『東京の坂、日本の坂』その133。ずっーと東京23区の坂道を歩いてきたが、かなりネタ切れとなったため、今回は府中市の坂道を歩くことにした。京王線多磨霊園駅を降りて主に府中崖線に沿った坂道を歩く。
多磨霊園駅は初めて降りた。ちなみに以前は西武多摩川線(武蔵境〜是政)に『多磨墓地前』という駅があり、この二つは間違えやすかったが、2001年にこちらは『多磨』と改称したため、今は問題無い。ただし多磨霊園駅からは多磨墓地はかなり遠く、歩ける距離ではない。
多磨霊園駅南口を降りてまっすぐ歩くと東郷寺通りとある。下り坂に差し掛かるが、これが『東郷坂』である。右手に東郷寺の大きな山門が出てくる。坂と寺の名前となっている東郷とは連合艦隊司令長官東郷平八郎のこと、その別荘跡に作られた日蓮宗の寺である。
荘厳な山門は黒澤明監督の映画『羅生門』に登場する門のモデルともなっている。門をくぐると大規模な墓地があるが、寺自体も日露戦争で没した多数の無名兵士の供養として作られたもののようである。
一旦、坂の上まで戻り、セブンイレブンを右に行く道を歩くと、下り坂になる。この坂が『庚申坂』、坂の下には庚申塔が2基祀られている。
そばにある案内板には府中市には同様の庚申塔が23基あるとのこと。周囲はまだ畑が広がり、のんびりとした風情である。
元のセブンイレブンまで戻り、そのまま道を直進、突き当たりを左に行く。弧を描きながら下る坂道が『かなしい坂』。坂道を随分と歩いてきたが、坂道の名前に嬉しいとか悲しい、楽しいなどという感情が入っていたことはなく、坂の名前だけ聞くと明治以降にできた新しい坂道かなと思った。
しかし、その由来は江戸時代に玉川上水建設の際、工事で失敗をした役人が責任を取り、処刑された。その際に役人が『かなしい』と嘆いたことからこの名前がついたという。坂の名前には悲劇が隠されていたのである。
『かなしい坂』を下って行くと先程の『東郷坂』に合流、少し先まで歩く。パス通りの手前を右に曲がり、崖線に沿った細い道を歩く。
右側は東郷寺の敷地であり、その下を行く。広い道を立体交差で越えると二又。左側の細い道が『まむし坂』となる。細い道はまさにまむしでも出そうな薮の中を行く。
右手に神社の階段が見えてくるが、これが瀧神社。崖線の下に水が湧く場所にあり、かつて干魃の際にも水が枯れなかったと言われていて小さな池がある。
左側に並行する広い道に出る。すると道が緩く左にくの字に曲がる上って降りる坂となるが、これが『なるい坂』。道路の改修で以前とは道すじが変わってしまっているらしい。(以下、次回)