ドル/円の上昇が加速してきた。明確な買い材料が見当たらず、半信半疑な市場参加者も多い。しかし、相次ぐ節目突破でマネーフローに変化が生じ、目立った円安けん制発言がない中で、追随のドル買いがさらに水準を押し上げる展開となっている。
<売り材料なく「追随せざるを得ない」>
「これはけん制になっていない。マイン(買い)だ」──。前日の海外時間に続いて東京市場でもドルが124円を試そうとじり高となっていた28日正午前、菅義偉官房長官がドル高/円安進行について「急激な為替相場の変動は望ましくない。引き続き注視する」と語ったが、市場のドル買い心理を止める働きは全く見えなかった。
政府からの強いけん制発言を警戒していた市場関係者にとって、むしろ「本気でドル高を止める気はない」との受け止め方が多数を占めた。ドル/円は上げ足を速め、間もなく2002年12月以来となる高値に上昇した。
今回のドル上昇は、良好な結果となった米消費者物価指数(CPI)や、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が年内利上げに前向きな発言をした点、国際通貨基金(IMF)が日銀に追加緩和を促したことなどが、複合的にドル買い材料と見なされたとされる。
ただ、どれも決定的なドル買い材料とは言い切れない。米長期債の金利はむしろ低下している。
1─3月に弱かった米景気の4月以降の回復シナリオに対し、まだ懐疑的な見方も残っており、足元のドル高は「いかにも上昇ペースが速すぎる」(国内証券)との指摘も根強い。
それでも、上昇テンポが緩まない相場を前にして、こうした弱気派も追随せざるを得なくなっているようだ。「短期的な先高観に自信があるわけでない。ただ、売る理由が見当たらない中では、相場についていくしかない」(国内金融機関)との声が漏れる。
<水準切り上げフローが変化との思惑も>
強気派の読み筋の背景には、先行きのマクロ経済の改善期待に加え、フロー面の変化によるドル高支援への思惑もあるようだ。1)米系金融機関によるポートフォリオ変更の動き、2)日本の実需筋によるドル売り玉の枯渇、3)ユーロ売りによるドル高──が期待できるとの思惑が出ている。
米早期利上げ観測がにわかに高まる中で、日本株や欧州株に投資している年金などの米系投資家の間では、ポートフォリオ変更の必要性が生じてきているという。
米ダウ(.DJI)に対して「さすがに2万ドルは厳しそうだ」(外資系金融機関)と、高値警戒感が強いところ、利上げ観測が強まれば株価にネガティブインパクトが出やすいと警戒されている。
投資家は損失が出れば、穴埋めとして利益の出ている日本株や欧州株に投じた資金を回収するため、ドル買いにつながりやすいとの指摘がある。
一方、日本株や欧州株をヘッジなしで買っていた米系投資家にも、ヘッジをかけるニーズが出てきているという。「新たに日本株を買う投資家からも、為替ヘッジのニーズが出ている」(国内証券)といい、ユーロ/ドル(EUR=EBS)のドル売りとドル/円(JPY=EBS)の円売りのフローが出やすくなる。
日本の財務省がまとめた対内証券投資では、株式・ファンド持ち分への投資は23日までの週で5612億円の買い越しと前週から2倍以上増えており、3週連続の増加となっている。
一方、日本サイドでは、実需筋の要因もある。119円台を軸にしたレンジ推移が4─5月にわたって継続したことから、輸出企業からは、120円に戻した段階で「相当な規模のヤレヤレの売り」(国内金融機関)が出ていた。それだけに、当面はドル売りが出にくいとみられ、目先では、ドル/円の逆風も弱まりやすいと見られる。
輸入企業の間では、一定期間内に122.50円や123円までドルが上昇しなければ100円台でドルを買う権利を得るというような仕組みものの為替予約を利用する動きがあった。
こうした企業は軒並み、急激なドル高で権利を失っており、あらためてドルを調達し直す必要が生じていると見られている。
他通貨の動向も、ドル/円の支援材料として期待される。ユーロはギリシャ関連の先行き不透明感がぬぐえておらず、ユーロ売りの流れが続いている。ユーロ/ドルでのドル買いは、ドル/円を支える要因になりやすい。
ドルの先行きに強気な外資系金融機関の関係者からは「これだけ条件が揃えば、ドル/円はもう一度買いたくなる」との声も漏れる。
<天井はどこか探る短期筋>
短期筋主導のドル買いの流れからは、昨年12月前半にドルが121円台に急上昇した直後、117円台にまで調整が深まった局面を連想する市場参加者もあるが、今回とはやや環境が異なっていそうだ。
当時の上昇では、米雇用統計の発表を間近に控え、強い結果への思惑が強まったことが背景にあった。実際に強い数字が発表されたことで一段高となったが、翌日の米国時間に発表の労働関連指標が弱い数字だったり、原油安・株安となったことで利食い売りが強まったとの経緯があった。
米商品先物取引委員会(CFTC)が発表するIMM通貨先物の取組によると、非商業(投機)部門の円売り越しポジションは、昨年12月2日終了週には一時11万1160枚まで積み上がっており、巻き戻しが出やすかった。
今回の局面では、次回雇用統計まで、まだ1週間の間がある。強い数字となることへの思惑もこれから広がりやすいとみられる。投機筋のポジションも、19日までの週で円の売り越しは2万2005枚と、前週の2万3593枚から減少した。
直近の高値更新の過程では、ストップロスを巻き込んで上昇ペースが速まった面もあり、ショートポジションは拡大余地が残されているとの指摘もある。
目先の材料としては、今週末に米1─3月国内総生産(GDP)の改定値発表を控えている。マネックス証券シニア・ストラテジストの山本雅文氏は、発表前には弱い数字を織り込む動きから、利食い売りが出る可能性があると指摘する。ただ「それは過去の数字であって、トレンドを変える話ではない」とも指摘している。
市場では「ドルの高値警戒感はつきまとうものの、124円や125円で売る理由は何かと問われれば、返答に窮するのも確かだ」(国内金融機関)との指摘が出ている。「天井はどこにあるのか。それを確かめるまでは買わざるを得ない」(国内証券)との声も聞かれ、この先は神経質な展開も想定される。
雇用統計やGDPといった米経済指標で景気回復が確認されるようならドルが一段高となる可能性もあるが、弱さが際立つようなら反落調整も深まりかねない。「節目ごとに、政府のスタンスを見たい。次の節目は125円。さすがに変化が生じるようなら、今度はドル売りだろう」(外銀)との指摘も出ていた。
(平田紀之 編集:田巻一彦)
<売り材料なく「追随せざるを得ない」>
「これはけん制になっていない。マイン(買い)だ」──。前日の海外時間に続いて東京市場でもドルが124円を試そうとじり高となっていた28日正午前、菅義偉官房長官がドル高/円安進行について「急激な為替相場の変動は望ましくない。引き続き注視する」と語ったが、市場のドル買い心理を止める働きは全く見えなかった。
政府からの強いけん制発言を警戒していた市場関係者にとって、むしろ「本気でドル高を止める気はない」との受け止め方が多数を占めた。ドル/円は上げ足を速め、間もなく2002年12月以来となる高値に上昇した。
今回のドル上昇は、良好な結果となった米消費者物価指数(CPI)や、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が年内利上げに前向きな発言をした点、国際通貨基金(IMF)が日銀に追加緩和を促したことなどが、複合的にドル買い材料と見なされたとされる。
ただ、どれも決定的なドル買い材料とは言い切れない。米長期債の金利はむしろ低下している。
1─3月に弱かった米景気の4月以降の回復シナリオに対し、まだ懐疑的な見方も残っており、足元のドル高は「いかにも上昇ペースが速すぎる」(国内証券)との指摘も根強い。
それでも、上昇テンポが緩まない相場を前にして、こうした弱気派も追随せざるを得なくなっているようだ。「短期的な先高観に自信があるわけでない。ただ、売る理由が見当たらない中では、相場についていくしかない」(国内金融機関)との声が漏れる。
<水準切り上げフローが変化との思惑も>
強気派の読み筋の背景には、先行きのマクロ経済の改善期待に加え、フロー面の変化によるドル高支援への思惑もあるようだ。1)米系金融機関によるポートフォリオ変更の動き、2)日本の実需筋によるドル売り玉の枯渇、3)ユーロ売りによるドル高──が期待できるとの思惑が出ている。
米早期利上げ観測がにわかに高まる中で、日本株や欧州株に投資している年金などの米系投資家の間では、ポートフォリオ変更の必要性が生じてきているという。
米ダウ(.DJI)に対して「さすがに2万ドルは厳しそうだ」(外資系金融機関)と、高値警戒感が強いところ、利上げ観測が強まれば株価にネガティブインパクトが出やすいと警戒されている。
投資家は損失が出れば、穴埋めとして利益の出ている日本株や欧州株に投じた資金を回収するため、ドル買いにつながりやすいとの指摘がある。
一方、日本株や欧州株をヘッジなしで買っていた米系投資家にも、ヘッジをかけるニーズが出てきているという。「新たに日本株を買う投資家からも、為替ヘッジのニーズが出ている」(国内証券)といい、ユーロ/ドル(EUR=EBS)のドル売りとドル/円(JPY=EBS)の円売りのフローが出やすくなる。
日本の財務省がまとめた対内証券投資では、株式・ファンド持ち分への投資は23日までの週で5612億円の買い越しと前週から2倍以上増えており、3週連続の増加となっている。
一方、日本サイドでは、実需筋の要因もある。119円台を軸にしたレンジ推移が4─5月にわたって継続したことから、輸出企業からは、120円に戻した段階で「相当な規模のヤレヤレの売り」(国内金融機関)が出ていた。それだけに、当面はドル売りが出にくいとみられ、目先では、ドル/円の逆風も弱まりやすいと見られる。
輸入企業の間では、一定期間内に122.50円や123円までドルが上昇しなければ100円台でドルを買う権利を得るというような仕組みものの為替予約を利用する動きがあった。
こうした企業は軒並み、急激なドル高で権利を失っており、あらためてドルを調達し直す必要が生じていると見られている。
他通貨の動向も、ドル/円の支援材料として期待される。ユーロはギリシャ関連の先行き不透明感がぬぐえておらず、ユーロ売りの流れが続いている。ユーロ/ドルでのドル買いは、ドル/円を支える要因になりやすい。
ドルの先行きに強気な外資系金融機関の関係者からは「これだけ条件が揃えば、ドル/円はもう一度買いたくなる」との声も漏れる。
<天井はどこか探る短期筋>
短期筋主導のドル買いの流れからは、昨年12月前半にドルが121円台に急上昇した直後、117円台にまで調整が深まった局面を連想する市場参加者もあるが、今回とはやや環境が異なっていそうだ。
当時の上昇では、米雇用統計の発表を間近に控え、強い結果への思惑が強まったことが背景にあった。実際に強い数字が発表されたことで一段高となったが、翌日の米国時間に発表の労働関連指標が弱い数字だったり、原油安・株安となったことで利食い売りが強まったとの経緯があった。
米商品先物取引委員会(CFTC)が発表するIMM通貨先物の取組によると、非商業(投機)部門の円売り越しポジションは、昨年12月2日終了週には一時11万1160枚まで積み上がっており、巻き戻しが出やすかった。
今回の局面では、次回雇用統計まで、まだ1週間の間がある。強い数字となることへの思惑もこれから広がりやすいとみられる。投機筋のポジションも、19日までの週で円の売り越しは2万2005枚と、前週の2万3593枚から減少した。
直近の高値更新の過程では、ストップロスを巻き込んで上昇ペースが速まった面もあり、ショートポジションは拡大余地が残されているとの指摘もある。
目先の材料としては、今週末に米1─3月国内総生産(GDP)の改定値発表を控えている。マネックス証券シニア・ストラテジストの山本雅文氏は、発表前には弱い数字を織り込む動きから、利食い売りが出る可能性があると指摘する。ただ「それは過去の数字であって、トレンドを変える話ではない」とも指摘している。
市場では「ドルの高値警戒感はつきまとうものの、124円や125円で売る理由は何かと問われれば、返答に窮するのも確かだ」(国内金融機関)との指摘が出ている。「天井はどこにあるのか。それを確かめるまでは買わざるを得ない」(国内証券)との声も聞かれ、この先は神経質な展開も想定される。
雇用統計やGDPといった米経済指標で景気回復が確認されるようならドルが一段高となる可能性もあるが、弱さが際立つようなら反落調整も深まりかねない。「節目ごとに、政府のスタンスを見たい。次の節目は125円。さすがに変化が生じるようなら、今度はドル売りだろう」(外銀)との指摘も出ていた。
(平田紀之 編集:田巻一彦)