わたしの娘は乗り物に弱い。車酔いはもちろん、船も、飛行機もいけない。だから修学旅行に送り出すときなど、酔い止め薬をたっぷり持たせてやることになる。
土曜日に部活をおえて帰ってきた娘に
「行くか映画館に?お兄ちゃんが『サブウェイ123』を観たがってるんだけど」
と誘うと
「うーん……行こうかな」渋々、という感じ。
「あたし、サスペンス苦手なんだー」
「まあそう言わずに。たまにはいいじゃないか」悪魔のような父親。
デンゼル・ワシントンが(体重を増やすなどして)“ごく普通の、弱みもある”地下鉄職員を熱演し、狂気のハイジャッカーをジョン・トラボルタ。二大俳優の競演に「激突」というサブタイトルはふさわしい。
ハイジャックされた地下鉄の車両が微動だにしないかわりに、パトカーは吹っ飛び、銃弾は乗客や犯人たちの肉を切り裂き、クルマのドアをこそげ落とすほどのリアルな描写に
「お、おとうさん。あたし、酔ってきた」ひー、映画でも酔うかこの娘はっ!
オリジナルの「サブウェイ・パニック」(1974)は、パニック映画全盛の頃だからそんなタイトルになっているが、原題は「The Taking of Pelham 123」(ペラム123号強奪)。同時に「踊る大捜査線」のスピンオフ「交渉人 真下正義」の元ネタにもなっている。ウォルター・マッソーとロバート・ショウの頭脳合戦。思わず「やるなー」とうならせるラストが待っているのでぜひ観てね。
リメイク版は少し肌合いが違って、主役ふたりが背負っているものの重さがそのままストーリーの核になっている。オリジナルでは、追いつめられたロバート・ショウがウォルター・マッソーに分け前をやるから逃がせと迫る。返すことばが最高だった。
「今年度分の賄賂は、もう締め切った。」
リメイク版では、このやり取りをうまくひっくり返して使っている。これはこれで、みごとな出来だと思う。唯一不思議なのは、この作品がアメリカではヒットしなかったということなのだ。ひょっとして、アメリカ人もクルマに弱いか?