正真正銘の小野不由美の新作。彼女は「残穢(ざんえ)」で“不動産怪談”(笑)という新ジャンルを切りひらき、山本周五郎賞を受賞している。めでたい。
でもあの本を選んだということは、審査員たちも途中で「あわわわ。」と本を放り出さなかったのかしら。あの仕掛けは怖かったなあ。
この新作は、「鬼談百景」のシンプルさと、「残穢」のたくらみがミックスされた味わい。古い城下町(モデルは小野の出身地である中津市らしい)における、日本家屋に住まう女性たちが遭遇する静かな恐怖譚。
お父さんが建築士だった小野は、家屋の専門用語を散りばめながら、生活のためにその恐怖と対峙しなければならない現実も同時に描き、奇想天外なだけの怪談にしていない。
彼女たちを救うのが、およそゴーストハンターとは思えない普通のお兄ちゃん。「営繕屋かるかや」を名のる彼は、家の障り(さわり)を、現実的な大工の手法で解決していく。いろんな意味でビフォー&アフターなの。
静かに訪れる恐怖の源について、小野はその来歴をほとんど語らない。ただ、そこには何らかの無念があるのであろうと示唆するだけ。なるほど、これも一手だなあ。わたしが好きなのは、家のいたるところに見知らぬ老人が見えてしまう「異形のひと」。主人公(女子高生です)の邪悪さをうっすらと糾弾する展開がすばらしい。
さて、小野といえばなんといっても「十二国記」。版元の新潮社から昨年末に告知があり、最新長篇はもう千枚を超えているんですって。おいおいこのままだと「屍鬼」(単行本上下巻、文庫全5巻)超えか?うれしいけど(笑)