政財界(そして球界)のオモテと裏で活躍し、ラッパと称されるほどの大言壮語で知られた永田雅一は、大映の倒産とともに映画界から身を引いて……と思ったら76年にこの大作をひっさげてカムバック。わたしが高校生のころで、彼の復活は映画界の一大ニュースだった。
主演に起用されたのは高倉健。この選択は意外。東映やくざ映画が低迷し、彼自身も「ゴルゴ13」、「ザ・ヤクザ」(ワーナー作品です)、「新幹線大爆破」、勝新太郎と組んだ「無宿(やどなし)」で映像派の斎藤耕一を起用、といったよく言えば新機軸、悪くいえば健さんがあえいでいた時期だったので。
この大博打は吉と出た。なんだかわからないけど面白そうな雰囲気があったので、若いころのわたしも港座に行って鑑賞。東映封切館だった中央座ではない小屋で健さんを見るのもおつなものでした。そして、日本映画が解禁された中国で歴史的大ヒット。だから中国においても高倉健はとてつもない大スターなのだ(共演の中野良子も)。
にしても、出来はかなり粗い(笑)。罠にはまって逃亡することになった検事が健さん。この罠がなかなかにずさんで、しかもエリートであるはずの検事正(池部良)は簡単に健さんが犯人だと断定してしまう。これってひょっとして検事正も陰謀にからんでいるのかな?と思うくらい。罠をかけるのが田中邦衛と伊佐山ひろ子だという時点ですでにうれしいですが。
逃亡した健さんを追いつめるのが刑事の原田芳雄。これがね、最高です。ふてぶてしさの陰にユーモアたっぷり。健さんは逃亡先の北海道で熊と遭遇し、助けを求めていた大金持ちの令嬢を救って……どこのハーレクインですか(原作は西村寿行)。
しかし後半、陰謀の舞台である精神病院に健さんが潜入して、のあたりから危なくなる。これってきっと現在ではテレビ放映できないんじゃないだろうか。しかも最後の最後に原田芳雄は黒幕を射殺してしまう!
いやー、これってカルトですか。永田ラッパが画面から聞こえてきそう。とにかく面白い映画をつくろうとした気概が横溢。破綻しているとはいえ、だからこそめちゃめちゃ面白いです。(薬物で)呆けた(ふりの)健さんってのも、他ではまず見ることができません。
にしても、日本人は一種のシャレとして楽しめるけれど、この作品の健さんのどこに偉大なる人民は熱狂したんだろう(笑)。