前編はこちら。
エイドリアンの犯行には、実は穴も多い。彼は窒息死した弟を、ダイビング中の事故で亡くなったように偽装する。しかし海中で岩に頭をぶつけたのと、電話機で殴られた違いが(いかに昔のこととはいえ)検死で判明しないものだろうか。
弟のフェラーリを海岸線に放置するときに、幌の上げ下げよりも、エイドリアンがニューヨークに行っているあいだ、誰にも目撃されないことの方の心配をするべきではなかったか。たとえ「めったに人が行かない場所」なのだとしても。
また、あることのためにコロンボはエイドリアンのワインを一本パクッちゃうんだけど、それはいくらなんでも(笑)。そして、最後までこの事件には物証というものが存在しない。
しかし、そんなのは些末なことだ。「別れのワイン」が名作たりえたのはここからなのである。
女性秘書カレンは、十数年にわたって仕えてきたエイドリアンを尊敬し、そして愛している。彼女はエイドリアンのために偽証を行い、代償として結婚を迫る。
「愛情は強制によって生まれるものじゃないよ、カレン」
「多分そうね。でも愛がなくても結婚はできるわ。つまらない理由で結婚する人はたくさんいるわ。」
……たしか中学生の頃に初めて観たときは唸りましたね。誇り高き独身主義者の矜持をみた思い。
「刑務所は、結婚よりも自由かも知れませんな」
そしてそれ以上に、エイドリアンが物証なき犯罪を自供したのは、ある理由で「自分レベルのワイン愛好者以外には絶対に犯罪を立証できない」からなのだ。ここはおみごと。
連行するコロンボは、尊敬すべき犯罪者だったエイドリアンにデザートワインをふるまう。そのワインの選択に「よく、勉強されましたな。」とコロンボに静かな賞賛を送るエイドリアン。シリーズを通しても屈指の名シーン。田舎の中学生でも、フルボトル飲みたくなったほど。
Vol.20「野望の果て」につづく。