20180605
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>言葉は生々流転(3)ロートルとバッテラ
日本語教授法受講者に「日本語基礎のつかみ」として出す語彙クイズ。この欄の読者には、毎度おなじみのクイズですが、毎年学生は変わるから、毎年出題。
1.次のセット中から、和語(漢字が伝わる以前から日本語であった語のセット番号を選びなさい。
1)久羅下(くらげ)猿、犬 2)馬、梅 3)歌留多、煙草、麺麭 4)拉麺、餃子、焼売
答え)1)が和語、2)中国語ぅマー、ぅメイから7~8世紀に伝来 3)は、ポルトガル語から1500年代末に伝来。かるた、たばこ、ぱん 4)中国語から江戸時代以降に伝来。ラーメン、ギョウザ、シューマイ
2.次のセットの中から英語圏で通用する語を選びなさい。
1)マンション、アイドル、タレント 2)ミシン、テレビ、パソコン、フリマ 3)セロテープ、ホッチキス、バリカン 4)デイケアセンター、スキンケア、ガソリンスタンド、アフターサービス、キーホルダー
答え)どれも通用しない。
1)は、日本では英語の本来の意味とは異なる使い方をされている外来語。マンション=大邸宅→大型集合住宅。アイドル=偶像・崇拝の対象→若くて人気のある芸能人。タレント=才能→テレビなどで活躍する芸能人。
2)ソーイングマシンのマシンのなまりミシン。テレビジョンの後半省略。パーソナルコンピューターの省略。フリーマーケット蚤の市の省略。(自由市場ではない)の省略
3)セロテープ商品名が一般名詞化 ホッチキスとバリカンはもともとはその商品を売り出した会社名
4)英語の一部を組み合わせて日本で作られた和製英語
外来語や和製英語はカタカナで表記します。日本語学習者には、どれが外来語でどれが和語なんだか区別はつきませんから、一語一語、カタカナで書くのか、漢字かな交じり標記なのか、ひらがななのか、覚えていかなければなりません。
「きほるだのかきは前ぶオナジです。どあはあきませでした」という表記の作文になるのも表記指導をしっかり受けていない日本語学習者にはままあることです。
さて、教師はしっかりと「和語漢語外来語和製英語の区別がついている」と、自信をもって教えていたのですが、司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズのどの本だったっけの中に(巻名忘れた)私が英語その他西欧語からの外来語だと思っていた語の由来が書いてありました。
「ロートル」。
古臭いことを言うしか能のない年寄り世代、というようなニュアンスで使っていました。私が見た文章の中ではどれもカタカナ表記であったので、西欧語由来と思い込んでいまいした。
もともとは中国語でした。年寄り・老人という意味の老頭児(簡体字:老头儿、拼音:lǎotóur)
カタカナで書いてあるから西欧由来と思い込んでいた語、元は漢語だった、と、『街道をゆく』の中に書かれてあるのを見るまで気づきませんでした。
今はロートルという語自体が「古くさい語」「老人語」の扱いなので、日常で使うことはなくなりました。われらの世代にとっては、若い世代を表す新しい語であった「ハイティーン」が和製英語であって、英語圏では伝わらないし、イマドキの若者は使わない語である、というのと同じく、ロートルも、老人世代にしか通じない語ですけれど、今頃語源がわかりました。
もうひとつ、今頃語源がわかった語。バッテラ。私の好きなサバの押しずしです。
江戸時代には、酢飯に魚をのせて握る江戸前寿司が大人気になりましたが、大阪では飯の上に魚をのせて押す「押しずし」が主流。
バッテラ、初期はサバではなく、コノシロをのせていました。(こはだが成長したあとの名がコノシロ)。しっぽをぴんとさせて形作ると、小舟のような形になります。ポルトガル語のバッテイラbateilaは、小型の船のことでした。バッテイラの形になったことから、バッテラが呼び名として定着。コノシロの大漁期が終わって、サバが主流となりました。

語源には、民間語源といって、テキトーなこじつけも多いのです。「ねずみをとる子ゆえネコという」というたぐいのこじつけ語源も多いので、要注意。
春庭が参照した「語源の日本語帳」は岩淵匡が監修しているので、一応バッテイラも信用する。
「わかった!」と脳が感じれば、ロートル世代の脳細胞が若返る。
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>言葉は生々流転(3)ロートルとバッテラ
日本語教授法受講者に「日本語基礎のつかみ」として出す語彙クイズ。この欄の読者には、毎度おなじみのクイズですが、毎年学生は変わるから、毎年出題。
1.次のセット中から、和語(漢字が伝わる以前から日本語であった語のセット番号を選びなさい。
1)久羅下(くらげ)猿、犬 2)馬、梅 3)歌留多、煙草、麺麭 4)拉麺、餃子、焼売
答え)1)が和語、2)中国語ぅマー、ぅメイから7~8世紀に伝来 3)は、ポルトガル語から1500年代末に伝来。かるた、たばこ、ぱん 4)中国語から江戸時代以降に伝来。ラーメン、ギョウザ、シューマイ
2.次のセットの中から英語圏で通用する語を選びなさい。
1)マンション、アイドル、タレント 2)ミシン、テレビ、パソコン、フリマ 3)セロテープ、ホッチキス、バリカン 4)デイケアセンター、スキンケア、ガソリンスタンド、アフターサービス、キーホルダー
答え)どれも通用しない。
1)は、日本では英語の本来の意味とは異なる使い方をされている外来語。マンション=大邸宅→大型集合住宅。アイドル=偶像・崇拝の対象→若くて人気のある芸能人。タレント=才能→テレビなどで活躍する芸能人。
2)ソーイングマシンのマシンのなまりミシン。テレビジョンの後半省略。パーソナルコンピューターの省略。フリーマーケット蚤の市の省略。(自由市場ではない)の省略
3)セロテープ商品名が一般名詞化 ホッチキスとバリカンはもともとはその商品を売り出した会社名
4)英語の一部を組み合わせて日本で作られた和製英語
外来語や和製英語はカタカナで表記します。日本語学習者には、どれが外来語でどれが和語なんだか区別はつきませんから、一語一語、カタカナで書くのか、漢字かな交じり標記なのか、ひらがななのか、覚えていかなければなりません。
「きほるだのかきは前ぶオナジです。どあはあきませでした」という表記の作文になるのも表記指導をしっかり受けていない日本語学習者にはままあることです。
さて、教師はしっかりと「和語漢語外来語和製英語の区別がついている」と、自信をもって教えていたのですが、司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズのどの本だったっけの中に(巻名忘れた)私が英語その他西欧語からの外来語だと思っていた語の由来が書いてありました。
「ロートル」。
古臭いことを言うしか能のない年寄り世代、というようなニュアンスで使っていました。私が見た文章の中ではどれもカタカナ表記であったので、西欧語由来と思い込んでいまいした。
もともとは中国語でした。年寄り・老人という意味の老頭児(簡体字:老头儿、拼音:lǎotóur)
カタカナで書いてあるから西欧由来と思い込んでいた語、元は漢語だった、と、『街道をゆく』の中に書かれてあるのを見るまで気づきませんでした。
今はロートルという語自体が「古くさい語」「老人語」の扱いなので、日常で使うことはなくなりました。われらの世代にとっては、若い世代を表す新しい語であった「ハイティーン」が和製英語であって、英語圏では伝わらないし、イマドキの若者は使わない語である、というのと同じく、ロートルも、老人世代にしか通じない語ですけれど、今頃語源がわかりました。
もうひとつ、今頃語源がわかった語。バッテラ。私の好きなサバの押しずしです。
江戸時代には、酢飯に魚をのせて握る江戸前寿司が大人気になりましたが、大阪では飯の上に魚をのせて押す「押しずし」が主流。
バッテラ、初期はサバではなく、コノシロをのせていました。(こはだが成長したあとの名がコノシロ)。しっぽをぴんとさせて形作ると、小舟のような形になります。ポルトガル語のバッテイラbateilaは、小型の船のことでした。バッテイラの形になったことから、バッテラが呼び名として定着。コノシロの大漁期が終わって、サバが主流となりました。

語源には、民間語源といって、テキトーなこじつけも多いのです。「ねずみをとる子ゆえネコという」というたぐいのこじつけ語源も多いので、要注意。
春庭が参照した「語源の日本語帳」は岩淵匡が監修しているので、一応バッテイラも信用する。
「わかった!」と脳が感じれば、ロートル世代の脳細胞が若返る。
<つづく>