読みおえてジッと考える。いつかブロックの作品を読めなくなるときがやってくるのかと。
現代短篇の名手たち、と題されたシリーズの第7弾。ドナルド・E・ウェストレイクに続いてみごとなアンソロジーだ。マット・スカダー、殺し屋ケラー、泥棒バーニィという強力なラインナップを誇るブロックは、しかし短篇小説の達人でもある。彼の短編集「おかしなことを聞くね」「バランスが肝心」を読んだときの至福は忘れられない。
ということで初訳もたっぷりのこの一冊も宝物のようだった。スポーツに題材をとった「ほぼパーフェクト」「ポイント」、ダークな味わいの「三人まとめてサイドポケットに」「やりかけたことは」、ポルノの書き手としても練達であることを知らしめる「情欲について話せば」(まるでアシモフの「黒後家蜘蛛の会」のよう)、そしてマット・スカダーとエレインの会話が光る「ブッチャーとのデート」「レッツ・ゲット・ロスト」「おかしな考えを抱くとき」……すごい。
スカダーとエレインという、元アル中探偵と元娼婦が過ごすニューヨークの一夜を描いた「夜と音楽と」にいたっては、どんな都市小説よりもニューヨークを感じさせる。
「レッツ・ゲット・ロスト」におけるチェット・ベイカーの描写など、はたしてブロック以外のどんな作家が達成できるだろう。いつまでも、彼の作品を読んでいたい。
「……甘い声を持ち、さらに甘いトランペットを聞かせてくれたチェットの逝き方はあまりに突然だった。ヨーロッパのどこかのホテルの窓から飛び降りたのだ。多くの人がそれは彼がひとりでやったことではないと思ったようだが。彼は多くの人間を裏切りながらも、そのしっぺ返しからはそれまでうまく逃れていた。しかし、そういうことはたいてい同じ結末を迎える。人はすべての弾丸(たま)をよけることができても、最後の弾丸だけはよけられない。」