山も、1日に入れる人数には限りがあるのに・・・。もちろんスカウの川下りや、ゴマントン洞窟、タートルアイランド、セピロクなど他にもサバ州にはいろいろなデスティネーションがあるが、どこも混み混みになって、予約がとりにくくなったり、値上がりをしたら、国の観光収入的にはプラスでも、訪れる側の都合としては、マイナスだ。現在の空港は確かにダサく、流れの悪いトイレに「空港税返せ~」と思うのはいつものことで、もちろん不満はある。でも、ゲートが6つか7つしかないという横移動の楽さは気に入っているし、小さいならではのよさがあるものなのだ。新ターミナルに期待することは、トイレがちゃんと流れること、今度はシャワー施設がありますように、くらいだ。
そして、観光客の増加で、新たにリッチな層をターゲットに、クンダサン(キナバル国立公園の近く)エリアに、フォーシーズンズ・ホテルやリッツ、シャングリラにブルガリといった、隠れ家系豪華リゾートを誘致したい、というような新聞記事も出ていた。浮き世離れした隠れ家リゾートに関心がないと言ったら嘘になるし、ショッピングモールができれば、私は確実に冷やかすだろう。でも、そもそもボルネオを旅行先に選ぶ人は、海であれ、山であれ、ジャングルであれ、なんらか自然との触れ合いを求めてやって来るワイルドライフ志向の人が主流だろうから、超豪華リゾートや、旅先でのシティライフを求めたり、ブランド品を買いあさる人はあまりいないんじゃないかと思うが・・・。供給されれば需要も生まれるのかなあ。
KKはボルネオ島の玄関口だけあって、昔からビーチにはシャングリラ、町にはハイヤットといった一流ホテルがあり、町の中心には、大型ショッピングセンターや映画館もある、きちんと栄えた町だった。いかにも東南アジアといった混沌とした雰囲気もないし、センター・ポイントの前で、日本人ダイバーが、集団スリに囲まれて財布をとられた、という話は聞いたことがあるが、町は、夜間でもおおむね安心して歩ける。(ただ夜10時をまわると、人影も、車もまばらになる。)KKの適度な田舎ぶりと、どこか懐かしさを感じる、緑あふれる街並みが好きだが、どんどん開発されてきた。水上集落のあった海は、埋め立てられ、マジュラン・ストゥラ・ハーバー・リゾートがたった。地方はさておき、KKについては、今のままで十分と思えるが、こんどの開発で、見慣れた海辺の眺めは、さらに変わってしまうことだろう。
96年、KK郊外に住む、日本人とまだあまり接したことのない、サバハンのダイブマスターから、「君の住んでいるところは、ヴィレッジなの?タウンなの?」と聞かれたことがある。東京の、メトロポリスという概念は、もちろん彼にはなかったようだ。「僕のヴィレッジも、3年後には、町になるよ。」と嬉しそうに言っていた。それから早、干支も一周してしまったが、KK郊外は、今もってヴィレッジ。街中には、これまでも、新ホテルや新ショッピング・センターがどんどんオープンしてきたが、車で町の中心を出れば、昔とあまり変わってはいなさそうだ。住宅も多いピナンパンエリアは、草ぼうぼうの空き地もあるし、夜は薄ぼんやりとした灯り。マンタナニ・アイランドに向かうとき、コタブルという小さな町をめざすが、その道中は今も牛さんたちが道端を奔放に歩き、時には車道のど真ん中ですわりこんで、ぷち渋滞を起こしたりもしている。
こうした都市部以外のエリアや、東海岸のタワウやセンポルナの開発もプロミスとあった。東海岸側は豊かな自然に恵まれており、エコツーリズムを、これまで以上に強力に展開したいらしい。ツーリズムの開発に力を入れるなら、ツーリストが快適に旅行できるように、センポルナあたりの治安の強化に力を入れてほしい。シパダンエリアは、今でこそ監視されており、アブサヤフの誘拐事件以後、ずっと安全な感じにはなり、昔のように、夜、「海賊が来た~!」って、リゾートの灯りを全部落としたり、っていうスリリングな経験はしなくてすむようにはなっているが・・・。カパライや、ラヤンラヤンでは、時に常駐しているミリタリーで、挙動の怪しいのもいる。
以上、延々と、外国人が、勝手にサバ州の変化についていけなさそう、という独り言になってしまった。SDCは地元経済の活性化のため、すべてはサバハンのためのプランというのはわかっている。それでも、古き良きものが消えゆくかもしれないさびしさと、環境へのインパクトがゼロのはずがない、という、心配な気持ちだ。SDCは、環境には十分配慮し、埋め立ては行わず、自然やサバの文化を損なうことは決してない、ということを強調してはいるが、現に空港拡張で、沢山の木が切り倒されていたし。前向きに考えれば、ツーリズムが発展すれば、雇用機会の増大につながるわけだから、SDCが成功し、サバが潤えば、自然と町も明るくなり、旅行をしても、楽しいだろう。SDCは2025年まで続くので、すべてが完了するのはまだまだ先の話。とにかく、自然環境はそのままで、サバ州らしさをどうか失いませんように。